閑話⑪ 3 フレネイアの心変わり(※)
※(注)引き続き変態男が登場しています。
苦手な方はご注意ください。
(フレネイアside)
正義の仮面を名乗る不審者をおびき出すために学園中に決闘の告知を行ったことで見事誘い出すことに成功しましたわ。
後はこの男を捕らえて素性を暴くだけですわね。
「全員で取り囲みなさい! 絶対に逃してはなりませんよ」
わたくしの指示で、修練場内の風紀委員メンバーが男を取り囲みます。
風紀委員メンバーは修練場内に20人以上います。
しかも全員がレイさんやアイラさんの特訓を受けているのでレベルが30を超えていますわ。
「さあ、どこからでもかかって来なさい」
男は取り囲まれても怯むことなく構えを取りました。逆に風紀委員メンバーのほとんどが女生徒なので裸同然の男に少し怯んでいますわね。
怯んでいるというより、男性の裸を興味津々に見ている者も······。
「そのような男に惑わされるんじゃありませんわよ! 一斉に魔法を放ちなさい!」
わたくしの指示を受けて全員が魔力を集中しましたわ。そして一斉に魔法を放ちました。
逃げ場のない男に魔法が直撃しましたわ。
「それで終わりですかな?」
男は無傷でした。信じられませんわ。
あれだけの魔法を受けたというのに······。
これには風紀委員メンバー達も驚愕しています。
「パラライズ」
そのスキを突いて男が魔法を放ちました。
「きゃっ!?」「ああっ!?」「うあっ!」
男を取り囲んでいたメンバー全員が麻痺状態にされ動けなくなりました。
あの人数を一瞬で······。
本当に何者ですの、この男は!?
これだけの実力があるのなら正体は名の売れた人物の可能性が高いですわね。
いえ、今はそれよりも············。
「バーストフレア!!」
わたくしは男に向けて魔法を放ちました。
わたくしの得意魔法は「炎」です。
ミア姉様のように「聖」属性は扱えませんが、得意魔法ならば姉様を上回りますのよ!
「はぁっ!!」
男が片手を前に出すと、わたくしの放った「炎」を受け止めていとも簡単に消してしまいました。
わたくしはさらに連続で魔法を放ちましたが、そのすべてを防がれてしまいました。
あまりにもレベルが違い過ぎますわ······。
今ので実力差を思い知らされてしまいました。
まさかこれ程に強いなんて······。
もし、これだけの力を持つこの男が悪人ならば学園はきっと大変なことになっていたでしょう。
そうでないということはこの男が善人だと証明されている気がしますわね。
しかし、決闘の勝敗とは話は別ですわ。
わたくしはまだ諦めてはいませんわよ!
わたくしはフェニアさんから借りた魔道具を取り出しました。
(魔力球)
これは魔力を貯めることが出来る魔道具です。
貯めた魔力は自身に上乗せして使うことが出来るのです。(魔力球)1つでわたくしの魔力は倍以上になりますわ。
フェニアさんから5つ借りましたからすべて使って見せますわ!
「熱き衝動を胸に、深淵より灼熱の業火を······」
わたくしは魔法の詠唱を始めます。
わたくしの使える最高の魔法を最大限まで魔力を高めて放ちますわ。
この男なら死ぬことはないでしょう。
「············あら? 魔力がうまく集中できな······」
(魔力球)から受ける魔力が強すぎて魔法の制御がうまく出来ませんわ······!?
フェニアさんは簡単に扱っていたように見えましたのに、こんなに制御が難しいんですの!?
ま、マズいですわ······。このままですと······。
――――――――!!!!!
「きゃああっ!!?」
魔法が暴発してわたくしの周囲が「炎」に包まれました。
火の勢いが強すぎて逃げ場が······!?
「落ち着きなさい、お嬢さん!」
「炎」に包まれパニックになる寸前だったわたくしを男が飛び込んできて抱きかかえました。
こ、これはお姫様だっこというやつでは······!?
近い、近いですわ······!?
男のたくましい身体が直にわたくしを······。
「あ、あの······わたくしに何を」
このままではあなたまで「炎」に呑まれてしまいますわよ!?
「落ち着き、ゆっくりと魔力を抑えるのです。貴女になら出来るはずです」
男の言葉を受けてパニックになりかけていた頭が冷えてきましたわ。
そうです、これはわたくしの魔力の「炎」なのですから冷静に制御すれば······。
落ち着き、自身の魔力を抑えます。
「炎」は徐々に消えていきました。
「そうです。やれば出来るではないですか」
男はゆっくりと抱えていたわたくしを降ろしました。この方に助けられましたわね······。
床に降ろされましたが、腰が抜けてしまい立ち上がれませんわ。
「あ、ありがとうございます······」
魔法の制御を誤り、暴発させてしまうなんて······。
これはもう負けを認めるしかありませんわね。
この方が助けてくれなければわたくしは今頃······。
そ、それにしても男性の身体ってあんなにもたくましいものなのですね······。
ドキドキが止まりませんわ。
「わたくしの負けを認めますわ。もうわたくしに勝ち目はありませんもの」
今ので魔力が尽きてしまいました。
腰が抜けているのもありますが、魔力切れでもう動くこともできません。
ですが、不思議と晴ればれとした気分ですわね。
身を挺してわたくしを助けてくれたこの方が悪い人のわけありませんよね。
これは認めるしかありませんわ。
「では最後に私のお仕置きで締めさせていただきましょう。覚悟はよろしいですかな?」
そういえばわたくしを特別なお仕置きで改心させると言っていましたわね。
そんなことをしなくとも、もうすでにこの方を認めてしまっていますけど。
ですが、あのミア姉様の考えを改めさせたほどのお仕置き······。
正直、ちょっと怖いですけど興味がありますわ。
「ええ、良いですわよ。煮るなり焼くなり好きにしてくださいませ」
強がった口調でわたくしは言いました。
一体この方に何をされるのでしょうか?
なんだかさらにドキドキしてきてしまいましたわ。
男はゆっくりとわたくしの方に近付いてきます。
腰が抜けて座り込んでいるため、丁度この方の、男性の大切な部分がわたくしの目の前に······。
「あ、あの······? 何をされるつもりなのでしょうか······?」
わたくしの困惑したつぶやきに答えずにどんどん距離を縮めてきます。
え······も、もしかして······。
ま、待ってください······?
それ以上近付かれますとそれが顔に当た············。
(リイネside)
修練場の建物の前には多くの生徒が集まっていた。昨日はフレネイアが例の男に対して決闘の告知をしていたからな。
とはいえ修練場は閉め切られていて、外からでは中の様子がわからない。
あの男は現れたのだろうか?
「きゃああああっっっ!!!???」
建物の中から凄まじい悲鳴が響いてきた。
この声はフレネイアのものだ。
何事だ!? 尋常ではない叫び声だったが。
「どいてくれ! 中へ入らせてもらうぞ」
周囲の生徒を押しのけて建物の中へと入った。
フレネイアの声は聞こえなくなり、他の風紀委員メンバーと思われる騒ぎ声が響いている。
何が起きた? 例の男が現れたのか?
······しかし今のフレネイアの悲鳴、少し嬉しそうな響きに聞こえたのは気のせいだろうか?
修練場に入り、わたしの目に飛び込んできたものは······。
「これはリイネ様ですか。たった今、彼女達との決闘の決着が着いたところです」
修練場の中心に居たのは正義の仮面を名乗る例の男だった。
周囲にいる風紀委員メンバーは身体が動かせないようで意識はあるが皆、倒れ伏している。
そしてフレネイアは············。
「彼女は素直に負けを認め、私のことも認めてくれました。今はこの通り私のお仕置きを受け、おとなしくしています」
······確かにフレネイアはおとなしくしている。
この男の下半身でとても口にはできない状態で······。
「························」
あまりの光景に言葉が出ない。
倒れ伏している風紀委員メンバーもわたしと同じ様子だ。
一体どんな決闘をすればそんなことになる!?
「では私はこれで失礼します」
フレネイアの介抱をわたしに託して男は去っていった。あっという間だったためあの男を引き止めることもできなかった。
「だ、男性の············たくましい······。ふふっ······ふふふっ······」
フレネイアは気を失っている状態だ。
怪我などはしていないようだが大丈夫だろうか?
あの男にあんなことをされて主に精神的に······。
わたしが同じことをされたら正気を保てる自信はない。
フレネイアは一方的にあの男を敵視していたとはいえあのようなことをするとは······。
やはり騎士団を総動員してでもあの男を捕えるべきだろうか?
後日、フレネイアは目立った後遺症もなく普通に学園に登校していた。
しかし············。
「リイネ様、わたくしあの方を誤解していましたわ。あの方は決して悪意ある人物ではありませんわよ」
フレネイアの考えが180度変わって例の男を完全に認めてしまっていた。
生真面目なフレネイアなら正式な決闘に敗れれば嫌々ながらも男の存在を認めることはあり得ると思っていたが、どう見ても嫌々ではない。
本心からの言葉のようだ。
············あんなことをされたはずなのに何故だ?
誤解どころかあの男を危険人物だと確信するに至る出来事だと思ったが。
そんなフレネイアが認めるということはあの男は危険人物ではないと判断していいのか?
別の意味で危険な気がするが。
やはりアイラ達に相談してわたし自身が見極めるべきかもしれないな。
ちなみにその後、フレネイアは何故かフェニアと意気投合して何やら色々と話し合っていた。
わたしは興味はあったが何を話していたのかは詳しく聞かなかった。
············内容を聞くのが少し怖かったのでな。




