閑話⑪ 1 聖女の妹、フレネイア
この話は少し時間が戻って、まだ学園地下迷宮攻略前、本編153話辺りのエピソードになります。
タイミングが合わず入れそびれていた話です。
(リイネside)
わたしは学園の風紀を取り締まる長の立場にいる。
まあ、長と言ってもわたし自身は名を置いているだけでほとんど活動に関わらないのだが。
王女という立場のためか、わたしの名があるだけで取り締まりに効果があるらしい。
別に悪用されているわけでもないので容認しているわけだが。
「リイネ様! 即刻、例の男を捕えるべきですわよ!」
短めの金髪、凛とした目付きで容姿の整った女生徒が力強く言った。
わたしにそう訴えてきたのは同じ特別クラスの生徒であるフレネイアだ。
彼女は風紀委員の副長であり、実質の長だ。
フレネイア=セントラール。
聖女アルケミアの妹でカリスマ性もあり、学園の問題をいくつも解決しているという実績がある。
顔立ちも姉妹のためか聖女アルケミアとよく似ている。
風紀委員のメンバーも半数以上が彼女を慕う生徒で固められている。
男子生徒からの人気はもちろんだが、女生徒からの人気も高い。
「学園の風紀を守るためにもあのような男の存在を許してはいけませんわ!」
フレネイアの言う例の男とは最近、学園内に出没している正義の仮面を名乗る謎の男のことだ。
······まあ、フレネイアの言いたいこともわかる。
わたしもあの男をどうするべきか悩んでいるからな。しかし、あの男は正義を名乗るだけあってそれなりの活躍を見せている。
あの男に好意的な生徒が少なからずいるのも事実だ。
「正義の仮面だか知りませんが、わたくしはまだ見たことありませんけど素顔を隠し、裸同然の格好をしているそうじゃないですか。そんな男はただの変質者ですわよ!」
············そうなのだ。あの男の格好は問題だ。
黒いマスクで顔を隠し、身体はほぼ裸······。
正体不明の者が学園内に自由に出没しているのは見過ごせない問題なのだが。
情けない話だがわたしには打つ手が無いのが現状だ。
ここはフレネイアの好きにさせてみようと思う。
わたしはフレネイアに風紀委員の権限を好きに使っていいと許可を出した。
(フレネイアside)
わたくしはフレネイア=セントラール。
貴族の中でも特に名門と言われるセントラール家の三女ですわよ。
わたくしの上には二人の姉が居り、次女のミア姉様は聖女という名誉ある立場にいますわ。
長女のセナ姉様も立派な方ですし、わたくしも負けてはいられませんわね。
今、わたくしがやるべきことは我が学園に出没する正義の仮面を名乗る謎の男を捕えることですわ。
不審者は入り込めないはずの学園に平然と侵入する不届き者。
警備に問題点も見当たらず、どうやって学園に出入りしているのかまったく不明だそうですわ。
本来ならすぐにでも捕えるべきなのですが、その男が初めて目撃された時には実験棟が火事になり、取り残された生徒を助け出し、火を消し止めたそうです。
他にも学園のためになる働きをしているそうですわ。学園外でも活躍した話を聞きますからね。
だからといって不審者を放置するなんて出来ませんわよ!
わたくしは風紀委員のメンバーを集め、あの男を捕えるべく動きますわ。
「しかしフレネイアさん······、あの方······いえ、あの男は悪いことはしていませんが······」
「私はあの男に助けてもらいました。······あの男らしい身体······素顔が確かに気になりますけど」
風紀委員の中にもあの男に助けられ、好意的に見てる者が何人かいますわね······。
目を覚ましなさいな!
その男はただの不審者ですわよ!?
「正体不明の男をこれ以上野放しにするわけにはいきませんのよ! 正体だけでも暴くべきですわ!」
まったく······このままではここの皆まで不審者の存在を認めかねませんわ。
本当に正義の存在なら、何故顔を隠すのです。
しかも裸同然の格好で······訳がわかりませんわ。
しかし、問題の男は目立つ格好をしているにも関わらず、まったく足取りが掴めませんわ。
姿を見せれば嫌でも目に付きますが、普段はどこに潜んでいるのか皆目見当がつきません。
わたくしは風紀委員のメンバーだけでなく、我が特別クラスのクラスメイトにも協力を頼みました。
「正義の仮面、ああ······あの珍妙な格好をした人物でありますか」
特別クラスにはミア姉様と同じ聖女であるルナシェアさんが在籍しています。
聖女であることを伏せてルナと名乗っていますが皆にバレバレなんですよね。
あえて指摘はしませんけど。
ルナシェアさんは問題の男と会ったことがあるみたいですわね。
そういえばミア姉様からも何やら関わったという話を聞いたような······?
「あの男は女の敵です。わたしも出来る限り協力します、フレネイアさん!」
ルナシェアさんの護衛役であるリンさんが喰い付くように言いました。
リンさんとは以前から面識があります。
確かリンさんは男嫌いだということでしたので問題の男を敵視していますわ。
「いえ、フレネイアさん。あの方は素晴らしい方ですわよ。決して悪人などではありませんわ」
クラスメイトのフェニアさんはそんなことを言いました。フェニアさんも問題の男を見たことあるようですわね。
何故かリンさんとは逆に男を絶賛していますが。
何かあったのかしら?
「ああ······ですが確かにあの方の素顔を拝見したいですわね。わかりましたわ、フレネイアさん。アタクシからも情報を集めてみますわよ。フィレ、セレミ、レミーネ! あなた達も協力なさい」
「「「はい、フェニア様!」」」
······まあ、若干不安ですがフェニアさん達の協力も得られましたわね。
「え、学園に現れる変質者の情報集めに協力してほしい?」
クラスメイトの男子生徒にも何人かに声をかけました。
今、話をしてるのはレイさんという最近このクラスに途中入学してきた方です。
国王様から何か特別な依頼を受けてこの学園にやってきたという話でしたわね。
もう一人、アイラさんという方と一緒に入ってきましたのよね。
パーティーを組んだ者の成長を促進させるスキルを持っているらしく、それによってこのクラスの平均レベルが大きく上がっていますわ。
わたくしもすでにレベル50に到達しそうなくらいに上がりました。
彼らの噂は学園中に広まっていて特別クラス以外の方もレベル上げを希望しているそうですわ。
我が風紀委員メンバーもすでにその指導を受けていますのよ。
レイさんもアイラさんもわたくしから見てもとても好感の持てる人物ですし、二人とも男女関係なく人気がありますわ。
特にレイさんは女生徒に人気があるようですが。
まあ、その気持ちもわかりますわね。
レイさんはさり気なく優しいですし顔立ちも整っていますから。
優しく笑いかけてくる表情は反則だと思いますわよ。
「ええ、正義の仮面を名乗る不審者ですわ。レイさんは何か知りませんか?」
「いや、悪いけどオレは詳しくは······」
レイさんも不審者については知らないようですわね。
レイさんにも不審者探しの協力をお願いしておきましたわ。