勇者(候補)ユウの冒険章⑥ 10 迷宮攻略の報告
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守護者を倒したことで、ユウ達は迷宮から脱出することができた。
周囲の光が消えると、トライヒートマウンテンの頂上に戻ってきていた。
「クアアーーッ!!!」
迷宮を脱出したユウ達を出迎えるように、霊獣カオスレイヴンが鳴き声をあげた。
「心配かけたな。もう大丈夫だ」
ジャネンが霊獣を宥める。
山の頂上に充満していた邪気はすっかり消えており、先ほどとは打って変わって、幻想的な美しい景色が展望できた。
「············すずしい」
「本当ですねぇ、迷宮の中は暑すぎでしたよぉ」
マティアとミリィが汗を拭った。
山の頂上はそれほど暑くなく、今までいた迷宮に比べれば天国に思えた。
「ジャネン、最後に小さな瓶を取り出して、何をやってたのよ?」
「迷宮が消える前に特異点······邪気を回収させてもらった。迷宮を作り出せるほどの邪気だからな、予想以上の成果だ」
テリアの問いにジャネンが答える。
ジャネンの持つ瓶には、ドス黒い霧のような物が入っていた。
「これで冥界の神様からの依頼は達成できたの?」
「いや、最低でも3つ分は回収してくるように仰せつかっている」
ユウがそう言うと、ジャネンは同じような瓶をいくつも取り出した。
今、邪気を回収した瓶以外は何も入っていない。
「本当に人使いが荒くない? 冥界の神って。ジャネン一人にこんなことをさせるなんて」
「今回の使命は某の方から志願したんだ。少しでも、あの方の力になりたくてな······」
「ジャネンは本当に冥界の神様を尊敬してるんだね」
ジャネンにも色々と事情があるようだ。
「ユウ、出来ればそのダンジョンコアも某に譲って欲しいのだが······。それは我が神が、今もっとも必要としている物だからな」
「この紅い宝石だね。ぼくは構わないよ」
「······自分で言っておいてなんだが、そんなあっさり渡していいのか? ダンジョンコアは滅多に手に入らない、貴重な代物なのだが」
「もともとジャネンの力になりたくてやってたんだしね。それに、ぼくはジャネンから借りた魔剣を壊しちゃったから、そのお詫びだと思ってよ」
「魔剣ナイトメアのことか。そういえば、そんなこともあったな」
ジャネンは苦笑いをうかべながら、ユウからダンジョンコアを受け取った。
「あ、ジャネンの笑った顔、初めて見た気がするよ。やっぱり女の子は笑顔が一番だね」
「············っ!? 何を言って······」
「ねえ、もっととびきりの笑顔を見せてよ?」
「ば、ばかなことを言ってないで、早く龍人族の町に戻るぞ! 報告は必要だろう!」
照れ隠しをするようにジャネンが言う。
ユウ達は来た時のように霊獣カオスレイヴンの背に乗り、龍人族の町に向かった。
「おおっ、皆、無事か!? セーラ殿達から話を聞いて心配してたのだぞ!」
龍人族の町、龍王の城で最初に出迎えてくれたのはシャルルアだ。
シャルルアの後ろには聖女セーラ達の姿もある。
「ルルも神子の試練ってのは終わったの?」
「うむ、バッチリじゃ! これで残す試練は2つになり、妾が正式な神子となるのも、もうすぐじゃ!」
ユウの問いに胸を張って答える。
シャルルアも、龍神の試練を見事達成したようだ。
「無事で何よりです、ユウ君、皆さんも」
セーラも安心した表情でそう言った。
リンやエンジェにも、それぞれ声をかけられた。
「目覚めてすぐに出ていったと聞いたが、心配は無用だったようだな。小さき勇者よ」
豪華な衣装を身に纏った男性がユウに言った。
若々しい顔立ちだが、威厳ある雰囲気を持つ男性だ。
「え〜と、どちら様?」
「ば、ばか、ユウ! この人は龍王様よ!」
「龍王さん?」
首を傾げるユウに慌ててテリアが言う。
「人の姿では初めてだったな。私が龍人族を束ねる王だ」
龍王が改めて名乗った。
初めて見る人の姿の龍王にユウも驚いている。
「龍王さん、もう身体は大丈夫なの?」
「ふふふっ、私は神将に無理に力を抑え込まれていただけだ。主の方がよほど重症だったろう?」
「ぼくはもう大丈夫。すっかり回復して、すごく調子がいいくらいだよ」
龍人族の王を前にしても、ユウは緊張した様子を見せず、普通に会話している。
あまりに馴れ馴れしい態度に、テリアがさらに慌てた。
「ユウ! 龍王様にそんな言葉遣いで······」
「よい。我が国を救った英雄だ。私の方が頭を下げなければならぬくらいだ」
龍王が笑いながら言う。
ユウの態度を不快に思っている様子は微塵もない。
「そちらの冥界の神子殿にも世話になった。改めて礼を言わせてもらおう」
龍王はジャネンの方に目を向けた。
「某は我が神の命に従ったまで。礼なら加護をすでに受け取っている、それで充分だ」
龍王の言葉にジャネンは、無表情で淡々と答えた。
ユウ達は神将との決戦前に龍王の加護を受けていて、ジャネンもその時に授かっていた。
「············あせをながしたい」
「迷宮のせいで、身体中が汗でベトベトですよぉ」
積もる話も色々あるが、それよりもまず城の中にあるという温泉に入りたいと、マティアとミリィが主張した。
「シャルルアよ、主も龍神様の試練で疲れているだろう? 小さき勇者殿達を案内して共に入ってくるとよい」
「心得ました、龍王様。さあ、ユウとジャネンは初めてじゃったな。我が国自慢の温泉に案内しようぞ」
龍王は快く了承し、シャルルアがユウ達の案内を引き受けた。