37 魔物の変異種
グレンダさん達と顔を合わせてから十日が経った。あれから領主三兄妹は毎日のように第三地区に来ていた。
グレンダさんとミウネーレは、オレの中の貴族のイメージと違い、平民に対しても横柄な態度を取らない。
ユーリも初めは生意気そうだと思ったが、アイラ姉の教育が効いて大分素直になっている。
けどシノブに対する対抗心は相変わらずだが。
それはそれとして、今日はセーラの指名依頼を受けることになった。
なんでもオークガイアを倒した周囲で邪気溜まりが発生した反応があったとか。
オークガイアは聖女のセーラがトドメを刺し、邪気の発生は防いだと思ってたんだが、駄目だったのかな?
まあ、あの場にはオークガイアだけでなく数万のオークにハイオーク、グレートオークもいたんだ。
そのすべてをセーラが倒したわけじゃない。
というわけでオレ達は邪気溜まりの反応の場所まで向かっている。
オレの転移魔法を使えば一瞬でオークガイアを倒した場所まで行くことは可能だが、この場にはオレとシノブ、アイラ姉、セーラにリン、そしてグレンダさん、ミウネーレ、ユーリもいる。
セーラとリンには見せたが転移魔法は一般的ではないようなので、グレンダさん達の前では自重することにした。
別にグレンダさん達を信用してないわけじゃないが念のためだ。
大した距離でもないので特に問題も無いだろう。
魔物が出ればレベル上げになるしね。
この辺りの魔物はレベル5~15くらいの雑魚ばかりだが、オレ達のスキルで獲得経験値2000倍状態だから充分なレベル上げになるだろう。
「真空斬っ!!」
グレンダさんの剣技で魔物を切り伏せた。
グレンダさんはスキル(騎士の剣術)を持っているためゲームのような色々な剣技が使えるようだ。
アイラ姉もグレンダさんに剣技を習っていたらしく(騎士の剣術)スキルを手に入れていた。
············ただでさえ強いアイラ姉の剣術がさらに冴え渡ってしまった。
ミウネーレとユーリも問題無く戦えている。
ここまででミウネーレはレベル39まで上がっていた。ユーリはすでに30を超えている。
セーラとリンは最早心配することもないだろう。
「ユーリ殿、少し前に出すぎでござるよ」
「······大丈夫です。余計な心配しないで下さい」
ユーリはまだシノブに対抗心があるせいか、態度が素直じゃないな。
ユーリももうシノブの実力は認めているだろうけど、プライドで負けを認められないのだろう。
そんな感じだが、一応は問題無く進んでいる。
オークガイアを倒した場所まで着いた。
見回した感じ、特に何かあるわけではない。
「邪気の反応はこの先のようです············」
セーラが何かを感じ取ったようだ。
邪気溜まりとやらの発生原因はオークガイアじゃなかったのかな?
そこから先に進むと明らかに雰囲気が変わった。
「みんな、この先は特に気を引き締めて進むぞ」
アイラ姉の言葉に全員が頷く。
周囲が第三地区を蝕んでいた邪気をさらに濃くしたような気配になっていた。
「グモオオッ······」
さらに進むとオークが現れた。
いや、普通のオークじゃないな。
[デビルオーク] レベル45
〈体力〉1550/1550
〈力〉580〈敏捷〉330〈魔力〉0
〈スキル〉
(邪気吸収)(狂化)
禍々しいオーラのようなものを出した明らかに普通じゃないオーク。
そんなオークが次々と現れた。
20~30体くらいかな。
お、メニュー画面の魔物の名前をクリックしたら詳細が見れたぞ。
[デビルオーク]
大量の邪気を吸収し、変質したオークの変異種。
自我を失い、死の恐怖を感じずに目の前の敵を喰らう。
やはり普通のオークじゃなかった。
グレートオーク程強くはないがハイオークよりは強い。
セーラ、リン、グレンダさんはともかく、ミウネーレとユーリには厳しい相手だ。
「デビルオーク······気をつけて下さい! この魔物は目の前の相手を無差別に襲います」
セーラが言う。
「滅多に現れない変異種がこんなに······。やはり何か異変が起きているようだな」
グレンダさんが剣を構える。
「セーラ殿、ミウネーレ、ユーリは下がれっ!! レイ、シノブ、グレンダ殿、リン殿、一気に蹴散らすぞ!」
アイラ姉の指示に皆が従う。
「セーラ様はミウさんとユーリ君と一緒に下がってください! ここはわたし達が引き受けます!」
リンが大剣を振りデビルオークを斬り倒していく。
アイラ姉とシノブ、グレンダさんも次々とデビルオークを倒していく。
変異種ってのは滅多に現れない特殊個体らしいけどオレ達の敵じゃないな。
デビルオーク達が現れた奥に黒い霧のようなモヤがあった。
どうやらあれが邪気溜まりのようだ。
モヤの中から次々と魔物が現れる。
デビルオークだけじゃない。
デスゴブリン、ダークウルフなどゴブリンとウルフの変異種も現れた。
どれもレベル40前後の強さだ。
倒してるだけじゃキリがなさそうだし、さっさとあの邪気溜まりを何とかした方がよさそうだ。
「ガアアアッ!!」
ダークウルフがオレ達の間を抜け、後ろのセーラ達に襲いかかった。
それをセーラが「聖」魔法で撃退する。
セーラはもうレベル130を超えているし心配なさそうだ。
心配なのはミウネーレとユーリか。
「ミウネーレさん、ユーリ君、結界を張ります! 私から離れないで下さい」
セーラが二人を守るための防御結界魔法の詠唱を始める。
しかし結界を張る前にデスゴブリンがユーリに襲いかかった。
「うわあっ!?」
「ユーリ殿!」
シノブがユーリの前に駆けつけ、デスゴブリンを倒した。
魔物が思った以上に多い。
このままじゃまずいな。
グレンダさん達にオレ達がセーラのように「聖」魔法が使えることを知られるのはまずいかと思ってたけど、そんなことを言ってる場合じゃないな。
一気に「聖」魔法で邪気溜まりを消してしまおう。
「リン、あの邪気溜まりの周囲の魔物を蹴散らしてくれ!」
「わかりました、レイさん!」
リンが頷き、オレは「聖」魔法の準備をする。
しかしその時異変が起きた。
周囲の魔物はリンがすぐに倒したが、邪気溜まりも消えてしまった。
いや、消えたんじゃない!?
「シノブ、そっちだ!」
邪気溜まりがまるで意思を持ったように地面の中を移動していた。
そして邪気溜まりはシノブとユーリのすぐ後ろに現れた。
「ユーリ殿っ、あぶな―――――――」
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邪気溜まりは突然不気味な光を放った。
光はこの場にいる全員を飲み込むように、周囲を照らした。




