勇者(候補)ユウの冒険章⑥ 8 灼熱の守護者
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結界内でユウ達は、しばしの休息を取っていた。
テリア、ミリィ、マティア、そしてジャネンは可愛らしく寝息を立てていた。
ユウだけは寝ずに見張りをしている。
もっとも、この結界はそれなりに強力な物なので、ユウも最低限の見張りをしながら、休息を取っている。
ジャネンも普通に振る舞っていたが、本調子にはまだ程遠いようで、しばらくすると完全に熟睡していた。
ユウの言うように、無理に普通に振る舞っていたようだ。
「············ラドゥス様······。あたしを······捨てないで······。どうか······お側に······」
寝言なのか、ジャネンがそんな言葉を口にしていた。目には涙も浮かんでいるように見える。
ユウはジャネンのことをほとんど何も知らない。
見た目は人族と大して変わらない少女が、いくら冥界の神の指示とはいえ、何故一人で故郷の冥界を出てこんなことをしているのだろうかと、ユウは疑問に思った。
休憩に入ってから四時間が経ち、結界の魔道具の効果が切れた。
ユウは全員を起こして、迷宮攻略を再開した。
「結界を解くとやっぱり暑いわね······」
「早くこんな迷宮、攻略して消しちゃいましょうよぉ」
「············」
テリアが周囲の熱気を浴びて汗を拭う。
ミリィとマティアも同様にかなり暑そうだ。
「最奥は案外近いかもしれん。このまま一気に攻略してしまおう」
ジャネンはすでに普段通りに戻っていた。
ユウは先ほどの寝言は聞かなかったことにした。
溶岩が湧き出る迷宮を進んでいく。
休憩を取ったため、ユウ達の動きが格段に良くなっていた。
暑さにも多少は慣れてきているようだ。
先ほどの炎竜の同種や、マグマフィッシュ(溶岩の中に生息する魚のような魔物)など、多数の魔物がユウ達に襲いかかってきたが、すべて撃退していく。
魔物の強さ自体は、ユウ達の脅威になるほどではなく、さほど苦戦することもなく、順調に進んでいく。
やはり最大の敵は、この焼け付くような熱気だった。
「どうやら、この先が迷宮の最奥のようだな。某の(千里眼)で見る限り、その先に道はない」
ジャネンが言い、ユウ達が一度立ち止まる。
思いのほか早く、最奥までたどり着けたようだ。
「思ってたより浅かったのね、この迷宮」
「いや、おそらく迷宮に直接取り込まれたために、深い階層に落ちたのだろう。入口から攻略していれば何日がかりにもなっていたはずだ」
「こんな暑い所に、何日もいるなんてゴメンですよぉ!」
この先が最奥と聞いて、テリア達が一息つく。
水分補給を取り、体調を万全にした。
「············つよいけはいがする。ふつうのまものじゃない」
マティアが下に続く道を見て言う。
「守護者って奴かな? どんな魔物なんだろう。そいつを倒せば迷宮は消えるんだよね」
「迷宮の守護者は他の魔物とは比較にならないくらい強力なはずだ。油断はせぬことだな」
ユウは緊張しているわけではなく、むしろ楽しみにしている感じだ。
緊張感のないユウに、ジャネンは警告を出す。
「大丈夫ですよぉ、ミリィ達ならきっと楽勝ですぅ!」
「あはははっ、そうだね、ミリィ」
「まったく、ジャネンもこう言ってるんだし、二人とも少しは緊張感を持ちなさいよ」
テリアもユウとミリィに苦言を呈した。
とはいえ、ここまでの魔物も楽に倒せてきたので、迷宮の守護者といえど、脅威になるほどではないだろうとテリアも思っていた。
準備を整えて、ユウ達は道を下りていく。
たどり着いたのは、今まで進んできた所よりも広大なフロアだった。
周囲は間欠泉のようにマグマが吹き出し、フロアは広大だがユウ達が立てる足場が少ない。
「とんでもない所に出たわね······。守護者はどこかしら?」
「マグマの中に潜んでいるんじゃないですかぁ?」
溶岩に落ちないように、全員がしっかりと足場を確認し、守護者の姿を探す。
「あれは何かな? なんか薄く光ってるけど」
フロアの中心部にユウが光る何かを見つけた。
手の平くらいの大きさの光が、フワフワと浮いていた。
「あれは············もしや精霊か? だが、妙な気配が······」
ジャネンが謎の光を見て、警戒を強める。
「精霊って目に見えない決まった形を持たない生命······だっけ?」
「ユウ、まだ正体がわからないんだし、近寄ったら危険よ」
「あれが守護者ですかねぇ?」
ユウ達が立ち止まり、様子を伺う。
謎の光はユウ達の存在を認識したように動き、周囲を旋回したと思うと、溶岩の中に潜っていった。
――――――――――!!!!!
溶岩が盛り上がり、巨大な人型の姿となった。
全身がマグマで形作られた灼熱の巨人だ。
「············くる」
マティアが構える。
ユウ達も戦闘態勢に入った。
灼熱の巨人はユウ達に襲いかかってきた。