勇者(候補)ユウの冒険章⑥ 6 灼熱のフィールドと魔物の群れ
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迷宮を進んでいく内に、ユウ達はマグマが湧き出る灼熱のフロアにたどり着いた。
今までいた上のフロアよりも、さらに強い熱気が放たれていた。
「すごい真っ赤な湖だね。確か溶岩······マグマって言うんだっけ?」
ユウが無邪気にそう言うが、額からは結構な量の汗が流れている。
テリア、ミリィ、そしてマティアもかなり暑そうに表情を歪めていた。
ジャネンだけは普段通りの涼しい顔だ。
「足場があるから先には進めそうだけど······。マグマに落ちたら普通に死ねそうね」
テリアがボコボコと不気味な音を立てているマグマを見て、息を呑んだ。
高レベルのユウ達でも、溶岩の中に落ちれば命の保証はないだろう。
――――――――――!!!
「何か出てきましたよぉ!?」
溶岩が盛り上がり、何か大きな影が飛び出してきた。
ユウ達は素早く構えた。
「ゴガアアアーーッ!!!」
溶岩の中から現れたのは、赤く染まる岩の皮膚を纏った竜のような魔物だった。
竜はユウ達の前に降り立った。
かなりの巨体でユウ達よりもはるかに大きい。
「ブルルルッッッ!!!」
竜が身体を震わせ、溶岩を振り撒いた。
「熱っ!? 何よ、この魔物!? マグマの中で生きていられるの!?」
「コイツは······グリューエントリザード。溶岩の中で生きる炎竜だ」
テリアが(物質具現化)で弓矢を作り出し構えた。ジャネンは魔物を見て分析する。
炎竜は翼を持たない、地を這うタイプの竜だ。
「ゴアアーーッッ!!」
炎竜が巨大な尻尾を振るってきた。
尻尾による物理攻撃だけでなく、こびり付いていたマグマも強力な火球のように飛び散る。
ユウ達はそれぞれ回避行動を取った。
「グランドスプレッドですぅ!!」
ミリィが「水」魔法を炎竜に向けて放った。
しかし、この熱量を持つ相手に向けて「水」魔法は············。
「マズい······!?」
ジャネンが素早く動いた。
――――――――!!!!!
次の瞬間、ミリィの魔法が直撃すると大爆発が起きた。
水蒸気爆発である。
「······間一髪だったな」
ジャネンが結界魔法を張ったおかげで、ユウ達は被害を免れた。
炎竜は完全に吹き飛んでいた。
周囲も爆発の影響で酷い惨状だ。
「な、何が起きたのよ······?」
「凄まじい熱を持つ物体に大量の水をかければ、ああなる」
水蒸気爆発のことをよく知らないらしいテリアが驚き言う。ジャネンは淡々と答えた。
「ご、ごめんなさいですぅ······」
「あはははっ、仕方無いよミリィ。ぼくもこうなるなんて思わなかったし。ジャネン、ありがとう。助かったよ」
珍しく落ち込むミリィをユウが慰め、ジャネンに結界で守ってもらった礼を言った。
今の凄まじい爆発でも迷宮が崩れる様子はない。
迷宮は想像以上に頑丈なようだ。
「ゴガアッ!」「グルルルッ」「ゴアアッ」
周囲から魔物が集まってきた。
先ほど吹き飛んだ炎竜と同種の魔物の群れだ。
「今の爆発でマグマも吹き飛び、一時的に道が拓けている。一気に駆け抜けるぞ」
ジャネンの言う通り、足場がかなり広くなっている。だが新たな溶岩がゆっくりと湧き出てきていた。
進むのなら今の内だろう。
「ゴアアーーッ!!」
「邪魔だ」
ジャネンの目から光が放たれ、それを浴びた魔物が石化していく。
石化を免れた魔物も、毒や麻痺といった状態異常を受けている。
「すごいね。前から聞きたかったんだけど、それってジャネンのスキルなの?」
「ああ、(魔眼)のスキルに(邪眼)を上乗せしている。消費魔力も少なく、大抵の相手はこれで無力化できる。格上には効きづらいのが難点だがな」
ジャネンの(魔眼)は両眼からだけでなく、髪の蛇からも放てるようだ。
襲い来る魔物が次々と無力化されていく。
「······これで消費魔力が少ないなんて、反則じゃない?」
無双状態のジャネンを見て、テリアが呆れたようにつぶやいた。
魔物の群れを振り切り、ユウ達は少し拓けた場所までたどり着いた。
ここはマグマが流れてくることもなく、若干ではあるが気温が下がっていた。
「少し休憩しようか? 周りに結界を張るよ」
「そうね、さすがに疲れたわ。暑くて喉も渇いたし」
ユウの提案に全員が賛成した。
ユウは収納袋から、外敵を防ぐ結界を張る魔道具を取り出して使用した。
この魔道具の結界は、およそ四時間ほど効果が持つ。
「············すずしい」
「結界の中は熱気も入ってこないんですねぇ」
マティアとミリィが一息つく。
「洗浄魔法を使っても、汗で身体が気持ち悪いわ······。帰ったら、お城の温泉にまた入らせてもらいましょう」
「あれ、お城に温泉なんてあるの?」
「ユウ様とジャーネは眠っていたから入ってないですよねぇ? 広くてとーっても気持ち良かったんですよぉ! 混浴できるって言ってましたしぃ、ユウ様も一緒に入りましょうよぉ!」
ユウ達は水分補給を取り、軽く雑談しながら休息を取った。