勇者(候補)ユウの冒険章⑥ 5 火山の迷宮攻略開始
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トライヒートマウンテンの頂上に着いたユウ達は、発生していた邪気に囚われ、迷宮へ取り込まれてしまった。
ユウ達は迷宮脱出のため、攻略を開始した。
「普通に洞窟というか、山の中に入ったみたいね。なんで邪気が、迷宮なんて作り出せるのかしら?」
「某もそこまで詳しくは知らない。特異点······邪気は冥界の民にとっても未知数だからな」
テリアが岩の壁に手を触れて言う。
ジャネンも邪気の性質について、詳しくは知らないようだ。
「ガウウッ」「ウウウッ」「グルルッ」
ユウ達の周りに魔物が集まり出した。
ゴブリンやウルフ、蝙蝠型など様々な魔物がユウ達を囲む。
「さっそく魔物が現れましたよぉ」
ミリィが言う。
全員がすぐに戦闘態勢に入った。
「さっそく、これを試してみようかな」
ユウが収納袋から剣を取り出して、構えた。
エンジェより受け取った、聖剣エルセヴィオである。
「············ちからが、みなぎる」
「わたし達まで聖剣の力を受けているみたいね」
聖剣と勇者のスキルの効果により、ユウだけでなく、テリア達も力を増していた。
逆に魔物は著しく弱体化している。
「聖光雷鳴撃っ!!!」
ユウが魔物の群れに向けて、剣技を放った。
「聖」なる力と「雷」を帯びた斬撃が魔物を襲う。その威力は凄まじく、ほんの一振りで周囲の大半の魔物が殲滅された。
「きゃ〜、ユウ様格好良いですぅ!」
「わたし達の出番がなかったわね······」
ミリィが絶賛し、テリアは呆れた口調で言った。
「その聖剣は······あの男が使っていた物か。何故、ユウが持っている?」
「勇者のぼくに使ってほしいって渡されたんだよ。さすがは聖剣だね。ぼくが作り出す剣より、桁違いに強いよ」
ジャネンはユウとエンジェの戦いを見ていないので、不思議そうに問いかけてきた。
ジャネンの疑問に、ユウは簡単に答えた。
「グオーーッ!!」「ガアアッ!」
生き残っていた魔物が一斉に襲いかかってきた。
ユウ達は素早く迎撃しようと構えたが······。
「デスプロージョン」
――――――――――!!!!!
マティアが放った魔法により、生き残っていた魔物すべてが吹き飛んだ。
魔法の衝撃で迷宮内がわずかに揺れる。
「び、びっくりした······。撃つならちゃんと言いなさいよ、マティア」
テリアがマティアを少し非難する。
「迷宮はそう簡単には崩れないはずだが······。炎系や爆発系の魔法を使うのは勧めんぞ」
ジャネンが言う。
今のマティアの魔法はかなりの威力があり、万が一にも迷宮が崩れていたら、全員生き埋めになってしまうかもしれない。
「············わかった、きをつける」
マティアが素直に頷いた。
だが、ユウの剣技と今のマティアの魔法で魔物達は全滅したので、周囲は静かになった。
「それじゃあ迷宮攻略を始めようか。迷宮なんて初めてだし、なんだかワクワクするね!」
ユウが緊張感のカケラもなく、そう言った。
言葉通り、初めての迷宮に興味津々なようだ。
「まったく······少しは警戒しなさいよ。今の魔物だって、普通のより結構強かったんだから」
テリアが苦笑しながらユウを窘めた。
なんだかんだで楽しそうなユウを見て嬉しそうであり、テリア自身も迷宮に興味があるようだ。
「下に進む道は、こっちの方だな」
ジャネンの(千里眼)を頼りに迷宮を進んでいく。似たような岩壁に囲まれた道ばかりなので、闇雲に進めば確実に攻略は不可能だと思われる。
出てくる魔物はレベル60前後の強さで、それなりに強力なのだが、ユウ達にとっては脅威にならない強さだった。
「迷宮の魔物といっても、ミリィ達の敵じゃないですねぇ」
「迷宮は深く潜れば潜るほど魔物は強力になっていく。場違いなほどに強い魔物も、稀に発生することがあるからな。油断はしないことだな」
ミリィの発言にジャネンが警告する。
「············あつい」
「確かにマティアの言う通り、暑いわね······。ミリィ、アンタ「水」魔法が得意でしょ? ちょっと冷たい水を出してよ」
魔物よりも、むしろ暑さの方が厳しそうだ。
下に向かうに連れて、気温もどんどん上がっている感じだ。
「ジャネンは暑さは平気なの?」
ユウも表情に変化はないが、結構な汗をかいていた。ジャネンはまったく汗をかいていないように見える。
「某は冥界の神の祝福を受けているから、暑さや寒さなどの耐性は極限まで高められている。この程度なら問題ない」
ジャネンはシャルルアのように、神に祝福を受け取れる神子のような立場にいる。
シャルルアと違い、正式な祝福を受けているようで、その効果は高いと思われる。
「ぼくの勇者のスキルにも、暑さに対する耐性はあるはずなんだけどなあ。ジャネンは勇者以上の耐性があるみたいだね」
ユウが少し羨ましそうに言う。
ユウはまだ正式な勇者ではなく、まだ候補のため、勇者のスキルを完全に習得しているわけではない。
周囲の暑さ以外は特に問題なく、ユウ達は迷宮を進んでいった。
そして下に続く道を見つけた。
「熱っ!? な、なんだか、この先からすごい熱気が来てるんだけど······」
テリアが言うように、下に続く道からは今まで以上の熱気が来ていた。
「なんだか進みたくないですねぇ······」
ミリィも感じる熱気にうんざりしている。
だが進む道は今の所、ここしかなく、他に道があるとは限らない。
ユウ達は意を決して先に進んだ。
そして待っていたのは············。
「うわあ〜、一面真っ赤な湖だね」
ユウ達の目に飛び込んできたのは、辺り一面にマグマが湧き出ている、灼熱のフィールドだった。