勇者(候補)ユウの冒険章⑥ 4 迷宮化
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冥界の霊獣カオスレイヴンの背に乗り、一気にトライヒートマウンテンの頂上を目指した。
霊獣は凄まじい勢いで舞い上がる。
「うわ〜、良い景色だね」
ユウは霊獣の背から見える絶景を楽しんでいた。
テリアとミリィも、ユウの横で同じように景色を眺めている。
マティアは無表情で興味があるのかないのか、よくわからないが。
「カオスレイヴンの背は、特殊な魔力の膜に覆われているから振り落とされることはないが、さすがに身を乗り出し過ぎると落ちるかもしれんぞ」
ジャネンがそんなユウ達の様子を見ながら言う。
トライヒートマウンテンに生息する魔物も、カオスレイヴンを恐れて近寄って来ない。
そうでなくてもカオスレイヴンは目にも留まらぬ速さで飛んでいるので、並の魔物では、そのスピードに付いてこれないようだが。
ジャネンが宣言した通り、あまり時間をかけずに頂上までたどり着いた。
カオスレイヴンが山頂に降り立ち、ユウ達も霊獣の背から降りた。
「山の頂上はそんなに暑くないわね。······ただ、ちょっと息苦しい気がするけど」
テリアが周囲を見渡し言う。
標高20,000メートルの山の頂上にいるので、地上よりも酸素がかなり薄い。
通常なら、ちょっと息苦しいだけでは済まないだろうが、神将を倒し大幅にレベルアップしたことで、ユウ達はそういった耐性も上がっていた。
「············いやなけはいがする。ふつうじゃない」
マティアが言うように、山の頂上には濃い邪気が充満していた。
魔物の姿はないが、何が出てきてもおかしくない雰囲気だ。
「確かにジャーネの言う通り、ミリィが吸収するのは無理っぽいですねぇ······」
ミリィー人で吸収出来る許容量を上回っているらしい。
「全員、某の近くに集まれ。この濃度の特異点は人族には厳しいはずだ。勇者といえど、長く触れていては危険だ」
ジャネンの言葉に頷き、ユウ達が一箇所に集まる。ジャネンは結界魔法を張り、周囲の邪気を遮断した。
「それでジャネン、この邪気をどうするの?」
ユウがジャネンに問う。
「思っていたよりも規模が大きいが、某には好都合だ。我が神より授かった〝陰魔の小瓶〟に······」
「待って、何か周りの邪気が集まって来てるわよ!?」
テリアが叫ぶように言う。
周囲の邪気が、まるで意思を持っているかのようにユウ達を取り囲んだ。
「······これは······マズい!?」
ジャネンが動くよりも先に、周囲の邪気が結界ごとユウ達を包み込んだ。
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「あれ、ここは······?」
気が付くと、ユウ達は岩の壁に囲まれた洞窟の中にいた。陽の光が入らないように見えるが、周囲が何かしらの力で薄く光っているため、普通に見渡せた。
「どうやら迷宮化に巻き込まれたようだ。まさか迷宮を生み出せるほどに特異点が集まっていたのは、某にも予想外だった」
ジャネンが張っていた結界を解き、周囲を確認する。
「ここが迷宮なの? 話には聞いたことがあるけど、実際入るのは初めてね······」
「ミリィも迷宮に入るのは初めてですねぇ」
テリアとミリィも周囲を見回す。
ユウ達、全員の姿が確認できた。
結界を張っていたので、バラバラに逸れることはなかったようだ。
霊獣カオスレイヴンはうまく逃れたのか、姿は見えない。
「············めいきゅうのなかも、あつい」
マティアがつぶやく。
迷宮の中も外のように気温が高めだ。
「かなり奥深くに取り込まれてしまったようだ。構造的に下に向かうタイプの迷宮のようだが、上を確認しても出口が見えない」
ジャネンは(千里眼)のスキルで迷宮内の様子を探ったが出口が見えないほど、奥に取り込まれているようだ。
「ジャネンの(千里眼)でもわからないんだ。迷宮の構造を把握出来るような魔法ってないのかな? もしくは迷宮から一気に脱出出来るような魔法とか」
「そんな都合の良い、便利な魔法があるはずないだろう」
ユウの無茶振りに、呆れた声を出すジャネン。
「迷宮って確か一番奥に守護者っていう魔物がいるのよね? そいつを倒せば、迷宮は消えるんじゃなかった?」
「そーですねぇ。守護者を倒せば、迷宮から脱出出来るはずですよぉ。今のミリィ達なら守護者だって、簡単に倒せますよぉ!」
出口がわからない以上、先に進んで迷宮の守護者を倒すべきだと二人は主張した。
ジャネンの(千里眼)スキルで、迷宮全体を把握するのは無理でも、ある程度ならば道がわかる。
「某は構わぬが······油断しないことだな。迷宮内の魔物は、外で出現するものよりも、遥かに強力なはずだ」
ジャネンの言葉に全員が頷いた。
こうしてユウ達は、初めての迷宮攻略を開始した。