勇者(候補)ユウの冒険章⑥ 3 山の頂上へ
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ジャネンの話を聞き、ユウ達はトライヒートマウンテンに向かうことにした。
事情説明のために玉座の間に向かったが、龍王はシャルルアの試練の付き添いのために不在だった。
代わりというわけではないが、聖女セーラに会ったので、事情を話した。
「邪気の発生······ですか」
セーラが難しそうな表情でつぶやく。
「大変じゃないですか!? すぐに対応しないと、何が起こるかわかりませんよ」
聖女セーラの横で、リンという護衛の女騎士が慌てて言った。
「だから、ぼく達が様子を見てくるよ。どういう状況なのかこの目で見ないとわからないからね。セーラさん達は、まだ色々と忙しいんでしょ?」
ユウがそう言うが、リンは難色を示している。
邪気というのはまだまだ未知の部分が多く、何が起きるか予測がつかないためだ。
「······わかりました。ユウ君達に任せましょう。ですが、何か異変を感じたら、すぐに戻ってきてくださいね。龍王様やシャルルアさんには、私から話しておきます」
セーラが心配そうに言う。
色々と話し合ったが、最終的にはユウ達に任されることとなった。
「ユウさん達に任せることは納得しましたけど、その······ジャネンさんって人は信用出来るんですか? いえ、ユウさんを救おうとしてたのは見てましたし、龍王様やシャルルアさんからも、この国で活躍したことを聞きましたけど······。邪気を集めて、何をするつもりですか?」
リンがジャネンをチラッと見て言う。
ジャネンは人族でも龍人族でもなく、冥界という未知の領域の住人であり、全面的に信用していいのか判断出来ないようだ。
「悪いが、我が神に関することは口外出来ない。龍人族にも人族にも害を為すことではないと断言するが、証明する術は持ち合わせていない」
ジャネンの言葉にリンの表情が難しくなる。
セーラは困ったような表情だ。
「······某を信用出来ないのであれば、話はここまでだな」
「待ってよ、ぼくはジャネンを信用するよ」
少し悲しそうな様子を見せたジャネンに向けて、ユウが力強く言った。
「無理はしなくていいぞ、ユウ。某は何も話していないからな。信用出来ないのも無理はない」
「無理なんてしてないよ。ぼくはジャネンを信用してる。ジャネンにはたくさん助けてもらったし、命を賭けてぼく達と一緒に戦ってくれたでしょ? 少なくとも、ぼくにはジャネンが悪い人には見えないよ」
ユウの真っ直ぐ過ぎる言葉に、ジャネンが戸惑いを見せる。
「まあ······ユウもこう言ってるし、わたしもジャネンを信用するわよ」
「ミリィはユウ様の見る目を信じますよぉ!」
「アタシもユウをしんじる······」
テリア達もユウの意見を尊重するようだ。
それを聞いてジャネンは照れたように横を向いた。
「な、なんだかわたしが悪者みたいになっているような······。わかりました、ユウさんがそこまで信用してるなら、わたしからはもう文句はありません」
リンもジャネンを信用することにした。
判断出来ないのが本音だが、リンもジャネンから悪意のようなものは感じていないようだ。
龍人族の都を出て、ユウ達はトライヒートマウンテンを目指した。
目指したといっても、問題の超巨大山は都を出て、目と鼻の先だが。
すぐにユウ達は山の麓にたどり着いた。
「改めて見ると本当、大きな山ね······」
テリアが山を見上げて言う。
頂上付近は厚い雲がかかり、まったく見えない。
「これ、登るだけでも大変そうですねぇ」
「············あつい」
ミリィが登る前から疲れたような表情をする。
マティアは額の汗を拭った。
この大陸は基本的に気温が高めだが、山の周囲はさらに暑くなっていた。
「食料や水は、いっぱい持ってきたけど足りるかな?」
「その心配はない。頂上までそれほど時間はかからないだろうからな」
ユウは収納袋に大量の水と食料を用意していたが、ジャネンは必要ないだろうと言った。
――――――――――!!!
ユウ達の前に巨大な影が降り立った。
全身が黒く染まった鳥型の魔獣············いや、霊獣カオスレイヴンである。
「よく来てくれた。頂上まで頼むぞ」
「クアアーーッ!!!」
ジャネンがそう言うと、任せろと言わんばかりに大きく鳴いた。
「ジャネン、この魔物に乗って行くの?」
「ああ、数人くらいなら余裕で乗れる。それと、コイツは魔物ではなく霊獣だ」
ユウの問いに頷く。
霊獣カオスレイヴンの背は意外と広く、10人くらいなら一気に乗れそうである。
「あれ? でも、そういえばこの魔も······霊獣、神将にバラバラにされなかったっけ?」
「カオスレイヴンは闇の不死鳥の異名を持つほどの再生力がある。バラバラにされたくらいでは死なんぞ」
ちなみに、以前にテリアも同じ問いをジャネンにしていた。アンデッドの一種というわけではないようだが、霊獣はゾンビ以上の再生力を持っているらしい。
ユウ達が背に乗ると、カオスレイヴンは翼を広げて飛び立った。