勇者(候補)ユウの冒険章⑥ 2 ジャネンの使命
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エンジェの試練を達成して、ユウは聖剣を手に入れた。龍人族の戦士達も見学していて、二人の戦いを称賛する。
ユウはすでに、龍人族の国では特別な存在となっていた。
その後、少し遅めの朝食を済ませ、ユウ達は今後の予定を話し合おうとしていた時、ジャネンがやってきた。
「どうやら、すっかり回復したようだな。神剣を使いながらも精神に異常を来さないとは、見かけによらず頑丈なものだ」
ジャネンが呆れ半分といった口調で言う。
「ジャネンのキスのおかげだね。甘い感触で、すごく心地良かったよ」
「······っっ!!? 恥ずかしげもなく言うな! 甘かったのは神薬の味だ」
ユウの返しに頬を赤らめ、そっぽを向いた。
ジャネンは普段はほぼ無表情なだけに、新鮮な反応に見える。
「むぅ〜、言っておきますけどぉ、ユウ様の初めてはミリィが先にもらってますからねぇ」
ミリィが対抗するように、そんなことを言い出す。
この言葉に黙っていなかったのはテリアだった。
「······何の話よ、ミリィ?」
「ユウ様にこの世界に召喚してもらった時に、ミリィは熱〜い口付けを交わしたんですよぉ」
「ちょっと待ちなさい、その話······わたし初耳なんだけど」
ミリィの言葉を聞き、テリアの額に血管が浮かんでいる。そんなテリアを見て、ミリィは勝ち誇る。
「············キスってなに?」
マティアは意味がわからずに首を傾げていた。
その横で、テリアとミリィはギャーギャーと言い合いを始めてしまった。
「仲の良いことだな······」
「そういえば、ジャネンも神将の攻撃受けて苦しんでたんだよね? テリア達に聞いたよ。もう大丈夫なの?」
「ああ。一時は死を覚悟したが、もう問題無い」
ジャネンも神将の呪いによって苦しんでいたのだが、危機は脱したようだ。
だが問題無いと言っているが、まだ完全には回復していないようで時折、胸を抑えている。
「まだゆっくり休んでいた方がいいように見えるけど?」
「いつまでも龍人族の国に留まっているわけにもいかない。某にはやるべきことがあるのでな」
「そういえばジャネンって、何か目的があってこの大陸に来てたんだっけ? やることがあるなら、ぼくも手伝うよ?」
ジャネンはもともと冥界の神の使命を受けて、この大陸にやってきていた。
龍人族の手助けをしたのは、あくまでもついでのようなものだ。
「いや、別に手伝ってもらうほどのことでは······」
「ジャネンには色々助けてもらったし、ぼくもジャネンの力になりたいんだよ。ダメかな?」
「ダメということもないが······」
遠慮気味なジャネンに、ユウは喰い付くように言う。
ユウの強い申し出に、ジャネンは困惑する。
「······まあ、某だけでは手を焼く可能性もある。手を貸してくれるのならば、正直助かる」
結局ジャネンが折れ、ユウの協力を受け入れた。
「そもそも、あなたって何しにこの大陸に来てたのよ?」
「確か、何か使命があるとか言ってましたよねぇ?」
テリアとミリィも言い合いをやめて、ジャネンに問う。マティアは黙って、やり取りを見ている。
「龍人族の町のすぐ近く、お前達が最初に神将と戦っていた、トライヒートマウンテンという山の頂上に特異点を観測した。某はそれを回収しに来た」
トライヒートマウンテンというと、ユウ達がこの大陸に初めて来た時に降り立った場所だ。
標高20,000メートルを超える超巨大山である。
「特異点って?」
「お前達が邪気と呼んでいるものだ。人族などには有害でしかないだろうが、我ら冥界の者には色々と有益なものだ。我が神が、それを大量に必要としている」
ユウの問いにジャネンが答える。
「つまり、あの山の頂上に邪気が発生しているってことよね? それって放って置いたらマズイんじゃないの?」
テリアの言う通り、邪気は放って置けば強力な魔物を生み出す可能性がある。
そうでなくても周囲を蝕んだりして有害なものだ。
「ミリィならある程度、邪気を吸収出来ますよぉ?」
ミリィは邪気を吸収し、自身の力に変えることが出来るらしい。
ミリィも冥界の民に近い特性があるようだ。
「某が観測した特異点は、個人が吸収しきれる規模ではない。テリアの言う通り、放って置けば龍人族の国まで影響が出るかもしれんな」
「それなら尚更、ぼくも手伝うよ。そんなのがこの町の近くで発生してるのなら、放って置くわけにはいかないよ」
ユウが力強く言った。
「ま、しょうがないわね。わたしも付き合うわよ、ユウ、ジャネン」
「ミリィだって、ユウ様の力になりますよぉ!」
「············アタシもいく」
テリア、ミリィ、そしてマティアもジャネンの手助けをすることにした。