36 騎士隊長グレンダから見た三人
(グレンダside)
レイ、シノブ、そしてアイラ殿。
彼らと顔を合わせてから十日が経った。
彼らを屋敷に招き、彼らの住む第三地区に行って以来毎日のように彼らの所に通っている。
ミウとユーリも一緒だ。
孤児院の子供達に負けてからユーリはアイラ殿の特訓を受けている。
それに私も付き合い、いつの間にかミウまで付き合うようになっていた。
アイラ殿が鍛えた子供達の強さは異常だ。
甘く見ていたら私でもやられかねない程に。
一体どんな特訓をしているのかと思ったのだが内容は剣の素振りに走り込み、模擬戦、そして町の外での魔物との実戦訓練など特別なことではなかった。
確かに特訓内容としては問題ない。
しかしこれだけではあれ程強くなれるとは思えない。
だが共に特訓に付き合い驚愕することになった。
この十日間で私のレベルは82まで上がった。
ミウは34。ユーリは28まで上がっていた。
たった十日でこんなに上がるなんてあり得ないことだ。
一体どういうことだろうか?
彼らに聞いても上手くはぐらかされてしまった。
間違いなく何か秘密があるのだろう。
「これがこの十日間の出来事です、父上」
今日までのことを父に報告した。
今、私は父の私室に来ている。
この場には私に父上、ミウ、ユーリ、そして冒険者ギルドマスターのアブザーク殿がいる。
「たった十日で信じられぬレベルアップだな············」
父も私達を鑑定して驚いている。
アブザーク殿も同じようだ。
「おそらくアイラ殿は成長を促進させるスキルを持っているのだと思われます。そうでなければあり得ません」
しかしどんなスキルなのだろうか?
彼女のステータスは私でも見えないから詳細がわからない。
「特訓を受けている子供の中で一番レベルの高い者はもう60に達しようってのか············とんでもねえな」
アブザーク殿が感心したのか、ぼやくように言った。
孤児院の子供達の平均レベルはすでに50を超えていた。もはや歴戦の騎士に匹敵する。
「それだけじゃないんですよー! レイさん達が作る物はどれも凄いんですよ!」
ミウが興奮気味に言う。
ミウの言う通り、彼らの凄いところはレベルの成長だけではない。
果実、野菜に始まり水道に水洗トイレ、巨大な風呂の施設など、この屋敷にもないような便利なものばかりあった。
「······本当に常識外れな人達ですよ」
ユーリが苦笑いしながら言う。
ユーリもこの十日間の特訓でずいぶん強くなった。
まあ、毎日最後にシノブに勝負を挑んでいるが、結果は10戦10敗だがな。
だが同年代に今まで相手になるような者がいなかったため少々自惚れていた所があったからな。
それが今は無くなってきている。
良い傾向だろう。
「セル、国王にはあの三人のこと、どう報告するつもりだ?」
「······ありのまま報告するしかないだろう。今回のオークの件で国王様にもあの三人のことは耳に入っているようだしな」
「となると近い内に王都まであの三人を呼び出す可能性があるな。あの三人がそれをすんなり応じてくれるかねえ?」
アブザーク殿が肩を竦めて言う。
確かに彼らは自分の意に沿わない話には乗らないだろう。
この十日間で性格はなんとなくわかってきた。
「その時はなんとか説得するしかあるまい。それよりグレンダ、あの三人の出身国はまだわからないのか?」
「はい、父上······聞いても上手くはぐらかされてしまって」
「ギルドの方でも調べたが手がかり無しだ。あいつら本当にどこから来たんだ? あの強さで今まで無名だったとは思えねえんだが············」
アブザーク殿の言う通りだな。
あの強さと行動力ならどこにいても名を轟かせているはずなのに、この町に来る以前の情報がまるで入ってこないのだ。
「聖女様とリンさんは何か知ってるみたいでしたよ。でも口止めされているのか教えてくれませんでした」
なるほど、聖女様達は私達以上に彼らと親しい。
それなりに話を聞いているのかもしれないな。
「聖女様が知っていて話さないということは悪い話ではないのだろう。もしも彼らがこの町に害をなす人物で、聖女様がそのことを知っているのなら我々に話してくれるだろうからな」
父は聖女セーラ様の人となりを信用している。
私もだが。まあ、私も彼らが悪い人物だとは思っていない。レイもシノブもあれだけの力を持っていながらそれを振りかざすことをしない。
アイラ殿は立ち振舞いも美しく、どこかの王族ではないかと思ってしまう。
「ああ、言い忘れていましたが聖女セーラ様が彼らに指名依頼を出していました。明日は私達もそれに同行しようと思っています」
「指名依頼だと?」
「なんでも例のオークキング······いや、オークガイアを倒した周囲で邪気溜まりの反応があったとかで、その調査に同行してほしいということでした」
「邪気溜まりだと!? ならば王国騎士団も派遣すべきか」
邪気溜まりとはその名の通り邪気の溜まり場のことだ。
魔物は邪気によって発生したり、進化すると言われており邪気溜まりは強力な魔物を生み出すきっかけになりかねないのだ。
早急に除去すべきものだ。
「いえ、聖女様も大事にはしたくないとのことなので我々だけで行います。アイラ殿達の協力を得られるのなら問題ないでしょう」
アイラ殿とはこの十日間、何度か手合わせをしたがまるで敵わなかった。
シノブもユーリとの手合わせを見る限り私でも敵わないだろう。
レイとは手合わせしていないので実力はいまいちわからないがミウからグレートオークを一刀両断したという話は聞いた。
さらには聖女セーラ様のレベルは125になっていた。間違いなくアイラ殿の特訓と関係があるのだろう。
専属護衛騎士のリンは鑑定すらできなかった。
このメンバーなら余程の事態でも対応出来るだろう。




