(番外編)魔人族側の動き
(バルフィーユside)
龍人族の国を後にした俺達は拠点まで戻ってきた。
面倒くせえ雑用だと思っていたが、なかなか面白い戦いが出来たぜ。
俺とまともに渡り合えるなんて、あのレイという人間は歴代勇者の中でもトップクラスの実力者だろう。
ナークを倒した勇者も別にいるようだしな。
「にししっ、上機嫌だね、バル兄」
メリッサが意味深な笑みをうかべながら言ってきた。コイツに散々振り回されたが、まあ結果的には楽しめたぜ。
「バルフィーユ様の帰還だ!」
拠点に入ると堅苦しい出迎えが来た。
ずいぶん前に俺は神将の座を下りたんだが、それでも俺に付き従う奴が結構いやがる。
俺なんかについてきてたら、お前らまで魔神の怒りに触れかねねえぞ?
「おかえりなさい、バルフィーユ。思ったよりも早かったわね」
真紅の長髪をなびかせた女が現れる。
見る者を魅了させる容姿に、すべてを見通すような真紅の瞳を持つ魔人。
「トゥーレ! ただいまーっ!!」
メリッサが突進する勢いで抱きついた。
コイツの力で並の奴に同じことをしたら、相手は吹き飛ぶだろうな。
だが、トゥーレは優しげに受け止めた。
〝人形使い〟トゥーレミシア。
俺と違い、コイツは現神将の一人だ。
コイツ自身の戦闘能力は他の神将に比べたら低い方だが、トゥーレは作り出した人形に、命を吹き込める力を持っている。
そして、その人形共は並の魔人とは比較にならないくらい強い。
トゥーレの人形軍団は、魔人族の中でもトップクラスの最強軍団だからな。
ちなみにメリッサも、トゥーレが生み出した人形の一体だ。まあ、コイツの場合は他の人形よりも、かなり特殊だがな。
「フフフッ、おかえりなさい、メリッサ。バルフィーユが暴走しないように、ちゃんと見てくれていた?」
「もっちろん! 大人気なく、本気だそうとしたバル兄を思い切り殴って止めたよ」
おいコラ。嘘は言ってないが納得いかねえぞ。
大体、俺はそもそも、最初は騒ぎを起こすつもりはなかったんだよ。
もともとの原因はてめえだろうが。
「あら、バルフィーユが本気になるくらいの相手がいたの? 龍王、それともナークを倒したっていう勇者かしら?」
「どっちでもねえよ。まあ勇者の一人だがな」
トゥーレに龍人族の国の出来事を簡単に話した。
特に、このメリッサが散々勝手な行動を取ったこともな。
「うん! 龍人の国には強い人がいっぱいいたよ! 特にレイおにーさんはバル兄と互角に打ち合ってたし。シノブ、スミレ、マティア、楽しい人達もいた!」
メリッサが楽しそうに龍人族の国でのことを話す。トゥーレはメリッサの頭を撫でながら話を聞いている。
「フフフッ、本当に楽しかったのね。後で話を聞かせてちょうだい。それでバルフィーユ、頼んでいた物は?」
「ああ、ちゃんと回収してきたぜ。メリッサが持ってるよ」
トゥーレの問いに答え、メリッサが神槍を取り出す。ナークの自慢の武器だけに、凄まじい力を秘めている。
魔神に直々に賜わった神具だからな。
「で、一体何に使うんだ? 用途を聞いてねえんだが」
神槍を使うってのは、相当派手なことをやろうってんだろうな。
まあ派手といってもトゥーレは残虐な性格でもねえし、妙なことにはならないだろうとは思ってるが。
「バルフィーユは、天使族のことを知ってるわよね?」
「はるか昔に、神をも超える力を手に入れたって奴らだろ? 結局その力に溺れて、そのまま滅びちまったんじゃなかったか?」
本当にいたのかさえ怪しい種族だがな。
伝承なんかで存在は確認できるが、詳しいことはほとんどわからねえ。
「まだ確定はしていないのだけど、天使族の都市がある場所が判明したのよ。その場所を調べてみたら、強力な結界が張られていたわ」
「もしかして、滅びずに生き残ってたってのか?」
「それもまだわからないわよ。ただ尋常じゃない規模の結界だったから、何かあるのは間違いないわね」
「は〜、つまり神槍でその結界を破壊するつもりかよ」
天使族ねぇ······。
滅びちまった種族に興味はなかったが、生き残ってんなら話は別だ。
神をも超える力を手に入れた種族······。
どれ程の力なのか戦ってみてえな。
「······で、誰が神槍を使うつもりだ? あれは生半可な奴じゃ扱えねえはずだぜ」
「ナーク以外に神槍を使える人なんて、貴方くらいしかいないじゃない?」
俺かよ!?
まあ、あれを扱える奴なんて神将クラスじゃなきゃ無理だろうがな。
他の神将に頼むわけにもいかねえだろうしな。
トゥーレは神将の中でも、かなり特異な立場だからな。
「すぐに実行するつもりはないわよ。天使族について色々調べて、準備を整えてからになるわね」
「まだ俺は引き受けるとは言っていないんだが?」
「フフフッ、そうね。じゃあ実行する時になったら、改めて頼むことにするわ」
結局、俺にやらせるつもりじゃねえか。
······まあ、コイツには借りがあるからな。
強く出れねえのがツラいぜ。
「あ、そうだわ。もう一つ頼みたいことがあるのだけど」
「いい加減にしとけよ!? 今度はなんだよ!」
嫌な予感しかしねえんだが。
俺を便利屋か何かと勘違いしてねえか?
俺に対して、こんなに遠慮なく言ってきやがるのはコイツくらいなもんだ。
「ガストの消息が不明になってるのよね。貴方、何か知らないかしら?」
「ガスト? ······ああ、そういや最近姿を見かけなくなってるな」
あのマッド野郎か。
前の魔王に心酔していて、今の魔王を毛嫌いしてる奴だ。確か昔、勇者に保護されて行方がわからなくなっていた、幻獣人族とかいう種族の住処を、最近になって見つけたとか言っていたな。
前の魔王は勇者によって、どこかに封印されたはずだったな。
その幻獣人族の住処に封印されてる可能性がある。
ガストは強力な魔物を色々と作り出していたし、そいつら連れて一人で突っ走ったんじゃねえか?
「幻獣人族ね······。ガストはそこに行ったのね」
「多分な。音沙汰がないってことは、幻獣人族共に返り討ちにあって死んだんじゃねえか?」
「それは困るわね。ガストは有能だし、私達の数少ない同志よ。出来れば失いたくないわ」
まあ、アイツは戦闘能力は高くないが、色々と頭の回る奴だが。
それに口では魔神に心酔したことを言うが、アイツは魔神よりも前の魔王に心酔してる奴だからな。
······と、それよりも今サラッと俺もメンバーに入れやがったな。
「達って、俺はその同志に入ったつもりはねえんだが?」
「けど、私のやることに賛同してくれているわよね?」
まあ反対はしていねえけどな。
ある程度なら力になってやってもいいと思っている。ある程度ならな。
トゥーレは見かけによらず、人使いが荒いから困る。
「それよりもバルフィーユ、ガストの様子を見てきてくれないかしら? もしかしたら幻獣人族に敗れたけど、生きて捕らえられている可能性もあるわ」
「面倒くせえよ。お前か人形共に行かせればいいだろ!」
「私は知っての通り忙しいのよ。私のカワイイ子達だって偵察には向かないし。その点、貴方はヒマでしょ?」
確かにトゥーレと違い、今の俺は特にやることのない立場だが。
コイツ、疲れることのない人形共といるから、休息って言葉を知らないのか?
俺はゆっくり休みたいんだよ。
ちっ、まあ言っても無駄だろうな。
「わかったよ。気が向いたら様子を見てきてやる」
「なるべく早くお願いね。あ、行く時はまたこの子を連れて行ってちょうだい」
「まだ俺に子守りをやらせる気かよ!? マジでいい加減にしてくれ!」
はあ〜、やっと解放されたと思ってたんだが、甘かったか。
神将をやめてからの方が忙しくなった気がするぞ、ちくしょう。