閑話⑧ 2 一件落着、と思ったら(※)
※(注)変態男が現れます。
(ミールside)
ミネラという女冒険者に嵌められて、ワタシと姉さんは人通りの少ない場所で、数人の男達に囲まれてしまいました。
ミネラはワタシ達が魔法主体で戦うと聞いて、魔法を封じる魔道具を使ってきました。
名の通った魔術師と自称していましたし、魔封じの魔道具を持っていても不思議ではないでしょう。
それともワタシ達に気付かれないように連絡を取り、男達に用意させたのでしょうか?
まあどっちでもいいですけど。
試しに魔力を集中させてみますが······おや?
普通に使えそうですね。
おそらく、ワタシ達が高レベルであることと、スキルによる耐性によって、魔法封じが効かないみたいです。
姉さんもワタシと同じく魔法を使えるようですね。
しかし、そんなことがわからないミネラや男達は、勝利を確信した笑みをうかべています。
「ふふっ、おとなしくしてた方が身の為よ? せっかくのキレイな身体がキズモノになりたくはないでしょう」
自分達が優位だと信じて疑わない態度ですね。
魔法は使えますが、ここはあえて魔法無しで相手をしてあげましょうか。
ワタシは目の前の男の腹に軽く拳を入れました。
男は悶絶し、動けなくなりました。
男達のレベルは15〜20くらいです。
ワタシと姉さんのレベルは500を超えているんですよ。魔法無しでも余裕で相手にできます。
今のワタシの力で本気で殴れば、鋼鉄の鎧でもひしゃげてしまうでしょう。
我ながら化け物じみていますね。
かなり手加減しても男は耐えられなかったようです。
「こ、こいつ······!」
「気をつけろ!? きっと何か武器を隠し持ってたんだ!」
男達が慌てています。
武器なんて使っていませんよ。
動揺する男達を、次々と軽く攻撃して気絶させました。
「な、何やってるのよ!? そっちのトロくさい方を人質にしなさい!」
ミネラが慌てて指示を出しました。
トロくさい方というのは姉さんのことですね。
優しそうだった口調が崩れて、だんだん本性が出てきていますね。
確かに姉さんは怯えた様子を見せて弱々しいですが、あなた方よりも遥かにレベルは上なんですよ。
「おらっ、おとなしくこっちに······」
「ひぃやああーーっ!!」
荒々しく肩を掴まれた姉さんが叫び声をあげながら、男を放り投げました。
放り投げられた男はかなりの高さまで舞い上がり、受け身も取れずに地面に激突しました。
もしかして死······あ、生きてますね。
もう立ち上がれそうにないですけど。
テンパってる姉さんは手加減できないので、むしろワタシを相手にするよりも危険ですよ?
残りの男も無力化させて、立っているのはミネラだけになりました。
「な、な······なんであなた達、新人のくせにそんなに強いのよ!?」
ミネラはかなり動揺しています。
ワタシ達はベテランというわけでもありませんが、冒険者になってから、そこそこ長いんですけど。
「フリーズ」
逃げようとしたミネラを「氷」魔法で動けなくしました。足元が凍り付き、自力では脱出できません。
「なんで······魔法が使えるのよ!?」
「答える必要はありませんね」
ミネラの疑問に答える義理はありません。
姉さんに冒険者ギルドから人を呼んでもらい、ミネラと倒れている男達を連行させました。
この町の衛兵は正直信用できないので、冒険者ギルドの方に、この人達を裁いてもらいましょう。
こうして特に問題なく一件落着しました。
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後日、事情聴取のためにワタシと姉さんは冒険者ギルドまでやってきました。
男達はミネラにその日限りで雇われていただけの、ただのお金に困ったチンピラだったそうです。
問題のミネラはクラントールでは初犯だったそうですけど、他の町で似たようなことをしていたらしいので、余罪追求の取り調べを受けていました。
「あら、私を笑いに来たのかしら?」
冒険者ギルドの一室で、ミネラが軽い拘束をされた状態でギルドの職員に尋問を受けています。
両手両足の自由が効かない状態で、ミネラがふてぶてしい笑みをうかべています。
職員の尋問をのらりくらりかわすわ、スキを見せたら逃げようとするわで、反省の色が無いとのことです。
「別に笑うつもりはありませんよ。ワタシ達は特に被害を受けていませんし」
動機はともかく、ミネラにはこの町をある程度案内してもらいましたからね。
何かと助かったのも事実です。
しかし、ワタシ達だから何の被害もなく済みましたが、本当にただの新人だったなら、どうなっていたかわかりません。
ミネラの余罪追求をしっかりやって、二度とこんなことをさせないでほしいですね。
ですが、彼女の様子を見る限りだと再犯の可能性が大です。ギルドの職員の方々も、ミネラの尋問に苦労しています。
「みなさ~ん、差し入れ持ってきたですです!」
「マスター様からの慈悲です。お受け取り下さい」
そんな時、ギルドにディリーさんとアトリさんがやってきました。
レイさん達が育てた作物をこうやって、定期的に町の人にお裾分けしているそうです。
二人がキレイに切り分けられた、何種類もの果実の乗ったお皿を差し出してきました。
ギルド職員やワタシ達はありがたくいただきます。
ああ、やっぱりとても美味しいですね。
姉さんや職員の方々も頬を綻ばせています。
「······私の分は無いのかしら?」
それを見て、ミネラが羨ましそうにしていました。
あなたの分があるわけないじゃないですか。
「この人は、なんで縛られているですです?」
ディリーさんが首を傾げて言います。
職員の方々が簡単に事情を説明しました。
「尋問ですか。エンジェ様やアイラ様にやり方を教わっていますから、わたしが行いましょうか?」
アトリさんがそう言うと、手の先から液体が流れ落ちました。
液体が垂れ落ちるとジュワアアッと床が溶けました。これはアトリさんのスキル(強酸)ですね。
「まずは死なない程度に両腕を溶かしましょう。その後は徐々に全身を······」
それは尋問ではなく拷問では?
淡々と言うアトリさんを見て、ミネラの表情が引きつっています。
「そ、それは非人道的過ぎるでしょ!? いくらなんでも、私はそこまでの悪事は行ってないわよ!」
アトリさんが脅しや冗談で言っているわけではないと感じ取ったようですね。
シノブさんが上級、特級ポーションを作れるので、死なない限りはどんな重傷でも治せます。
素直に口を割らないのであれば、多少の拷問も実行してしまいそうですね。
しかし、シノブさんのポーションのことを知らないギルドの方々は、さすがにアトリさんを止めています。
まあワタシとしても、人が溶かされるところなんて見たくはありません。
誰か非人道的ではなく、それでいて、素直に口を割らせられる尋問を出来る人はいないでしょうか?
「それならば、私にお任せください」
そう思っていたところに、新たに誰かが入ってきました。ものすごく聞き覚えのある声なのですが······。
「ひっ!? な、何よあなたはっ!!?」
ミネラが入ってきた人物を見て、驚きと怯えの混じった声をあげました。
姉さんやギルドの職員も驚きの表情です。
ディリーさんとアトリさんは特に反応はありませんが。
「私の名は正義の仮面。これより私があなたの尋問を引き継ぎましょう」
入ってきたのは黒いマスクに下着一枚だけの姿をした男······正義の仮面さんでした。
一体何をやっているのですか、レイさん。