閑話⑧ 1 エイミとミールのクラントールでの騒動
(ミールside)
今日は姉さんと二人で、幻獣人族の里の外に出て、クラントールの冒険者ギルドに来ています。
神樹の迷宮攻略もいいですけど、たまには町に出て、冒険者として依頼を受けてみようと思ったんです。
里の結界の通り方は教えてもらったので、今では自由に出入り出来ます。
冒険者ギルドでは、前に色々あったためか絡んでくる人はいません。
まあ、いたとしても相応の反撃をさせてもらいますが。
転移魔法で来たため、あまり実感が沸きませんが、ここはワタシ達が住んでいた王都とは別の国なんですよね。
他の国の依頼に興味があったんです。
前に見た時は討伐依頼ばかりでしたけど、何か別なのが増えていますかね?
ざっと見ましたが、目ぼしい物はありませんね。
魔物に襲われたばかりのためか、復旧作業の手伝いや必要素材の納品などが増えてはいますが。
「あら、あなた達見ない顔ね? ここは初めてかしら」
依頼の貼り紙を覗いていたら、女性冒険者がワタシ達に声をかけてきました。
年は二十代前半くらいの人族でしょうか。
前に来た時には見なかった顔なので、ワタシ達のことを知らないみたいです。
「ワタシ達は先日、この町に来たばかりですので」
ワタシはそう答えました。
姉さんは初対面の人とはうまく話せないので、ここはワタシが相手をします。
「見たところ二人はエルフかしら? この辺りは女の子だけだと、なにかと危ないわよ」
ワタシ達はエルフではなくハーフエルフなんですけど、初対面の見知らぬ人にわざわざ訂正する必要はありませんね。
「あなたこそ、人のことを言えないのでは?」
「私はこれでも結構腕が立つのよ。魔術師ミネラと言えば、別の町では名が通っているわ」
どうやら、この人の名前はミネラというようです。自分で腕が立つと言っているだけあって、レベルは32と並の冒険者よりもそこそこ高めですね。
ワタシと姉さんも自己紹介をしました。
「ここで会ったのも何かの縁だし、この町の案内をしてあげるわよ」
ミネラはそんなことを言ってきました。
親切心でしょうか?
それとも何か企んでいるのか······見掛けでは判断出来ませんね。
「それならお願いしましょうか。姉さんもそれでいいですよね?」
「う、うん······ミールがそう言うなら······」
この町にはあまり足を運んでいないので、詳しい人が案内してくれるのなら色々助かります。
もしミネラが何か企んでいるのだとすれば、その時に対処すればいいのですし。
本当に親切な人だったら、こんなことを考えるのは失礼かもしれませんが、無警戒に信用は出来ませんからね。
ミネラの案内で町を回ります。
表通りにあるオススメの店をチェックします。
裏通りの雑貨屋など、言われなければわからない場所にある店なども教えてもらいました。
前にアイラさんとミウネーレさんのお兄さんがこの町に来た時に、領主相手に何かしたらしく、税率とやらが下がったそうです。
何をしたかは知りませんが。
そのため商店街が以前より充実しています。
「あなた達、冒険者なのに武器は持っていないの?」
武具店を見て回っていた時に、ミネラがそう聞いてきました。
「ワタシ達は魔法主体なので」
本当は収納魔法で仕舞っているだけで、ちゃんと専用の武器はあるのですけど。
オリハルコン製の杖なんて見せるわけにはいきませんし、そもそも収納魔法自体が珍しいですからね。
「ああ、エルフは潜在魔力が高いものね。けど、簡単な武器くらいは持っておいた方がいいわよ」
結構あっさりと納得してくれましたね。
まあ、深く聞かれても困るからいいのですけど。
商店街を後にすると、見覚えのある建物の前まで来ました。
「ここは最近、町に来た冒険者が建てた物だそうよ。見たこともないような食物を育てて、町の人に配ったりしてるみたいね。他国の貴族じゃないかと言われているわ」
ええ、その冒険者に心当たりありますよ。
だってここ、レイさん達が建てた屋敷なんですから。他国の貴族というのも的を得ていますね。
レイさん達は貴族ではないですが、他国の王族と対等に話せる人達ですから。
ワタシ達が屋敷の目の前まで来ると丁度、扉が開いて誰か出て来ました。
「あ、ミール様、エイミ様ですです! マスターは一緒じゃないですです?」
独特な喋り方のメイド······ディリーさんです。
この屋敷と周りの作物の実る土地は、メイド長のディリーさんと、補佐役のアトリさんを筆頭に、複数のメイドさんが管理しています。
「あ、あなた達······この屋敷の関係者だったの?」
ミネラが驚きの表情で言います。
「そうですね。ここの人達とは、それなりに親しいですし、色々お世話になっています」
「へ、へえー······そうだったの」
ミネラが何やら思案顔をしています。
他国の貴族と親しい間柄のワタシ達に何か思うところがあるのでしょうか。
ディリーさんへの挨拶はそこそこに、ワタシ達は屋敷を後にして町の散策を再開しました。
とは言っても、もう目ぼしい所は大体回りましたかね。
ミネラを先頭に付いて行っていたら、いつの間にか何やら人通りの少ない所に来ていました。
「な、なんだか寂しい通りに出たね······」
「そうですね。ミネラさん、こちらには何があるのですか?」
姉さんが不安そうな表情で言います。
嫌な予感がしますね······。
ミネラが振り向き笑みをうかべると、周囲からガラの悪い人相の男性が何人も出て来ました。
······これは、想定はしていましたが、どうやら嵌められたみたいですね。
「······どういうことでしょうか、ミネラさん?」
「ふふっ、見ての通りよ」
最初の優しげな笑みが、今はこちらを蔑む笑みに変わっています。
見ての通り······ですか。
親切を装いこちらに近付き、信用してきたところで、こうして嵌めるということですか。
「あなた達のような新人は、少し優しく言えば簡単に信用しちゃうのよね。人を疑うことを覚えるための儀式だと思いなさいな」
正直、信用していたわけではないのですけどね。
こんなことにならなければいいと思っていただけに残念です。
「安心しなさい。私達はそこまで非道じゃないつもりだから、おとなしくしていれば有り金とアイテムを巻き上げるだけで勘弁してあげるわ。あ、でもあなた達は貴族の関係者みたいだし、捕らえて身代金を要求するのもいいかもしれないわね」
ミネラも周囲の男達も勝ち誇った表情をしています。まあ、この人達から見れば、ワタシと姉さんは武器も持たない、ただの新人冒険者でしょうから。
姉さんが怯えた様子を見せているので、余計にか弱く見えるのでしょう。
けど、黙ってやられるつもりはありませんよ。
「ふふっ、魔法は使わせないわよ。魔法封じ!!」
ワタシが魔力を高めようとしたら、ミネラが懐から魔道具を取り出して発動させました。
これは以前、サラーナという貴族が使っていた魔法を封じる魔道具と同じような物のようです。
魔法を封じる魔道具まで持っているとは、用意周到ですね。