281 話し合いも終わり、その後のこと
つい気を抜いてしまったために、いつの間にかあの黒いマスクを被っていた。
まあ、今回はシャルルアに鍵を届けただけだし、町の外に出ていたから、他に目撃者がいなかったのが救いだな。
セーラやリン、ましてやアイラ姉と鉢合わせていたら、どうなっていたことか······。
シャルルア達には正体がバレたりしてないよな?
オレはすでに元の姿に戻って、龍王の城まで戻ってきている。
アイラ姉達は、まだ龍王と話し合いをしているのかな?
「師匠、お帰りでござる!」
城の正面ホールの復旧作業を手伝っていたシノブが出迎えてくれた。
短時間で復旧作業はほとんど終わっていたようだ。バルフィーユとの戦いで崩れた瓦礫は、ほぼ片付けられていた。
向こうではスミレとマティアが、龍人族の兵士に作業を手伝ったお礼を言われている。
二人とも、もちろんシノブも大活躍だったようだ。
「レイ、戻ってきていたのか。こちらもたった今、龍王殿との話し合いが終わったところだ」
奥の方からアイラ姉達が出てきた。
セーラとリンの姿もあるけど、エンジェの姿が見えないな。
「エンジェさんは、まだ龍王様と話をしていますね。昔馴染みのようで、積もる話が色々あるようです」
オレの疑問にセーラが答えてくれた。
オレも無事に、エレナを王都の本殿に送り届けたことを報告しておいた。
本殿でリイネさんに会って、聞いた内容も一応話す。
「魔王軍の侵攻が本格化してきているという話は、以前から出ていました。わたし達がいる国は、レイさん達のおかげで騎士や冒険者などの平均レベルが大きく上がっていますから、魔王軍が攻めてきても対抗出来ると思います」
リンが言う。
確かにグレンダさん所属の王国騎士団は、今や平均レベルが100を超えているくらいだ。
リヴィア教会の神殿騎士団も同じくらいだ。
だが、他の国の騎士や冒険者の平均レベルは20〜30くらいだそうだ。
並の魔物ならともかく、魔王軍を相手にするのは厳しいんじゃないかな。
「魔人族とやらが、どんな動きを見せるかわからないからな。ユウ達はしばらくは龍人族の国に匿ってもらうことになった。それと近いうちにリヴィア教会関係者を、この国に派遣することになった」
アイラ姉が龍王との話の内容を教えてくれた。
それにしても龍王か······。
オレも一目見てみたかったな。
龍の王というくらいだから、迫力あるんだろうな。
「いや、私達が謁見したのは人の姿でだぞ。龍の姿にも当然なれるらしいが、私も見ていない。話した印象としては、私は好感を持てる人物だと思ったぞ」
アイラ姉達が会った龍王は、人間形態だったのか。
シャルルア達も普段は人の姿だし、まあ当然か。
ちなみにアイラ姉でも、龍王を鑑定することは出来なかったらしい。
つまりは冥王クラスの実力があるということだな。
「特級ポーションと万能薬のおかげで、だいぶ体調が回復していました。ですが、それでも本調子ではなさそうでしたが」
セーラが言う。
特級ポーションや万能薬でも、万全にはならなかったのか。神将とやらの封印の効果が、それだけ強力なせいのようだ。
まあでも薬はシノブがいれば、いくらでも作れるからな。もう何本か使えば、完全回復するんじゃないかな。
後でリュガントさんかシャルルアあたりに渡しておこう。
話し合いも済み、女神の信託もクリアしたことだし、龍人族の国でやることはもう終わりかな。
「私とリンは、しばらくこの国に滞在する予定です」
「わたしとセーラ様は龍人族の人達と今後の取り決めなど、まだまだやることができましたから」
セーラとリンは王都に帰らずに、龍人族の国に残るようだ。すでに通信用の魔道具を使って、本殿には連絡済みらしい。
通信用の魔道具と言っても、念話やオレ達の世界の電話のように高性能ではないようで、簡単な伝言くらいしか出来ないようだが。
王都に戻るのは、派遣されてくる人達と話し合ってからになるようだ。
「なら、オレ達はもう幻獣人族の里に帰ろうか?」
「ウム、そうだな。だが別に急ぎでもないのだし、私も龍人族の町を見て回りたいから、その後だな」
オレやシノブ達はある程度回ったけど、アイラ姉は今まで話し合っていたからな。
なら、もう少し観光を楽しんでから帰るとするかな。
「ほらミリィ、そろそろ機嫌直しなさいよ」
「城には火山から湧き出た湯を利用した、天然温泉というものがある。湯浴みでもして落ち着こうぞ」
町の外に出ていたシャルルア達が帰ってきたようだ。プリプリと怒り心頭の様子のミリィを宥めている。
さっきのことのせいで、顔を合わせづらい。
「あ、レイさん。アイラさんも」
「ウム、テリアだったな。ユウ達と共にこの国でずいぶん活躍したそうだな。龍王殿が称賛していたぞ」
テリアがアイラ姉を見て姿勢を正した。
「わたしは誉められる程の活躍はしていません······。ほとんどがユウの手柄です」
「そんなことはない。ユウはもちろんそうじゃが、テリア達も大活躍だったぞ」
恐縮するテリアだが、シャルルアが改めて称賛した。
「そ、それよりも······あの時はユウを救ってくれてありがとうございます! ちゃんとお礼を言えなかったから、ずっと気にかかっていたので······。その上、今回もお世話になってしまって」
テリアが頭を下げて言う。
あの時というと、エイダスティアでの件か。
「気にすることはない。私達も、あの時は成り行きだったからな」
アイラ姉がそう返した。
あの時は、たまたまユウが町の結界を砕いたところに出くわし、結果的に手を貸すことになったんだよな。
「まあ、私も気にかかってはいたのだがな。もともと良い扱いを受けていなかったユウが、悪魔に操られていたとはいえ、あんな事件を起こしてしまったのだから。さらに追い詰められるようなことになるのではないか、とな。杞憂だったようで、何よりだが」
確かにエイダスティアでは、ユウは結構酷い扱いを受けていたんだったな。
今は聖女エレナには慕われているし、龍人族の国では英雄扱いだ。
ずいぶんと環境が変わったものだ。
「そう······ですね。エイダスティアでのユウへの対応は以前よりはマシになった······くらいですけど」
「ユウ様をイジメてた人間達なんて、全員殺しちゃえばいいんですよぉ!」
テリアが困ったような表情で言い、ミリィはかなり憤った口調で言った。
相変わらず過激な発言をする子だな。
「ユウが起こした事件? イジメ? テリア、ミリィよ、何の話じゃ?」
「············後で話すわ」
事情を知らないシャルルアが首を傾げている。
まあ過去はどうあれ、今は恵まれているようだし、よかったんじゃないかな。