280 シャルルア達と変態仮面男との邂逅②(※)
※(注)引き続き変態男が登場します。
(シャルルアside)
龍神様の試練の間の鍵を探して、テリアとミリィと共に、神将との決戦を繰り広げた地にやってきた。
やってきたといっても、都を出てすぐの場所じゃが。
そこで妾達は妙な男と遭遇した。
黒いマスクで顔を隠し、ほとんど裸のような格好······。
はっきり言ってしまえば変態男じゃ。
「何者じゃ、お主は!?」
妾は男に問いただす。
正直、あまり直視したくはないが、ここは目を逸らさずに言った。
何を企んでいるか、わからぬからな。
「私の名は正義の仮面。けして怪しい者ではありません」
男は、そう名乗りおったが怪しすぎるわっ!!
顔はわからぬが身体付きから、おそらく龍人族や獣人族ではなさそうじゃな。
人族······もしくは人族に近い姿をした魔人族か?
この大陸は気温が高めで、他種族には厳しい環境じゃが、いくらなんでも薄着すぎるじゃろう!
「ねえ、シャルルア。どう見ても怪しいわよ······」
「捕まえてから尋問した方がいいんじゃないですかぁ?」
テリアとミリィも、そう思ったようじゃな。
妾達は神将との戦いによって、大幅にレベルアップした。得体の知れない男を一人、取り押さえるくらい、訳はない!
「怪しい者でないと言うのなら、そのマスクを取って素顔を見せい! 顔を隠している時点で怪しいわ!」
「申し訳ありませんが正体を隠し、正義を行うことが私のモットーです。これを外すわけにはいきません」
もっともらしいことを言っておるが、ならばせめて、服くらい着てほしいのじゃが。
何故、顔を隠して身体は隠さん!?
「アクアブレスですぅ!!」
ミリィが問答無用で「水」魔法で男を攻撃した。
ミリィの魔力によって作られた高い威力の「水」が男を襲う。
「変態さんは死すべし、ですぅ!」
ミリィが言う。
避けることなく、まともに魔法を浴びたが、本当に死んでしまったのではないか?
「話し合いの最中に攻撃するのは、マナー違反ではありませんか?」
そんな心配は無用だったようじゃ。
男が何事もなかったように「水」から抜け出してきた。ミリィは妾と同じく神将との戦いによって、大幅にレベルアップしている。
そんなミリィの魔法をまともに浴びて、傷一つついておらん。
ミリィも驚愕の表情をうかべている。
「な、なんで無事なんですかぁ!? 結構、本気で撃ったんですよぉ!?」
「ミリィ、どきなさい! ギガントシュート!」
今度はテリアが男に向けて、魔力で作り出した巨大な矢を放った。
さすがに殺すつもりはないようじゃが、ある程度行動不能になるくらいのダメージは与えるつもりじゃな。
「ふんっ!!」
男は片手を前に出すと、巨大な矢をいとも簡単に受け止めおった。信じられぬ。
テリアとミリィはレベル600を超えておるのじゃぞ!?
この男、神将クラスの実力者だというのか!?
「ミリィ、わたしに魔力を寄越しなさい!」
「わかりましたよぉ、確実に仕留めちゃってくださいよぉ!」
テリアの言葉に素直に応じて、ミリィが魔力を送る。もはや手加減無用と判断し、全力で男を仕留めるつもりじゃ。
「「グングニール·ブレイ······」」
「させません!」
ミリィの援護を受けて強力な魔法を放とうとしたが、男は一瞬で間合いを詰めてテリアの腕を掴み、魔力を打ち消し、霧散させてしまった。
大量の魔力を一気に消費したことで、テリアが膝をついた。
「さあ、お嬢さん。少しは落ち着きましたか?」
「ひぃっ······!?」
男が優しい声色で言うが、テリアは小さく悲鳴をあげている。
丁度テリアが顔を上げた目の前に男の······があったのじゃから無理もない。
至近距離であんなモノを見てしまったことで、テリアが凍り付いたように動けずにいる。
男がほんの少しでも腰を突き出せば、顔に当たりそうな位置じゃ。
「スキあり、ですぅ!!」
ミリィが男の後ろから飛びかかった。
牙を突き立て噛み付き、(吸血)スキルで男の血を吸うつもりのようじゃ。
「おっと、危ない」
「えっ······きゃああぁっ!?」
男が振り向き、後ろに跳んでミリィの攻撃をかわした。攻撃を避けられたミリィは、そのままバランスを崩してしまう。
――――――――ムニョンッ
「大丈夫ですか? 吸血姫のお嬢さん」
「······――――!!??」
倒れ込んだミリィが、男の股間に顔面から突っ込んでしまった。
血を吸おうと口を開いた状態だったため、男のを············。
自分がどういう状態になっているのか理解したミリィが、顔を真っ赤にして、男から距離を取った。
「ーーーーーーっ!!!」
ミリィが男に向けて、何か叫びたそうにしているが言葉になっておらぬ。
よほどショックだったようじゃ。
ミリィは男慣れしているかと思っておったが、そんなことはなかったようじゃな。
テリアも「うわあ······」と言い、ミリィに同情的な表情をしている。
「私はあなた方と争う気はありません。どうか落ち着いて話をしましょう」
男がこちらを宥めるように言う。
確かに男はこちらに対して攻撃を加えて来ておらぬ。テリアとミリィが一方的に攻撃した挙げ句に、自爆したようなものじゃ。
男の怪しすぎる格好が問題だというのは、この際目をつぶっておこう。
「ならば、お主はここで何をしておった?」
妾は前に出て男に問う。
妾の後ろでは未だ混乱しているミリィを、テリアが宥めている。
「ここに、ではなく貴女に用があったのです。シャルルア殿」
妾の名を知っているのか?
妾に用じゃと?
このような格好をするような男の知り合いに心当たりはないのだが。
「これを届けに参りました。これは貴女の物では?」
男は何かを差し出してきた。
今、どこから出しおった!?
唯一身に付けている、その下着の中から取り出したように見えたが!?
······ん? 男が持っている物は······。
「そ、それは龍神様の試練の間の鍵······!?」
男の手にある物は、確かに龍神様の鍵じゃった。
何故、この男が持っている!?
というか神聖な鍵をなんちゅう所に入れておるのじゃ!!
「これはとある場所に落ちていました。貴女の物だと思い、こうして届けに来たのですが」
「う、うむ······確かに妾の物じゃが」
つまりは、この男は妾にこれを届けに来ただけじゃということか?
そうだとするなら、ありがたいことじゃが······。
「どうしましたか? どうぞお受け取り下さい」
「············うむ、か、感謝する」
男が鍵を取り出した場所が場所なだけに、受け取るのを躊躇ってしまった。
······これは試練の一環じゃ。
大切な鍵を落としてしまった妾への、新たな試練じゃ。大丈夫じゃ、この男は相当な実力者······。
本当に下着の中に入れているはずはない。
きっと収納魔法を使っていたのじゃ。
············受け取った鍵が人肌のような温かみを感じるのは、きっと気のせいじゃ。
「では、私はこれで失礼します」
男がそう言うと、あっという間に去っていった。
一体何者だったのじゃ?
「······この大陸って変わった人がいるのね」
「いや······あのような男、妾も見るのは初めてじゃ。少なくとも龍人族ではないと思うぞ」
テリアのつぶやきに、妾はそう答えておいた。
妙な誤解をされては、たまったものじゃない。
何にしても、龍神様の鍵が見つかったことはよかった。あの男の正体は気になるが、今回はそれで満足しておこう。
だが、それで一件落着とは行かず、あの男に対して怒りを覚えている者もいる。
ようやく落ち着いてきたミリィだが、今度は怒りで興奮していた。
「ミリィ、アンタって意外と初心だったのね」
「意外とは余計ですよぉ、テリっちぃ! ミリィは身も心も清いんですからねぇ!」
テリアの言葉に憤りながらミリィが言う。
「うぅ〜······初めてはユウ様のって決めてたのにぃ! あの変人男、今度会ったら絶対殺してやるですぅ!」
ミリィがこんなにも怒っているのを見るのは初めてじゃ。······気持ちは理解出来なくもないが。
妾とテリアは、そんなミリィを宥めながら都へと戻った。