275 撤退
オレとバルフィーユの戦いは、今のところ互角に進んでいる。バルフィーユは新たな魔剣を取り出して、向かってきた。
さっきの剣をナマクラと言っていただけに、今度のはより強力なやつだ。
このままじゃ埒が明かないと思い、「聖」属性の最上級魔法を使ったが、たいして効果がないようだ。
オレの聖剣で何度斬りつけても、バルフィーユは怯む様子はない。
バルフィーユの魔剣でオレも何度か斬られたが(強化再生)スキルにより、すぐに回復している。
再生するたびにオレの身体は永続的に強化されるが、あまり進んで斬られたくはない。
バルフィーユの再生スキルは(強化再生)じゃないよな?
もし(強化再生)なら、お互いに強くなってしまうので、やはり決め手にかけてしまう。
〈(聖剣術)のスキルレベルが上限に達しました。(聖剣術)が(神聖剣術)に進化します〉
何度も斬り合いを続けていたら、オレのステータス画面にそんな表示が出た。
スキルの進化?
詳細を見たいが、そんな余裕はない。
けど、なんとなくだが新しく覚えたと思われる剣技の使い方が頭に浮かんだ。
せっかくだし試してみよう。
「聖光雷神剣っ!!」
聖剣に「聖」と「雷」属性の魔力を纏わせ、斬りかかった。
バルフィーユは魔剣で受け止めたが、武器を伝って「雷」が全身に駆け巡る。
「ぐおおっっっ!?」
結構効いているみたいだ。
さすがに、この攻撃を受け続けるのはキツかったのか、バルフィーユは後ろに跳んで体制を立て直した。
「今のは効いたぜ。まさか、そこまでの剣術を使えるとはな」
効いたと言っているが、まだ余裕を感じるな。
だが(神聖剣術)は(聖剣術)よりも威力が段違いだ。そのせいで聖剣にわずかにヒビが入ってしまっている。
反動が強すぎるから、聖剣でも技の威力に耐えられないようだ。
自動修復が付与されているので、すぐに元通りになったが(神聖剣術)は聖剣以上の耐久力のある武器じゃないと、まともに扱えそうにないな。
「こんなにも楽しませてくれた礼だ。俺の本気を見せてやるぜ······!」
バルフィーユがそう言って、全身に魔力を集中し始めた。今までは本気じゃなかったのかよ。
バルフィーユの全身を巡る魔力が身体を強化し、作り変えていっている。
まさか変身······第二形態とかあるのか?
ゲームじゃないんだから勘弁して欲しいんだが。
「ハハハハハッ!!!」
バルフィーユから感じる力······。
マジで洒落になってないぞ。
城全体が激しく揺れ、シャルルア達が周囲に被害が出ないように張っていた結界が砕け散った。
これは本気でヤバい······!?
オレはバルフィーユが動く前に聖剣が壊れるのを覚悟で(神聖剣術)で斬りかか――――
――――――――!!!!!
「ぐおっ······!!?」
――――ろうとしたが、その前に別の攻撃がバルフィーユを止めた。
メリッサが巨大なハンマーを振り下ろし、バルフィーユの頭を思い切り殴ったのだ。
「いっ······てえなっ!? 何しやがるメリッサ!」
バルフィーユがメリッサに怒りの声をあげる。
今のは普通は痛いじゃ済まない、ぺしゃんこになってもおかしくない一撃だと思ったが。
「何するはこっちのセリフだよ、バル兄! 戦争しに来たんじゃないって言ってたのバル兄じゃん! 本気を出して、この国滅ぼすつもりなの!? トゥーレに怒られるよ!」
メリッサも何やらお怒りな様子で言っている。
どういうことだ?
二人は龍人族を滅ぼすつもりはないのか?
「少しくらい、いいだろうが! せっかく面白くなってきてるのによ」
「バル兄の少しはシャレにならないよ! 熱くなると周りが見えなくなって、そういう所が子供っぽいよ!」
「いつも進んで騒動起こす、お前には言われたくねえよ!」
まるで兄妹喧嘩のように言い合う二人。
シリアスな雰囲気だったけど、それが台無しになった気がする。
まあ、おかげでオレも一息つけたが。
「ああ、もうわかったよ! はあ、せっかく盛り上がってたのに、なんかシラケちまったな」
バルフィーユは集中していた魔力を霧散させた。身体の変化も戻っていく。
持っていた魔剣も収納魔法で仕舞い、完全に戦意がなくなっているように見える。
「おとなしく捕まるのか?」
「そんなつもりはねえよ。もう目的も果たしてるし、俺らは帰らせてもらうぜ」
オレが警戒を解かずに言うと、バルフィーユは苦笑いしながら、そう答えた。
「こんな大事にして、素直に帰してもらえるとは思えないけど?」
「まあ、俺も最初は騒ぎを起こすつもりはなかったんだがな。その点は悪かったと言うしかねえな」
そう言うとバルフィーユの背中から、黒く染まった翼が現れ、飛び上がった。
まるで漆黒の天使みたいだな。
メリッサはバルフィーユの足にしがみつく。
「騒がして悪かったな。確かに神槍は返してもらったぜ。宝物庫の他のアイテムには、一切手を付けてねえから安心しろよ」
バルフィーユがシャルルア達に向けて言う。
神槍? 何のことだ?
「シノブ〜、スミレ〜、マティア〜! それとレイおにーさんも今日は楽しかったよ! また一緒に遊ぼうね〜。龍人族の人達も、お城の門壊してごめんなさいね〜!」
メリッサが緊張感のない無邪気な笑顔で言う。
まるで普通に友達とお別れするみたいな言い方だ。
「ま、待てっ! その神槍を使って何をするつもりじゃ! また我が国で、何か企むつもりか!?」
シャルルアが二人に向けて叫ぶ。
「安心しろよ、俺らはこの国に手を出す気はないからな。コイツは別件で使わせてもらう」
「言っとくけど、アチシ達は今の魔王軍とは関係ないからね! あんなヤツらと一緒にしないでよ」
今の魔王軍?
前にもそんなことを言っていた奴がいたような······。魔人族とやらの事情はさっぱりだから、よくわからないな。
けど少なくとも、この二人は龍人族の国に、これ以上手を出す気はないみたいだ。
本当かどうかはわからないが、信用してもいい気がする。
「じゃあな、レイ。またお前と本気で戦える時を楽しみにしてるぜ」
バルフィーユが笑みをうかべて言う。
オレは出来れば遠慮したい。
「じゃ〜ね〜っ!!」
メリッサが手を振り、バルフィーユが翼を広げて城の天井を突き破り、飛び去った。
探知魔法の反応もすごい速さで遠のいていき、圏外へと消えた。
どうやら本当に帰っていったようだ。