272 早すぎる再会
龍人族の町を見て回って、結構な時間が経ったかな。色々と興味深いものも見れたし、有意義な時間だった。
王都と同じくらい広い町で、一日ですべてを回るのは無理だから、今度アイラ姉達を連れて来て、観光するのもいいかもしれないな。
「おう、助かったぜ、お嬢ちゃん達! 今度来た時はとびきりのごちそうを用意してやるぜ」
シノブ達は少し復旧作業を手伝っていた。
シノブ、スミレ、マティアは見た目は幼いけど高レベルでステータスも高い。
復旧作業に多大な貢献をしていた。
もちろん、オレも手を貸したけど。
そのことで龍人族の人にお礼を言われていた。
とびきりのごちそうと聞いて、スミレとマティアの目が輝いた気がする。
さて、そろそろ龍王の城に戻った方がいいかな。
修羅場は落ち着いたと言っていたし、丁度良い頃合いだろう。
「どうしたでござるか? スミレ殿、マティア殿」
そう考えていたら、シノブのそんな声が聞こえてきた。スミレとマティアは二人揃って、遠目に見える龍王の城に目を向けている。
「······城から戦ってる音が聞こえる」
「たぶん、たたかいがおこなわれている······」
二人が言う。ここからそんなのが聞こえるのか?
オレには特に何も聞こえないが。
というか戦ってる音? 一体どういうことだ?
そう思っていたところで、リンの念話が入った。
―――――レイさん、すぐに戻ってきてもらえますか? 城に魔人族が攻めてきました。魔人は二人だけですが、恐ろしく強いです。特に片方は、わたし達ではまともに相手が出来るかわかりません!
リンの声はかなり慌てた様子だ。
まともに相手が出来ないって、そんなにヤバい奴が攻めてきたのか?
リンやセーラはレベル400を超えているし、エンジェなんてレベル500以上だぞ?
シャルルア達だってそれ以上のレベルだし、龍人族の戦士達だっているはずだ。
そんなリン達が相手に出来ないだって?
戦闘中で余裕がないのか、リンは一方的に念話を切ってしまった。
「何やら不穏な事態でござるか、師匠?」
「ああ、どうやら魔人族って奴らが城に攻めてきたらしい」
オレはシノブ達に念話の内容を簡単に話した。
というかオレも詳しくはわからない。
すぐに城に戻った方がよさそうだ。
「城の入口まで転移で行くよ、みんな集まって!」
龍王の城はここからでも見えるが、走っていくと時間がかかる。
オレはシノブ達を連れて城の入口まで転移した。
城の入口まで来ると、正門が派手に壊されていた。
かなり頑丈な門だと思ってたんだが、見るも無惨に破壊されていた。
おいおい、どんな化け物が攻めてきたんだよ······。
城の中からは戦闘音が響いてきている。
スミレ達が聞こえたというのは、これのことか。
「シノブ、スミレ、マティア。どんな敵かわからない、油断しないようにな」
オレの言葉に三人が頷く。
オレが先頭になって、壊された門をくぐって中へ入った。戦闘はすぐそこで行われていたようだ。
正面ホールでは、何人もの龍人族の戦士が倒れ伏していた。
すでに治癒した後のようで、意識はないが息はある。心配はいらないみたいだな。
「ハハハハハッ!! どうした、もっと俺を本気にできねえのか!」
楽しそうな笑い声をあげている男が、リン達と戦いを繰り広げていた。
魔人族の男······バルフィーユじゃねえか。
向こうには、その戦いを見ているだけのメリッサの姿もある。二人組の魔人ってバルフィーユとメリッサのことか?
まあ、この状況から間違いなさそうだが。
正直、もしかしたらとは思っていたんだよな。
「ぬぅおーーっ! 神槍剛龍閃!!!」
リュガントさんがバルフィーユに向けて剛槍を突き出した。
剛槍からは凄まじい力が発せられている。
だがバルフィーユは剛槍を片手で掴み、力任せにリュガントさんを放り投げた。
リュガントさんは壁に激突し、倒れた。
剛槍を杖代わりに立ち上がろうとしているが、ダメージが大きいみたいだ。
周囲にはセーラ、エレナ、シャルルアにテリア、ミリィ、エンジェ、そしてリンが満身創痍の状態で立っている。
全員疲労困憊のようだが、大きな怪我もなさそうだ。
「ま、なかなか楽しめたぜ。これで終わりにしてやる」
バルフィーユが両手に魔力を集中させている。
あれはヤバい······!
オレは聖剣エルセヴィオを構えて、飛び出した。
「暴風地焔······」
「させるかっ!!」
聖剣で斬りかかり、バルフィーユの魔法を中断させた。バルフィーユは両手で白刃取りの形で、聖剣を受け止めた。
「よう、レイじゃねえか。さっきぶりだな」
「こんなに早く、こんな形で再会するとは思わなかったよ、バルフィーユ」
バルフィーユはオレを見て、動揺することなく笑みをうかべた。
結構、本気で斬りかかったが受け止められたか。
お互いに軽口をたたきながらも、手の力は緩めない。
「まさか、バルフィーユが魔人族だったとはね」
鑑定出来ない時点で只者じゃないとは思っていたけど。けど、魔王の手先のような悪者とは思ってなかったのだが。
「そういうお前も勇者だったとはな。こいつは聖剣だろ? まさかナークを倒した勇者ってのも、お前か?」
オレの武器が聖剣だと簡単に見破られたな。
ナークってのは······確か前に攻めてきた神将と呼ばれる魔人が、ナークなんたらとか長ったらしい名前だったが、そいつのことかな?
「残念ながら人違いだよ」
「そうだな。聞いた話じゃ勇者は、もう少し幼い容姿だったはずだからな」
オレよりも幼い容姿の勇者。
まず間違いなくユウのことだろう。
「まあ、そんなことはどうでもいいぜ。お前とは戦ってみたいと思ってたんだ。お前も勇者なんだろ? なら楽しませてくれよ!」
バルフィーユは戦う気満々みたいだな。
正直、オレとしては遠慮したいのが本音だが。
だが、城を攻めてきた理由は知らないが、リン達を傷付けたのは事実だ。
なら望み通り本気で相手をしてやる。