271 戦闘狂の魔人
(リンside)
龍人族の王、龍王の城に二人組の魔人族が攻めてきました。
シャルルアさん達が慌てて向かったので、わたし達も後を追って駆けつけると、魔人族は小さな女の子でした。
シノブさんやスミレさんと同じくらいの年齢に見えます。
その女の子が自身よりも大きなハンマーを武器に、龍人族の戦士達と戦っています。
もちろん、わたし達も参戦しました。
魔人族の女の子、メリッサはとんでもなく強いです。冥王との戦いによってレベルアップしたわたしでも、力負けしそうになります。
しかし、この場にはわたしだけでなく、聖女セーラ様にエレナさん、神子シャルルアさんにテリアさん、ミリィさん、さらにはエンジェさんに龍人族総隊長リュガントさんもいます。
全員が高レベルの実力者です。
さすがに全員を相手には出来ないようで、メリッサを追い詰めました。
そんな時、背後から凄まじい威圧を感じ、反射的に振り返りました。
そこには長身の男が立っていました。
おそらく、この男が二人組の片割れでしょう。
手には異様な気配を発している槍を持っています。
しかし、この男から感じる威圧······。
学園で戦った冥王を上回っている気がするのですが。この男が魔王だと言われても、納得してしまいそうです。
鑑定出来ませんでしたが、少なくともメリッサを遥かに上回っているでしょう。
「俺は女子供を痛ぶる趣味はねえが、戦いとなったら話は別だ。全力でかかってきな」
魔人族の男は手に持っていた槍をメリッサに渡し、下がらせました。
そして男が戦闘態勢に入りました。
触れただけで身体が震え上がるほどの魔力を放っています。
しかし、震えているわけにはいきません。
わたしはセーラ様とエレナさんを下がらせ、前に出ます。レイさんにも念話で簡単に現状を知らせました。
「わたしは聖女様の盾、リンです! 魔人族よ、覚悟しなさい!」
わたしは大剣を構えて、名乗りを上げました。
手加減は無用······というより、そんなことをしていたら、あっという間に殺されてしまいます!
「でりゃあーーっ!!」
(雄叫び)で力を上げ、男に斬りかかりました。
男は素早くかわします。
「ミリィ、わたしに合わせなさい!」
「テリっちがミリィに合わせて下さいよぉ!」
テリアさんとミリィさんが、間髪入れずに攻撃を仕掛けます。
男は笑みをうかべながら、攻撃を受け流しました。
「やるなあ。やっぱ戦いってのはこうでなきゃな。俺の名はバルフィーユ。神将が一角だ。ナークを倒した力、見せてくれよ!」
神将!? 魔王を上回るという存在ですか!
「元神将だけどね。バル兄、ずいぶん前に魔神の命令なんて聞いてられるか〜って言って、自分から神将の座を降りたじゃん?」
「せっかくキメてんのに余計なことを言うんじゃねえよ、このバカ」
······? どういうことでしょうか?
よくわかりませんが場違いな会話のおかげで、少しだけ緊張が緩みました。
魔人族の男、バルフィーユがメリッサを黙らせると気を取り直して、こちらを向きました。
「まあ、なんでもいい。精々楽しませてくれよ!! 煉獄火炎弾!!!」
バルフィーユがわたし達に向けて魔法を放ってきました。
これは下級魔法のファイアボール?
いえ、とても下級魔法と呼べる威力ではありません。そんな火の球を無数に放ってきました。
「お下がりください、セーラ様、みなさん!」
わたしはセーラ様達の前に立ち、魔法障壁を張りました。一発一発が重すぎます······。
数発受けただけで障壁が砕けそうです。
「ほう、さすがにこれくらいは楽に防ぐか。なら、これはどうだ? 氷結爆砕弾!!」
今度は「氷」魔法ですか······!?
無数の氷の礫が障壁に貼り付き、破裂しました。
全力で張ったわたしの障壁が簡単に砕け散りました。
「エレナさん、シャルルアさん! 私達で、あの魔人の力を抑え込むのです!」
「はいっ! リンさん、下がってください!」
「任せるのじゃ! 神子の力を全開で放つ、出し惜しみはせぬ!」
セーラ様を中心に、エレナさんとシャルルアさんが魔力を集中します。
聖女様と神子の力が合わさり、とてつもない魔力が集まっています。
そして、その魔力を一気に解き放ちました。
「うおっ!? 人族の聖女に龍神の神子の力か? どっちも覚醒前みたいだが、すげえ魔力じゃねえか」
セーラ様達が放った魔法をまともに浴びたはずなのに、まるで効いていません。
「覚醒してたらもっと楽しめるんだがな。そこんところが残念だ、ほらよっ!!」
「「「きゃあああっ!?」」」
バルフィーユが反撃をしました。
おそらく、この男にとってはセーラ様達の魔法を軽く押し返しただけのようです。
それによってセーラ様達が派手に弾き飛ばされました。
「セーラ様、みなさん!? おのれっ······許しませんよ!!」
セーラ様達は無事です。
すぐに立ち上がり、大きな怪我もないようです。
わたしは相手が追い打ちをかけてくる前に斬りかかりました。
しかし、わたしの大剣は簡単に受け止められてしまいました。
「離れよ、聖女の護衛騎士よ! 魔力吸収!!」
その言葉を受けて、わたしは後ろに跳びました。
男の足下に魔法陣が現れます。
エンジェさんがスキルを使って、バルフィーユの魔力を吸収したようです。
「へえ、メリッサと同じスキルが使えるのかよ。どいつもこいつも、やるじゃねえか」
相当な量の魔力を吸収されたはずなのに、平然としています。
バルフィーユは一瞬で間合いを詰め、エンジェさんに攻撃を仕掛けました。
魔力だけでなく体術も長けているようで、連続攻撃でエンジェさんが追い詰められています。
エンジェさんは物理攻撃を軽減するスキルを持っていますが、それでも目に見えてダメージを受けています。
この男の攻撃がそれだけ強いということです。
全員で出し惜しみなく、全力で攻撃を加えてますが、男は余裕ですべてを防いでいます。
このままではまずいです······。
レイさん、早く来てください······!