269 二人組の魔人族
(シャルルアside)
龍王様の居城に、またも魔人族が性懲りも無く襲撃してきたようじゃ。
神将が討たれ、魔人族は動揺して、それどころではないと思っていたのじゃが。
しかし相手が二人だけとは、どういうことじゃろうか?
少数精鋭? だがそれなら何故、神将と共に攻めて来ずに今頃? 考えてもわからぬ。
正面ホールに駆けつけると、激しい戦闘音が響いてきた。リュガントと打ち合っている、あの小さな子供が魔人族なのか?
背が低く童顔で、ただの幼い子供にしか見えぬ。
······だが強い。
並の戦士達では歯が立たないようで、今、リュガントとも互角に打ち合っておる。
リュガントは神将との戦いで消耗していて、まだ本調子ではないとはいえ······む?
リュガントの顔色は、健康体そのものに見える。
先ほどまであったはずの身体の傷も、すでに癒えているような······。
いや、今はそんなことを気にしている場合ではない。
「え〜〜いっ!!」
「ぬぐっ······!?」
魔人族の少女の攻撃でリュガントが後ろに押され、膝をついた。
力はリュガントがわずかに上のようじゃが、小柄で素早く動く少女に翻弄されてしまった。
「援軍かな? にししっ、今のアチシはお腹いっぱいで絶好調なんだから。いくらでも来ていいよ!」
魔人族の少女がこちらに目を向けた。
コヤツ······神将ほどではないが、並の魔人族よりは遥かに強い。
しかし、無邪気な笑顔で悪意のようなものは感じない。一体、何が目的じゃ?
「妾は龍神の神子シャルルアじゃ! 魔人族よ、お主の目的はなんじゃ!」
妾は名乗りを上げ、少女に問いただす。
「アチシはメリッサ! アチシはバル兄の付き添いだからよくわかんないけど、ナークの落とし物を回収しに来たとか言ってたよ?」
魔人族の少女······名はメリッサか。
侵入者は二人という話だったが、バル兄というのはもう一人の方か?
そういえば姿が見えぬ。
そしてナークの落とし物······。
神将ナークヴァイティニアのことか?
魔神ディヴェードにもっとも近いと言われている神将に対して、ずいぶんと馴れ馴れしい態度じゃな。
子供だからじゃろうか?
「シャルルア様、申し訳ありませぬ! もう一人の魔人族は奥の方に······」
リュガントが言う。
リュガントの示した先は······城の宝物庫か!?
まさか神将の落とし物というのは······。
「にっしっし〜、強そうなのがいっぱい! もっとアチシを楽しませてよ!」
メリッサが巨大なハンマーを叩きつけてきた。
城が揺れるほどの強い衝撃じゃ。
「小さな子だからって手加減してる場合じゃなさそうね」
「そんなに遊びたいなら、ミリィが相手をしてあげますよぉ!」
テリアとミリィがメリッサに攻撃を仕掛けた。
テリアがスキルで作り出した矢を放ち、ミリィは「水」属性の上級魔法を放った。
「うっひゃあっ!! お姉さん達強いね! けど、アチシだって負けないよ〜!」
二人の攻撃をギリギリで受け流し、反撃に出た。
この少女、見掛けによらず高レベルのようじゃが、神将を倒したことによって、妾達は大幅にレベルアップしている。
レベルはこちらが上回っているのじゃ。
「わたしも加勢します!」
聖女セーラ殿の護衛騎士のリンも大剣を構えて、テリア達と共に戦いに入った。
この者もリュガントに匹敵するほどの実力者のようじゃ。
「エレナさん、私達もみなさんを援護しますよ」
「はい、任せてください!」
セーラ殿とエレナも聖女の力を持って、皆を援護する。セーラ殿は妾達と共にレベルアップしたエレナに負けず劣らずのレベルのようじゃ。
外に出掛けたレイ殿達も相当な実力者じゃったが、人族というのは、これ程までの強さを秘めた者達じゃったのか。
「ひゃあっ······さ、さすがのアチシも、ちょっとキツイかな? だったら······魔力吸収!!」
多勢に無勢でレベルもこちらが上。
さすがに不利になったと判断したメリッサが、スキルを使ってきた。
これは周囲にいる生物の魔力を吸収するスキルか? これ程の上位スキルを使えるとは。
「くかかっ、魔力の吸収はワシも得意じゃぞ? 魔力吸収返し!」
エンジェ殿が同じスキルを使い、メリッサのスキルを相殺した。
エンジェ殿はリュガントの知り合いのようじゃったが、一体何者じゃろうか?
人族ではないらしいのだが。
スキルを相殺され、皆に取り囲まれる形となったメリッサが冷や汗をかいている。
「み、みんな強すぎじゃない? ナークがやられるのも納得だね。一対一なら負けないけど、この人数はアチシじゃヤバいかな〜? バル兄なら大喜びしそうだけど······」
さっきまでの無邪気な笑顔が引きつっておるな。
この状況では勝ち目はあるまい。
逃げることも厳しいじゃろう。
「大人しく降伏するならば、命までは取りはせぬぞ」
リュガントも立ち上がり、メリッサに剛槍を突きつける。
魔人族とはいえ、小さな子供の命を取るのはさすがに抵抗があるじゃろう。
素直に降伏してくれればよいが。
――――――――!!!
背後にとてつもない圧力を感じ、振り返る。
そこには長い髪に長身の男が立っていた。
その男を見ただけで、全身から汗が吹き出る感覚に襲われた。
妾以外も同じような表情じゃ······。
「ずいぶん楽しそうじゃねえか、メリッサ。俺も混ぜろよ」
獰猛な笑みをうかべて男が言う。
男の手には神将ナークヴァイティニアが使っていた武器が握られている。
神槍イシュヴァランス。
ジャネンの持っていた神剣に匹敵する、恐ろしい力を秘めた武器じゃ。
使用者に合わせて大きさが変わるらしく、神将が使っていた時は数メートルはある巨槍だったが、今はリュガントの持つ剛槍とサイズは変わらぬ。
とても妾達では扱えぬため、城の宝物庫に厳重に封印していたのじゃが。
この男、その封印をあっさり解いたのか!?
それにこの男から感じる圧力······。
下手をすれば、神将ナークヴァイティニアよりも上かもしれぬ。