266 バルフィーユとメリッサ
龍人族の町の屋台で食べ歩きをしていたら、迷子の女の子メリッサが加わって、一緒に行動することになった。
人見知りしないシノブ達は、すぐにメリッサと仲良くなり、楽しく食べ歩きながらお喋りをしていた。
そこにメリッサの保護者である、お兄さんが現れた。
メリッサを捜して、ずいぶん歩き回ったようで、かなりお怒りの様子だ。
「悪いな、うちのバカが世話になってたみたいで」
苦笑いをうかべながら、お兄さんがそう言ってきた。柄の悪そうな顔立ちだが、悪い人じゃなさそうだ。
「俺はバルフィーユ。本当助かったぜ、あのメリッサはすぐに騒動を起こしやがるからな」
「オレはレイ。別に気にしなくていいよ。オレはあの子に食べ物を奢っただけだし」
お兄さんが名乗ったので、オレも名乗り返した。
ちなみに当人のメリッサは、スミレ達と一緒に再び屋台の食べ物を注文している。
スミレ、マティア、メリッサはガツガツ食べまくっているが、シノブはもうお腹いっぱいの様子だ。
オレとバルフィーユは、その様子を遠巻きに見ている。
「しっかし珍しいな。お前さんら、龍人族じゃなくて人族だろ? この町は人族にとって、住みづらい環境だと聞いていたが」
住みづらいというのは、やはりこの気候のことだろう。冷気を放つ魔道具があるが、かなりの高級品だった。
冷房無しで、ここに住むのは確かにキツイだろう。
「オレ達は観光で来ただけだから。メリッサから聞いたけど、バルフィーユ達も同じなんだろ?」
「まあな」
しかし、二人で観光に来たらしいが兄妹だろうか?
言ってはなんだが、あまり似ていない気がする。
二人の種族はなんだろうか?
人族にも見えるが、この言い方だと違うのだろう。
「観光はついでなんだがな。俺の知り合いが、この辺りで落とし物をしたらしくてな。それを回収しに来たんだが······それを探してる内に、どっかのメリッサが迷子になってな」
「落とし物? なんなら探すの手伝おうか?」
「いや、それには及ばないぜ。もうどこにあるかはわかってるからな」
なんだろう、大事な物なのかな?
まあ、見つかってるなら余計なことをする必要はないか。
「それよりもレイ、お前かなり強いな? 俺でも強さの底が見えないぜ」
バルフィーユが笑みをうかべながら言う。
ひょっとしてオレに鑑定魔法でも使ったのかな?
「そうでもないよ。オレはあんまり戦うのは好きじゃないし。バルフィーユの方こそ、相当強いんじゃないか?」
嘘は言っていない。
オレは戦うより、のんびりしている方が好きだし。
バルフィーユは長身で引き締まった身体付きで、見た目だけでも相当強そうだ。
一体何者だろうか?
オレが鑑定出来なかった相手なんて、真の力を解放した冥王くらいだったが······。
バルフィーユは冥王級の力の持ち主なのか?
それとも(神眼)の効果すら弾く、強力な妨害魔法を使っているだけだろうか?
まあ冥王級の強さを持つ奴が、そうそういるわけないよな。
「そうなのかよ? 強そうなのに変わってやがるな。力と力のぶつかり合い、命を賭けた死闘······俺はそういうのに心踊るんだが」
バルフィーユは戦闘狂なのかな?
獣人とかが、そういうタイプが多いと聞いた覚えがあるけど。
その後も軽い雑談を交わしたけど、怖そうな見た目とは裏腹に、気さくで話しやすい人だった。
好奇心旺盛なメリッサに散々振り回されるなど、愚痴のようなことも吐いていた。
「お互いに子供のお守りに苦労してそうだな······」
「いや、オレはそこまで苦労は······」
シノブは口調はともかく、礼儀正しく、そんなに無茶はしない。
スミレもアイラ姉の教育で常識を身に付けているし。マティアは今日初めて会ったので、詳しく知らないが。
「しかし、あのマティアとかいう女······昔どっかで見た覚えがあるような······。よく思い出せねえな」
バルフィーユはボソッと、よくわからないことをつぶやいていた。
「おい、メリッサ! いつまで食ってやがる、そろそろ行くぞ!」
いつまでも食べ続けているメリッサ達に、痺れを切らし大声で叫ぶ。
「わかったよ、バル兄。スミレ、シノブ、マティア、それにレイおにーさん。どうもありがとねっ! 今日はとっても楽しかったよ!」
スミレもマティアもメリッサも、かなりの量を食べていたからな。
さすがに満足したようだ。
シノブもよく頑張って付き合ったものだ。
「このメリッサが迷惑して悪かったな。こいつは立て替えてもらったメシの代金だ」
バルフィーユがそう言って、金貨を数枚渡してきた。メリッサどころか、スミレとマティアが食べた分と合わせても多すぎるくらいだが。
「ちょっと多すぎるけど?」
「とっときな。メリッサの迷惑料代わりも入ってる」
そういうことなら、素直に受け取っておくか。
スミレ達と楽しそうに食べ歩いてただけで、迷惑かけられたとは思ってないけど。
バルフィーユはメリッサを引きずるように、連れて去っていった。
見方によっては人攫いに見えるぞ。
目立つ二人だったし、またどこかで会いそうな気がするな。