265 迷子の子供?
色々な屋台を回り、なんだかんだで、かなり食べてしまった。
正直、王都の料理よりも味は上だった。
とは言っても焼いただけの物で、ちゃんとした料理とは言えなかったけど。
もともとの素材が良い物だったのかな?
この大陸の食材は、質が良いのかもしれない。
定食屋の営業が再開したら、是非食べでみたいな。
オレとシノブはすでに満足しているけど、スミレとマティアはまだまだ食べ足りないようだ。
今も屋台の食べ物を片っ端から注文している。
この二人のお腹の中はどうなっているんだ?
王都でも、こうやって食べ歩きをしている内に仲良くなったらしい。
「二人とも、すごい食欲でござるな······」
シノブも呆れたように二人を見ていた。
周囲の人達は二人の食べっぷりに頬を緩めて、色々とサービスしてくれている。
スミレとマティアはほぼ無表情だが、傍目から見ても本当に美味しそうに食べている。
見ていて癒やされる気分になるのだろう。
「············じゅる」
そんなスミレとマティアを羨ましそうに見ている子がいる。
町の住人だろうか?
スミレ達とそんなに変わらないくらいの女の子だ。
――――――――ぐぅう〜〜っ
低い唸り声のような音が響いた。
スミレとマティアではなく、この女の子のお腹の音のようだ。
「············食べる?」
その音に気付いて、スミレが女の子に屋台で買った串焼きを差し出す。
「食べる〜! い、いいの? いいのよね? アチシお金持ってないよ?」
遠慮気味に言うが、女の子の目線はスミレの差し出した食べ物に集中している。
口元からはヨダレが垂れそう······垂れていた。
スミレが構わないと言うと、女の子はお礼を言って、すごい勢いで食べ出した。
スミレとマティアに負けないくらいの食べっぷりだ。
一本では足りないようで、期待の眼差しでスミレを見ている。
「······ご主人様」
スミレがオレの方に目を向けてきた。
別に食べ物を奢るくらいいいんだけど、この子の保護者はいないのだろうか?
勝手に食べ物を与えて、そのことを怒られても困る。
「ええと、キミは? 親御さんとかはいないのかな?」
オレは女の子に問いかけた。
「アチシはメリッサ! この町には観光に来たんだけど、一緒に来てたバル兄とはぐれて困ってたの! 散々捜して町中歩き回って、疲れてお腹ペコペコだったの! おにーさん、アチシにも食べ物買ってくれない? お金は後でバル兄が払ってくれるから〜」
女の子が屈託のない笑顔でそう答えた。
どうやらこの女の子、メリッサはこの町の住人ではないようだ。
観光でこの町に来て、お兄さんとはぐれたと。
お兄さんを捜していると言っているけど、迷子になっているのは、この子の方じゃないかな?
[メリッサ]
妨害魔法の効果で鑑定を弾かれました。
(神眼)の効果で表示を開きますか?
鑑定してみたら、そんな表示が出た。
妨害魔法?
どうやら鑑定を妨害するようなアイテムかスキルを持っているらしい。
(神眼)の効果で表示を開けるみたいだが······。
「ねぇねぇ、おにーさん。お願い〜······」
メリッサが上目遣いで迫ってきた。
······まあいいか。
メリッサにも屋台の食べ物を買ってあげた。
キラキラした目で、それらを見ている。
「ありがと〜! ······はぐはぐっ」
食べ物を渡すと、一心不乱に食べ出した。
食欲旺盛で、その点はスミレやマティアにそっくりな子だな。
無表情な二人と違って、幸せいっぱいの顔で頬張っている。
スミレとマティアも、それに対抗して食べ物を頬張る。大食い勝負をしているわけじゃないだろ?
仲間外れみたいで寂しかったのか、シノブも三人と一緒に食べ始めた。
お子様四人が楽しそうに屋台を回っていく。
オレはすでにお腹が膨れているが、四人が満足するまで付き合ってあげるか。
「スミレにマティア、シノブ······そしておにーさんがレイだね! 覚えたよっ」
それぞれ自己紹介をした。
お互いに人見知りしない性格のようで、すぐにシノブ達と仲良くなっていた。
「メリッサ殿のお兄さんは、どんな人物でござるか?」
「バル兄はすっごく強くて頼りになるんだよ! ただ顔がちょっと怖いから、よくみんなに恐れられたりするんだけどね!」
メリッサの説明では、お兄さんがどういう人物かいまいちわからない。
「······それなら、ご主人様だって強くて頼りになる」
「ユウも、つよくてたよりになる······」
スミレとマティアが何やら謎の対抗心を持って言う。
「強くて顔が怖いけど、バル兄は子供みたいなところもあってね〜。そのギャップがなんとも――――――」
――――――ゴンッ!!!
メリッサの言葉の途中で、鈍い音が響いた。
背後に長身の男が立っていて、メリッサの頭に思い切りゲンコツを振り下ろしたようだ。
「やっと見つけたぞ! 初対面の相手に何言ってやがんだ、このバカ」
「いっ······たぁ〜〜!? バ、バル兄······手加減してよ! 死んじゃうかと思ったじゃん!」
「ケッ、てめえがそんな程度で死ぬか。それにちゃんと手加減してやったぞ」
涙目で男に抗議するメリッサ。
どうやら、この男がお兄さんみたいだな。
少し柄が悪いが、イケメン風の顔立ちの人物だ。
長身に加えて髪も長く、後ろ姿は女性と間違うかもしれない。
[バルフィーユ] 鑑定不能
(神眼)の効果が打ち消されました。
この男も鑑定できない。
メリッサと違い、(神眼)の効果も打ち消されてしまった。
つまりは相当な実力者だということだ。