263 スミレの友達
ユウを救い、神託を達成した。
もう命の心配はないだろう。
別の問題は起きそうだったが、それは部外者のオレには荷が重い。
というわけで、シノブとスミレを連れて部屋を後にした。
リンが念話で「逃げる気ですか!?」と文句を言ってきたが、決して逃げたわけではない。
うん、逃げたわけじゃないんだ。
部屋の近くで待機していたリュガントさんに、もうユウのことは心配いらないと報告しておいた。
「おおっ、勇者殿が目を覚ましましたか! それは本当によかった!」
それを聞いて嬉しそうにリュガントさんが言う。
リュガントさんは暑苦しい人だけど、悪い人じゃないみたいだな。
「ところで、そちらの子供は? 先程出ていった時に連れて来たようでしたが」
リュガントさんがシノブとスミレを見てそう言ったので、仲間だと紹介する。
「拙者はシノブでござる」
「······ボクはスミレ」
「これはこれは。私はリュガント。龍王様直属の戦士達を束ねる総隊長を務めております!」
子供好きなのか、リュガントさんはシノブとスミレの頭を撫でながら頬を緩めている。
勝手に部外者を連れてくると怒られるかと思ったけど、受け入れてくれてよかった。
まあ、オレも部外者の一人だけど。
「身体は大丈夫なのでござるか、リュガント殿? 酷い怪我をしているように見えるでござるが」
「なに、このリュガント、この程度の傷など、どうということはありませんぞ」
シノブがリュガントさんの身体を見て言う。
大丈夫と言っているが、普通なら安静にしていた方がいいような状態だ。
心配したシノブが薬を差し出した。
「余計なお世話かもしれないでござるが、これを使うと良いでござるよ」
「これは······まさか特級ポーション!? こ、こんな高価な物は受け取れませんぞ!」
「遠慮は無用でござる。拙者からの、お近づきの印というやつでござる」
返そうとするリュガントさんに半ば強引に薬を渡した。まあ、渡した薬を使うか使わないかは、リュガントさんの自由だ。
オレ達は呆然とするリュガントさんを置いて、城の出口に向かう。
「············待って」
スミレがオレの服の裾を掴んで止める。
スミレの目線の先には、別の客室の扉があった。
「どうしたんだ、スミレ?」
「知ってる気配がする······」
知ってる気配? どういうことだ?
この部屋にスミレの知り合いがいるのか?
けど、ここは龍人族の国の龍王の城だぞ?
そんなところに知り合いがいるのか?
疑問はあるが、スミレが気になるなら覗いてみるか。
オレは扉をノックする。返事はない。
待ち切れなかったのか、スミレが扉を開けて中に入っていった。
「スミレ殿、待つでござるよ!」
シノブも中に入っていく。
仕方無いので、オレも後に続いた。
部屋の中はユウの居た所ほどではないけど、充分に立派な造りだ。
いくつかベッドが並んでいて、その内の1つに女の子が寝ていた。
整った顔立ちで長い黒髪をなびかせた、可愛らしい少女だ。
スミレやシノブと同じか、ほんの少し年上くらいかな。ベッドで横になっているだけで、意識はあるようだ。
部屋に入ってきたオレ達に気付いて、こちらに顔を向けた。
美しさを感じる真紅の瞳だ。
「············スミレ?」
「マティア······」
少女がスミレを名前を呼び、スミレも少女の名前を呼んだ。
マティアというのが少女の名前かな?
[マティア] レベル719
〈体力〉3596/651000
〈力〉73900〈敏捷〉72000〈魔力〉―――――
〈スキル〉
――――Unknown―――――
この子も相当に強いステータスだ。
スミレが知っている子ということは、ユウの仲間かな? おそらくは王都で知り合ったのだろう。
しかしこの子、〈魔力〉と〈スキル〉が鑑定できない。龍人族じゃないみたいだけど、ただの人族でもなさそうだ。
ミリィみたいな特殊な種族かな?
「シノブ、ご主人様······」
スミレが上目遣いでこちらを見てきた。
ユウほどではないけど、このマティアという子もかなり弱っている。
治してあげてほしいと言いたいのだろう。
スミレがこう言っているし、ユウの仲間なら悪い子でもないだろう。
「シノブ、その子に薬をあげて」
「了解でござる、師匠」
シノブに言ってマティアに薬を与える。
ユウのように〈体力〉が0になっているわけじゃないから、特級ポーションで回復するかな。
マティアは、シノブの差し出した薬を不思議そうに見ていた。
「······飲んで、マティア。シノブの薬なら、すぐに元気になる」
スミレの言葉を聞いて、マティアが薬を飲んだ。
マティアの体力がすごい勢いで回復している。
「からだが、らくになった······」
顔色も良くなっているし効果あったみたいだな。
とはいえ、すぐに動かず、まだ横になっていた方がいいだろう。
――――――ぐぅう〜〜っ
低い唸り声のような音が響いた。
聞き覚えのある音だが······。
「······おなかすいた」
どうやらマティアのお腹の音だったみたいだ。
スミレのお腹かと思った。
なんか色々とスミレに似ている子だな。
だから、スミレと仲良くなれたのかな。
オレは苦笑しつつ、アイテムボックスから果物を取り出した。
病み上がりには、リンゴなんかがいいだろう。
「············!!」
見た事のない果物だったようで初めは首を傾げていたが、一口食べたら、後は一心不乱に食べ出した。
本当にスミレそっくりな反応だな。
「············ご主人様」
羨ましそうに言ってきたので、スミレにもリンゴを渡した。
そういや、もう昼を過ぎてる時間帯だし、龍人族の町に出て何か食べに行こうかな。
定食屋とか、あるだろうか?