257 それぞれの事情
「妾はシャルルア。龍人族の神子という立場じゃ」
「わたしはテリア=フランディストです」
「私はセーラ=アーミュレントです。聖女候補という立場ですね」
「わたしはセーラ様の専属護衛騎士のリンです」
「ワシはマスターの従僕のエンジェじゃ」
それぞれが自己紹介をして、事情を話し合う。
もう自称冥王の威圧の影響はなくなっている。
シャルルアは、やはり龍人族のようだ。
神子というとフウゲツさんと同じく、神の祝福を受けた特別な立場のようだな。
五柱の神に確か龍神というのがいたから、龍神から祝福を受けているのかな。
ただ、フウゲツさんと違ってシャルルアの祝福スキルは〈仮〉になっている。
「まあ神子と言っても、妾はまだ試練をすべて達成しておらず、龍神様の御力を完全には受けておらぬのじゃ」
シャルルアが言う。
つまり、セーラと同じような候補みたいな立場なのかな?
それにしてもシャルルアはオレよりも年下っぽい容姿なのに、喋り方が年寄りっぽいな。
ロリのじゃ少女の姿のエンジェとキャラが被っている気がする。
シャルルアもエンジェのように、長い年月を生きているのだろうか?
それとも見た目相応の年なのかな?
さすがに聞くのは失礼かな。
シャルルアとテリアに、龍人族の国で起きたことを簡単に教えてもらった。
神将ナークヴァイティニアが率いる魔人族の軍勢が、龍人族の国に攻めてきたらしい。
シャルルアは追手から逃れるために、この地を離れてオレ達のいた大陸まで来たようだ。
そこで偶然ユウ達と出会い、神託を受けて協力を得たと。
ジャネンも冥界の神から神託を受けて、龍人族に協力していたらしい。
そしてユウ達の協力が加わった龍人族は、魔人族に反撃に出て、激戦の末に神将を討ち倒し、魔人族を追い払うことができた、と。
オレの知らない所で、とんでもないことが起きていたんだな······。
「レイさんや聖女様達は何故ここに?」
今度はテリアがこちらに質問してきたので、この大陸にやってきた経緯を簡単に説明した。
話すべきか少し迷ったが、別に隠すことでもないと思い、オレも女神からの神託を受けられることを教えた。
「エレナさんとユウ君はどちらに?」
セーラが問う。
ここまでの情報から察するに、ユウは神将との戦いで傷つき、危険な状態なのだろう。
エレナは無事なのだろうか?
「ユウは龍王様の城で治療を受けておる。エレナは危険な状態のユウに付きっきりで看病しておる」
シャルルアがそう答えた。
エレナも神将との戦いで負傷していたらしいが、治癒魔法ですでに回復して心配ないようだ。
たが、ユウは治癒魔法でも完全回復せずに、今も意識が戻らないらしい。
ジャネンもユウのように危険な状態で治療を受けていたところ、呪いで暴走し、城を飛び出してここまで来たらしい。
それを慌てて追ったテリアとシャルルアが、ここに駆けつけたと。
ようやく現状が少し理解出来てきたかな。
「シャルルアさん、ユウ君とエレナさんの所に案内してもらえませんか? 私も候補とはいえ聖女という立場です。傷ついたユウ君の治療に協力したいと思います」
「······うむ、こちらからもお願いしたい。妾達の治療ではユウを助けられぬ······」
セーラの申し出にシャルルアが頷いた。
「······ユウは神剣の力を引き出したことで魂を消耗している。通常の治療では、おそらく効果はない」
ジャネンが言う。
呪いから解放されたとはいえ、まだツラそうな様子だ。
神剣か······。
さっきの二人の話にチラッと出てきてたな。
圧倒的強さの神将を倒すために、ジャネンが冥界の神から授かっていた神剣を使ったと。
神剣は聖剣や魔剣とは比べ物にならないくらいの力を秘めていると聞いた。
当然、それを扱うには相応の実力がいる。
勇者候補のユウでも神剣を扱うには、まだ実力不足だったのだろう。
それでも神将を倒すために神剣の力を無理に引き出した。
その代償はあまりに大きかったようだ。
「ユウを助ける方法はないの······!? ジャネン」
テリアが悲痛の表情で問う。
シャルルアも同じような表情だ。
二人ともユウをそれほど慕っているようだ。
「············容態を見てみないことには、なんとも言えん。某もユウの所に連れて行ってくれ」
ジャネンもユウを助けたいようだ。
さっきの自称冥王はユウを始末するみたいなことを言っていたけど、ジャネンは違うらしいな。
オレとしても、ユウとは少し顔を合わせただけで、そんなに深い仲ではないが、助けられるのなら助けたい。
シャルルアに案内を頼み、オレ達はユウ達のいる龍人族の国に向かうことにした。