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突然異世界転移生活 ~たまに変態が出没する異世界冒険記~  作者: キューブック
第二章 始まりの町アルネージュでの出来事
33/735

32 領主の娘、ミウネーレ視点

(ミウネーレside)


 あの日、オークとの戦いはあたしは生きた心地がしませんでした。

 だってあの恐ろしいオークが数万の大軍で町を襲いに来たんですよ?

 怖かったですけど、あたしも戦いの場に行きたいとお願いしました。



 いくらお兄様でも生きて帰れるかわかりません。

 あたしだってレベルはそれなりに高いですしサポート魔法は得意なのでお兄様達の役に立つはずです。

 絶対に勝手な行動を取らないことを条件に許可が下りました。



 聖女様より守りの石を渡され、普段よりも魔物の相手は楽でしたけどそれでもオークの軍勢は強敵でした。

 複数のグレートオークに囲まれて絶体絶命に追い込まれました。

 もう駄目かと思った時、あの方は颯爽と現れました。あの恐ろしいグレートオークを一刀両断で倒し、あたしを救ってくれました。


「大丈夫?」

「は、はいっ······あ、ありがとうございますっ」


 つい緊張で口ごもってしまいました。

 だって格好良すぎなんです!

 でもよかったと思ったのも束の間。

 お兄様がグレートオークと相討ちになり死んでしまったのです。



 救護の騎士が無念に言い、あたしもお兄様の身体に触れました。

 お兄様からはもう心臓の鼓動は聞こえませんでした。お兄様が死んだなんてウソです!

 夢なら醒めてほしいと思いました。


「······まだ間に合う」


 そんな時、あの格好良い方と共に現れた黒髪の女性が動きました。

 騎士達を押し退けてお兄様の身体に触れます。

 何をするのか不思議に思っていると、女性はなんとお兄様に口づけをしました。

 なんのつもりなのか理解できません。


「かはっ······!!」


 黒髪の女性が口を離すと、お兄様がむせるように息を吐き出しました。

 ······え、何が起こったのですか!?

 お兄様が、お兄様が生き返りました!

 嬉しさと不思議さが合わさって言葉が出ません。


 他の騎士達も驚いています。当然です。

 死者を生き返らせるなんてかつて大聖女と呼ばれた方が起こした奇跡。

 現在の聖女様でも不可能なことなんですから。


 しかし今目の前でその奇跡が起こりました。

 お兄様は黒髪の女性に優しい声をかけられると安心したように気を失いました。

 今度は心臓の鼓動が聞こえます。

 眠っただけのようです。



 その後、あたし達を助けてくれた二人は名も告げずに去っていってしまいました。

 もう一度会ってちゃんとお礼が言いたいです。





 それから何日かが過ぎました。

 オークの軍勢の後始末にお父様達は大忙しでした。

 お兄様は安静にしていた為、すっかり元気になりました。

 しかし一時は本当に死んでしまっていたのです。

 なのでしばらくは大事をとって騎士の仕事はお休みにしています。



 あたし達を助けてくれた二人のことはすぐにわかりました。

 一月ほど前にこの町にやってきた旅人さんでした。冒険者ギルドに登録したばかりなので、ランクは低めですがその活躍はすごいです。


 サイクロプスなど強力な魔物を討伐したり、盗賊団を捕らえたりと色々やっています。

 それだけでもすごいのに、さらに第三地区の邪気を祓いあの土地を楽園のような場所にしてしまったのです。


 あたしも食べてみましたけど、あの土地の果実は信じられないくらい美味しいんです!

 規制をしないと買い占めてしまう人が出る程です。

 今回のオークの件で完全に町の英雄になりました。



 しかしどんなに調べても、どこの出身の方なのかはわかりませんでした。

 あんなすごい方達が今まで無名だったなんて信じられません。

 どんどん疑問が増えていきます。

 一度ちゃんとお話できないでしょうか?


「明日アブザークに頼んで例の冒険者を呼ぶつもりだ。お前達も会って話したいのだろう?」


 そんな時お父様が言いました。

 アブザークというのは冒険者ギルドのマスターです。お父様とは幼なじみで長い付き合いなんだとか。


「ありがとうございます父上、あの者達は私に命を与えてくれた。どんなに礼を述べても言い足りません」


 本当に元気になってよかったですお兄様。


「しかしこうしてお前が生きていることは嬉しいが信じられない話だな。死者を生き返らせたとは」


 あたしもそう思います。

 目の前で見ても信じられないんですから。


「まあ詳しい話は明日直接会ってからだな。それまで精一杯もてなす準備をしておくとしよう」


 そうです。明日あの方達に会えるんです。

 服はどうしましょう?

 新調して目一杯オシャレしなくちゃ!





 そして次の日、あの方達がやってきました。

 アイラさんにレイさん、そしてもう一人シノブさんですか。

 今お父様の部屋に入りました。

 あたしとお兄様は呼ばれるまで待ちます。

 ······緊張してきました。

 最初になんて言いましょうか。


「お前達、入ってきていいぞ」


 お父様から声がかかりました。

 お兄様と一緒に部屋に入ります。


「紹介しよう。私の息子と娘のグレンダとミウネーレだ」


 お父様が紹介してくれたのであたしも挨拶します。近くで見るとレイさん、やっぱり格好良いです!

 アイラさんも綺麗な黒髪で美人ですし、シノブちゃんも可愛らしいです。

 三人とも瞳の色が黒いです。

 黒い瞳なんて初めて見ました。

 どこの国の方なんでしょうか?


「まさか領主の娘さんだとは思わなかったよ。オレはレイ、えーと······ミウネーレって呼べばいいのかな?」

「長いのでミウでいいですよー」


 レイさんと話してると胸がドキドキします。

 レイさんの年は17ですか。あたしと同じです。

 アイラさんは18。シノブちゃんは13だそうです。

 驚きです。あんなにすごい活躍をしているのにあたしと年が変わらないなんて。


 あたしの鑑定魔法では、三人とも鑑定不能でレベルすらわかりません。

 お兄様ならレベルだけはわかりました。

 ということはレイさん達はお兄様よりもはるかにレベルが上だということです。


 お兄様のレベルは65。

 王国騎士第三隊隊長を任されていて騎士の中でも高い方です。

 レイさん、アイラさんはともかくあたしよりも小さいシノブちゃんがお兄様よりもレベルが上だとは············とても見えません。


「あの時の騎士殿か。元気そうで何よりだ」


 アイラさんがお兄様に言います。

 お兄様の年は22。

 アイラさんとは少し離れていますけど、アイラさんはすごく美人なのでお兄様とお似合いに見えます。


「そうだ。そのことを聞きたかったのだが命を落としたグレンダを生き返らせたというのは本当なのか?」


 お父様がアイラさんに問います。

 そうです。あたしもそのことを詳しく聞きたかったのです。


「······あの時は緊急時故に使用したが、できればこのことは内密にしてほしい」


 アイラさんは「聖」属性の最上級魔法〈死者蘇生(リザレクト·ソウル)〉を使えるそうです。

 聖女様でも今は使い手のいない伝説の秘術ですよ!?

 普通なら信じられない話ですけど、あたしは目の前でその奇跡を見ました。


「とはいっても必ず蘇生できるわけではなく、むしろ失敗する可能性の方が高かった。グレンダ殿が無事で私もホッとした」


 お兄様が生き返ったのは運が良かったということですか。もし生き返らなかったらと思うと、今こうして元気で本当に良かったです。

 けど聖女様ではないアイラさんがどうしてそのような秘術が使えたのでしょうか?


 お父様とギルドマスターは今の話を聞いて考え込んでいます。



―――――――コンコン



「父さん、入ります」


 扉がノックされて開きました。


「ユーリか、どうした?」


 入ってきたのはユーリです。

 13才のあたしの弟です。

 シノブちゃんと同じ年ですね。

 お兄様とあたしとユーリの三人兄妹なんです。


「いえ、噂の冒険者が来たと聞いたのでぼくも一目見たかったのです」


 ユーリはレイさん達と直接関わってないですけど、やっぱり気になりますよね。

 ユーリは三人をそれぞれ見ます。


「フ~ン、もっと年配の方かと思ってたけど意外と若いんだ。お前なんかぼくと同じくらいじゃないか」


 ユーリ、ちょっと言い方が失礼じゃないですか。

 ユーリは三人、特にシノブちゃんをジロジロ見ます。


「ユーリ、彼らは恩人だ。そんな失礼な態度はよせ」

「父さん、いくら恩人相手でも貴族らしく振る舞うべきです」


 お父様が窘めますがユーリは態度を変えません。


「この子は?」

「弟のユーリです。すみません、この子······口が悪くてー」


 レイさんが聞いてきたので答えます。

 ユーリの態度にレイさん達は気を悪くした様子はありません。

 ホッとしました。


「こっちの二人はともかくお前にならぼくでも勝てそうだ。本当にオークと戦ったのか?」

「ユーリ、よさないか!」


 お兄様もユーリを窘めます。

 ユーリは魔法の才能が高く、天才などと呼ばれているため少し態度が大きくなってしまっているのです。


「ならばシノブと手合わせしてみたらどうか?」


 アイラさんがそんなことを言い出しました。


「いいんですか? ぼくは同年代の人に負けたことはありませんよ。大人にだって勝つことがあるんですから」

「拙者は構わないでござるが」


 アイラさんがお父様の方に目を向けます。

 どうやら許可をもらおうとしているみたいです。


「······息子がすまぬな。ならば中庭に行こう」


 止めるのを諦め、お父様が許可を出しました。

 全員が中庭へ向かいます。



 ここなら広く、周囲を気にせずに手合わせ出来るでしょう。



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