255 冥王テュサメレーラ
ジャネンの呪いが復活しそうになっていた時、突然何者かが召喚陣より現れた。
少年のように砕けた口調と高い声だな。
見た目もオレよりも少し年下に見える、人族とあまり変わらない容姿だ。
幼い容姿のため、男か女かパッと見ではわからない。それと身体がうっすらと透けて見えるが。
[テュサメレーラ] レベル985
〈体力〉1859000/1859000
〈力〉104300〈敏捷〉155000〈魔力〉182200
〈スキル〉
(冥界の神の加護〈大〉)(無限再生)
(憑依)(―――――)(―――――)
(―――――)(生命力吸収)(不滅)
(―――――)(黒の魔導書)(―――――)
鑑定してみたら、凄まじいステータスだった。
レベルが1000に近い、全ステータス10万超えだ。
スキルはいくつか見えないが、冥王と似たようなラインナップだな。
[テュサメレーラ]
冥界の神を崇める六冥王の一柱。〈透〉の冥王。
冥王と似たような、というかコイツも冥王かよ!?
確かに納得のステータスだが。
けど、鑑定画面のコイツの名前の上に〈アバター〉と表示されている。
〈アバター〉
本体とは別の仮の肉体。
クリックしたら簡単な説明しか出なかった。
つまり、コイツは本体じゃないということか?
(分身)スキルと似たようなものだろうか。
だとすると鑑定したのはあくまでも仮の肉体のステータスで、当然本体はもっと強いということか?
まあ、そんなことは今はいい。
問題は冥王が何しに来たのかだ。
「無様だねえ、ジャネン。冥界の民がもっとも得意とする呪いを、逆に受けるなんてネ。ま、相手が神将じゃあしょうがないのカナ」
「······何をしに来た、テュサメレーラ。あたしを笑いに来たのか······?」
「まさか。助けに来たに決まってるダロ?」
ジャネンの言葉におどけた感じに答える冥王。
同胞のジャネンを助けに来たのか。
全然見た目は冥王って感じはしないが、呪いは冥王なら、なんとか出来るかな?
「我が神も本当、人使いが荒いよネ。いくらお気に入りの子を失いたくないからって、僕を使い走りにするカナ普通? キミも全然僕を敬わないシ。一応、僕は冥王ダゼ?」
自称すると本当に冥王なのか疑わしくなるな。
鑑定結果でも出てたし、ステータス的にも間違いないだろうけど。
しかし、まだ「聖」なる場の効果が残っているはずだけど、コイツに効いている様子がないな。
突然現れた少年のような人物が冥王を名乗って、テリア達が驚いている。
後ろではセーラ達も同じように驚愕していた。
「め、冥王じゃと······?」
シャルルアが思わずといった感じにつぶやいた。
「えーと、キミは龍人族ダネ? そっちは人族カナ。ずいぶん珍しい組み合わせダネ? 誤解ないように言っておくケド、僕はコイツを助けに来たダケ。この地をどうこうする気はないからネ」
信用していいのかわからないが、学園地下迷宮にいた冥王と違い、何か企んでいるわけではないようだ。
ジャネンを助けに来たというのなら、任せてもいいのかな?
セーラ達もそう判断したようで、自称冥王の邪魔をせずに、成り行きを見守る姿勢だ。
自称冥王がジャネンに軽く触れた。
「ずいぶん厄介な呪いダナ······ま、僕にかかれば、どうにでもなるけどネ。少し我慢しろヨ?」
自称冥王が魔力をジャネンに向けて流すと、呪いの黒いモヤが消えていく。
あれは「聖」魔法······じゃなく「闇」魔法か?
「闇」属性で呪いを無理矢理抑え込んで、上書きしてるみたいだ。
ジャネン自身も、相当苦しそうに痛みを堪えた表情だ。かなりの荒療治みたいだな。
しばらくすると、呪いの力は完全に消えていた。
ジャネンの体力が尽きる寸前だが、なんとか危機を乗り切ったようだ。
「············感謝する······テュサメレーラ」
「ああ、大いに感謝しナヨ。我が神の頼みじゃなけりゃ、僕が直々に出向くなんてありえないんだかラネ」
「何が直々に、だ。······それは仮の肉体だろう······」
やっぱり、あの自称冥王は本体じゃないみたいだな。
「仕方無いダロ、本体は今、手が離せないんだかラサ。仮の肉体だって動かすのに結構、神経使うんダゼ?」
「············わかっている」
「そういヤ、神将ナークヴァイティニアを討ったってマジ? 僕もずいぶん前にアイツと戦ったことあるケド、その時に仮の肉体を3体破壊されたんダゼ」
神将とかいう魔人はナークヴァイティニアというのか。長い名前だな。
冥王でも苦戦するような相手だったのか。
「アジュカンダスも人族にやられたとか聞いたシ、今代の勇者ってそんなに強いノ? 人族って、あんまり強いイメージなかったんだけどナ」
確かに、コイツと比べたら人間なんて脆弱な存在だろうな。
「確か勇者って、神将との戦いで死にかけてるんだヨネ? 今の内に始末しちゃった方がいいんじゃないカナ?」
自称冥王が何やら不穏な発言をした。