252 呪い
エンジェの転移魔法で、龍人族の国があるという、新たな大陸にたどり着いたのだが、さっそく異変に巻き込まれたようだ。
巨大な鳥の魔物と、さらにヤバい気配の存在を見つけた。
先に鳥の魔物から倒してしまおう。
「待つのじゃ、マスターよ! コヤツは魔物ではない、冥界の霊獣じゃ! 悪しき存在ではないはずじゃ」
鳥の魔物に攻撃を仕掛けようとしたら、エンジェの待ったがかかった。
冥界の霊獣?
確かに、この魔物のスキルに(冥界の神の加護)というのがある。
「クウウルルルッ······」
鳥の魔物、いや霊獣はオレ達に襲いかかってくる様子はない。
後ろにいる存在を守ろうとしているように見える。
「霊獣······ですか? 確かに魔物の気配とは違う気がしますが」
「セーラ様、まだ安全とは限りません! お下がりください」
セーラとリンが警戒しながら霊獣に目を向ける。
確かに、この鳥の霊獣からは敵意を感じないが、後ろにいる奴は雰囲気がヤバい。
そもそも冥界の霊獣がなんでここにいるんだ?
「コヤツは人の言葉を理解できるはずじゃ。ワシらに害意がないと判断すれば、襲いかかって来ないじゃろ」
エンジェの言う通りみたいだな。
こちらから攻撃しなければ、向こうも攻撃して来ないようだ。
「ウウウッ······アア······」
だが、後ろにいる奴はなんなんだ?
邪気に似た黒いモヤに包まれて全容がわからない。
鳥の霊獣に比べたら小柄で、オレ達と同じくらいの人型のシルエットだが。
「アアアーーッ······!!!」
黒いモヤから無数の蛇が飛び出してきた。
蛇はオレ達だけでなく、鳥の霊獣にも襲いかかっていた。敵味方の区別がつかないのか?
オレは聖剣エルセヴィオで蛇を撃退した。
セーラやリン、エンジェもそれぞれ蛇を撃退していた。
「クゥアアーーッ!!」
鳥の霊獣が謎の存在を止めようと動いた。
だが謎の存在から、とてつもない魔力を秘めた魔法が放たれ、鳥の霊獣を吹き飛ばしてしまう。
鳥の霊獣は半身が吹き飛び、倒れた。
「大丈夫じゃ。カオスレイヴンは〝闇の不死鳥〟という異名を持つほどの再生力がある。バラバラに引き裂かれようが死にはしないぞ」
鳥の霊獣は心配する必要はないということか。
しかしこの謎の存在、かなりヤバいぞ。
レベル500を超える鳥の霊獣を、いとも簡単に吹き飛ばした。
コイツはさらに高レベルだということだ。
「悪しき〝邪〟を祓え······ホーリーブレス!」
セーラが「聖」魔法を放った。
謎の存在の周りの黒いモヤが祓われて、姿がハッキリ見えるようになった。
髪の毛が蛇の形をした小柄な少女だった。
······ん? この少女、見覚えがあるぞ。
[ジャネン] レベル873(状態:呪)
〈体力〉25500/143000
〈力〉105000〈敏捷〉82250〈魔力〉94900
〈スキル〉
(冥界の神の祝福)(魔眼)(邪眼)
(千里眼)(身体強化〈極〉)(―――――)
(―――――)(―――――)(邪気吸収)
(龍王の加護〈大〉)
ジャネン······以前、王都で会った冥界の神の使いを名乗っていた少女だ。
スキルはいくつか見えないが、以前は見えなかったステータスが見えるようになっている。
とんでもないステータスだな。
弱体化していた冥王ならば軽く上回っている。
そして(状態:呪)と表示されているな······。
そのせいで、こんな暴走状態になっているのか?
「お、お前······は、以前会った······め、冥王を打ち倒した人間······か······?」
少女、ジャネンが言葉を発した。
セーラの「聖」魔法を浴びて正気に戻ったのか?
「······あたしを······殺してくれ。もう······抑えるのが······限界だ。このままだと······」
再び黒いモヤがジャネンを包んでいく。
正気に戻ったのは一時的だったようで、また暴走状態になってしまった。
事情はわからないが、何らかの理由で呪いを受けて、こんなことになっているようだ。
殺してくれと言われてもな······。
「聖」属性を受けて正気に戻っていたし、もっと強力な魔法なら完全に呪いを打ち消せないかな?
「ウウッ······ガアアアーーッ!!!」
また無数の蛇が飛び出てきた。
この蛇はジャネンの髪の毛だったのか。
「厄介な呪いを受けているようじゃの、これは並の力では打ち消せぬぞ」
蛇を払いながら、エンジェが言う。
だが、ここには聖女のセーラがいるし、オレも「聖」魔法を使える。
悪い子ではないようだし、みすみす死なせたくはない。
「セーラ、あの呪いを祓えるくらいの魔法を使える?」
「ええ、任せてください、レイさん!」
「わたしもサポートしますよ、レイさん、セーラ様!」
オレ達はジャネンを助けるために動いた。