251 新たな大陸の異変
エンジェの転移魔法の準備が終わり、龍人族の国に向かうことにした。
「ゲンライソウさん、フウゲツさん。それでは、これで失礼します」
「今回の件が無事に片付きましたら、わたし達も迷宮攻略に来ます。その時は、またよろしくお願いします」
セーラとリンが別れの挨拶をする。
「ええ、あなた達ならいつでも歓迎するわよ」
「今度ゆっくり昔の聖女殿の話を語ろう。リンもその調子で精進するがよい」
フウゲツさんとゲンライさんが笑顔で応えた。
ほんの1時間ほどだったが、お互いに良い印象を持てる時間だったようだ。
「くかかっ、それでは出発するかの?」
転移魔法発動のため、オレ達はエンジェの近くに集まる。
エンジェを中心に魔法陣が拡がり、そこから放たれた光が、オレ達を包んでいく。
相変わらずゴージャスなエフェクトだ。
やはりオレの転移魔法と、エンジェの転移魔法は種類が違うのだろうか?
光が完全にオレ達を包むと、周囲の景色が変わっていた。
周囲を見回し状況を確認する。
見た感じ、どこかの山の中だが。
「ここはトライヒートマウンテンという、山の中腹じゃな。龍人族の国はこの山を降りた、すぐ近くにあるはずじゃ」
例によって、転移した瞬間を誰かに見られないように人気のない場所に出たようだ。
正直、あっという間過ぎて、ここが別大陸だという実感が沸かないが。
エンジェの話だと、この山は標高20,000mという超巨大山らしい。
元の世界の一番高い山の倍以上の高さだ。
さすがは異世界だな。
「ずいぶん暑いですね······」
「大丈夫ですか、セーラ様?」
セーラが言う。
リンも少し汗をかいているように見える。
オレはあまり気にならないが、この辺りは気温が高いようだ。
「この大陸は基本、気温が高めじゃからのう。これでも今日は涼しい方ではないかの」
エンジェも暑さは気にならないらしい。
スライムは暑さにも寒さにも強いようだ。
とりあえずは、龍人族の国を目指すために山を下っていく。
魔物に何度か襲われたが、レベル20〜30くらいだったので、問題なく蹴散らしていった。
ファイアバードという炎を纏った鳥や、フレアモンキーという猿の魔物など「炎」系が得意な奴らばかりだ。
この地域特有の魔物かな?
まあ、セーラとリンはレベル400を超えているし、エンジェは500を超えている。
オレはもうすぐレベル1000に届きそうなくらいだし、並の魔物では相手にならない。
それでも油断は禁物だがな。
とんでもなく強い魔物が現れることも、ありえなくはない。
そう思ったのはフラグだったのだろうか?
――――――――――ッッッ!!!
突然、不自然な地響きが起きた。
一瞬、この山が噴火でもする前兆かと不安が過ぎったが、そんな感じではない。
「今の地響きは······?」
「セーラ様、お気を付けください」
セーラとリンが周囲を警戒する。
オレが先頭になり警戒しながら先を進むと、周囲が禍々しい気配に包まれた。
邪気? いや、なんとなく違うような······。
周りの木々や植物が変色して、枯れ果てている。
明らかに普通じゃない様子だ。
「これは見るからに異常じゃのう······。やはりこの大陸で何か起きているということじゃな」
エンジェの言う通りだな······。
女神の神託と無関係とは思えないな。
「クゥアアアーーッ!!!」
そう警戒していた時、上空より黒い影が舞い降りてきた。全身が黒く光る、巨大な鳥の魔物だ。
[カオスレイヴン] レベル535
〈体力〉555000/555000
〈力〉39400〈敏捷〉69800〈魔力〉36000
〈スキル〉
(冥界の神の加護〈中〉)(全属性耐性〈大〉)
(無限再生)(身体強化〈極〉)(呪詛)
(邪気吸収)
強い······レベル500を超えている。
いくらなんでも、場違いすぎるだろう?
この辺りの魔物はレベル20〜30くらいの奴らしかいなかったのに、文字通り桁違いだ。
この周囲の異常はコイツの仕業か?
(呪詛)
通常攻撃に呪詛を付与する。
呪詛を受けた対象はあらゆる状態異常に襲われる。
それっぽいスキルを持っているな。
この禍々しい雰囲気はこれの効果か?
「セーラ様、お下がりください! この魔物は危険です!」
リンが大剣を構えて臨戦態勢に入る。
確かに、リンとセーラのステータスでは危険な相手だ。ほぼ同レベルのエンジェと互角くらいかな。
「む、この魔物······いや、魔物ではない。コヤツは·······」
エンジェが魔物を見て何かつぶやいているが、それどころではない。
手加減なしで、さっさと倒した方がよさそうだ。
「······ウ······アアア······ッ!!!」
なんだ?
よく見たら鳥の魔物の後ろに、さらにヤバい気配の奴がいる。
そいつが邪気に似た、禍々しい力を撒き散らしている。鳥の魔物ではなく、こっちが元凶なのか?