31 領主邸にて
用意された馬車に乗ってオレ達は領主邸に向かうことになった。
見た目がずいぶん豪華な馬車だ。
聖女であるセーラ達の馬車にも乗ったことがあるが、この馬車もそれに劣らない。
たかだか冒険者のために用意するものじゃないぞ。
領主の屋敷はアルネージュの町の第一地区の中心にあるようだ。
確か第一地区は貴族が住む地区だったっけ。
特に何か起こることもなく領主邸に着いた。
第一地区は貴族が住んでいるだけあってどこも立派な屋敷ばかりだが、領主の屋敷はレベルが違うな。
さすがは領主邸といった所か。
「「「ようこそ、いらっしゃいませ」」」
馬車を降りて屋敷に入るとメイドさん達に迎えられた。おお、さすがは貴族の屋敷。
いるんだなメイド。
オレも男だしメイドさんというものには心くすぐられるものがある。
「レイ、シャキッとしろ」
アイラ姉に怒られた。顔に出ていたかな?
メイドさんの一人が代表してオレ達を領主の部屋まで案内してくれた。
「旦那様、お客様をお連れしました」
メイドさんに続いてオレ達も部屋に入る。
「フェルクライト侯爵殿、例の彼らをお連れした」
「ああ、わざわざすまなかったな」
一緒に来ていたギルドマスターが部屋に入るなり頭を下げた。
さすがに貴族相手にはあの豪快な喋り方じゃないか。
「私がこの町の領主、セルグリット=フェルクライトだ。急な呼び出しですまなかったな」
この人が領主か。
ギルドマスターが厳ついおっさんなら、この人はダンディーなおじさんって感じだな。
若い頃は女性にモテたのだろうと思う程かっこいいおじさんだ。
「こちらこそ出迎えまで用意されたこと感謝致します。私はアイラというものです」
「レイと言います」
「シノブでござる」
今度は領主に自己紹介する。
「お前達は下がっていいぞ」
領主が部屋にいたメイドさんを退室させた。
これで部屋にいるのはオレ達と領主、ギルドマスターの5人だけになった。
「アブザーク、もう気持ち悪い口調をしなくてもいいぞ」
「気持ち悪いとは失礼だな。精一杯領主に敬意を表してるだろ」
領主とギルドマスターの口調がくずれた。
なんか友人同士みたいな雰囲気だな。
「君たちの話はよく聞いている。私もずいぶん助けられたのでな。本来ならもっと早く礼を言いたかったのだがなかなか機会に恵まれなくてな」
領主の言う助けられたというのは、食料問題とオークキングの件かな。
しかし貴族はオレのイメージだともっと上から目線で偉そうに話をしてくると思ってたんだが少し腰が低い気がする。
「いえ、我々は自分達のためにやったのです。礼を言われる程のことではありません」
アイラ姉の言う通りだ。
この町の食料問題は解決しようと思ってやったわけじゃない。
ただ自分達が食べたい物を作っただけだ。
盗賊やオークの件ももうギルドからは報酬をもらっている。
「いや、礼を言わねばなるまい。息子達の命も救ってもらったのだからな」
領主が言う。息子達?
一体誰のことだ?
「お前達、入ってきていいぞ」
領主がそう言うと扉が開き、誰か入ってきた。
二十代前半くらいのイケメンの男と、オレと同じくらいの年だと思われる可愛い女の子だ。
······どこかで見たことあるな、この二人。
「紹介しよう。私の息子と娘のグレンダとミウネーレだ」
男がグレンダ、女の子がミウネーレか。
思い出した。
この二人、グレートオークから助けた王国騎士隊長とその妹の女性魔術師だ。
まさか領主の息子と娘だったとは。
「グレンダ=フェルクライトだ。こうして生きてここに立っていられるのも君たちのおかげだ。心から感謝している」
「ミウネーレ=フェルクライトですー。あの······あの時は本当にありがとうございますー! すっごく格好良かったですよー」
騎士隊長のグレンダさんは礼儀正しい口調に対して、女の子の方は少しくだけた喋り方だ。
どちらも貴族らしく美男、美少女といった顔立ちだ。
女の子、ミウネーレは前は魔術師らしいフードのついた服装だったが今日は貴族の令嬢らしいドレスを着ていた。
[グレンダ] レベル65
〈体力〉1820/1820
〈力〉670〈敏捷〉540〈魔力〉270
〈スキル〉
(騎士の剣術〈レベル7〉)(気配察知)(闘気)
[ミウネーレ] レベル22
〈体力〉220/220
〈力〉75〈敏捷〉105〈魔力〉200
〈スキル〉
(詠唱短縮)(魔力回復速度上昇〈小〉)
(魔力増加〈小〉)
二人のステータスはこんな感じか。
グレンダさんは騎士隊長だけあってレベルが高い。
それと比べるとミウネーレは低いように見えるが、並みの冒険者くらいの強さはあるな。
危険な戦場に出ていただけある。