244 迷宮調査一時終了
神樹の迷宮100階層のボスである、3体の大樹の魔物ルナティック·プラントに囲まれてしまった。
それぞれがレベル400前後の強敵だ。
ボス級の魔物が3体同時に出てくるなんて反則だろ。
いや、3体だけとは限らない。
4体目、5体目が現れる可能性もある。
転移魔法で脱出することも考えたが、この場を逃げられたとしても、次にここに来た時に、コイツらがどうなっているかわからない。
成長し続けて、手に負えないくらいに強くなってしまう可能性がある。
今ならまだ、対処は充分可能なレベルだ。
「「「ガアアアッ!!!」」」
3体の魔物が、一斉に枝や根を伸ばしてきた。
防御魔法を全開で張り、なんとか防ぐ。
ミウとキリシェさんが魔法で反撃するが、やはり半端な攻撃では効果は薄い。
ん? 魔物同士の枝や根が絡まり、なんだかモタついているみたいだ。
どうやらコイツらは、それぞれが好き勝手に動いてるだけで、仲間との連携とかはしないみたいだな。
むしろ、足を引っ張り合っている気がする。
まあ、こちらとしては好都合だ。
一気に決めてしまおう。
「アブソルティ·サンクチュアリ!!!」
オレは「聖」属性の最上級魔法を使った。
この大部屋全体に「聖」なる力が拡がっていく。
これは(女神の祝福〈仮〉)のスキルを手に入れてから使えるようになった魔法だ。
目に見える範囲すべてが「聖」なる聖域と化す大魔法だ。
弱い魔物ならそのまま消滅してしまうし、ある程度強い魔物も大幅に弱体化し、スキルも封じられる。
効果は10分程で切れてしまうが、充分すぎるくらいだ。
消費魔力が大きいのが欠点だが、オレの魔力は20万を超えているので、大した問題ではない。
「「「ガ······アアア······」」」
ルナティック·プラント達の動きが、目に見えて鈍くなっていた。
月の光を浴びて成長することもなく、体力が徐々に低下している。
オレは聖剣エルセヴィオで、一番レベルの高いヤツを斬り裂いた。
再生することもなく、悲鳴のような叫びをあげている。
「アルティメット·スコ〜ル!!!」
「バーニングテンペストー!!!」
キリシェさんとミウも別の2体を攻撃した。
キリシェさんは弓矢による間髪入れない連続攻撃、ミウは「炎」と「風」の複合魔法でそれぞれ攻撃した。
スキルを封じてしまえば、もはや脅威じゃないな。
――――――――!!!!!
「「「ギュオオアアーーッ!!?」」」
「聖」なる場の効果によって3体の魔物達が叫び声をあげて消滅していく。
ルナティック·プラント達は、光の粒子となって消えていった。
〈レベルが上がりました。各種ステータスが上がります〉
お、レベルアップしたな。
ミウとキリシェさんもレベルアップしていた。
アイラ姉とシノブがいないので、オレの(獲得経験値10倍)の効果しかないのが少し惜しかったかな。
まあ、それよりも周囲の確認だ。
どうやら、あの大樹の魔物は3体で打ち止めみたいだな。魔物の反応はもうないし、上へ続く道が拓けていた。
「ボスを倒せたみたいだし、一度戻ろうか?」
「はいー、さすがに少し疲れましたよー」
「うふふ〜、手応えのある魔物だったわね〜」
オレの言葉に頷く二人。
ミウは確かに疲れていそうだけど、キリシェさんはまだまだ余裕に見える。
オレ達は転移魔法を使って迷宮から脱出した。
迷宮から出たオレ達は、長の屋敷まで戻って、100階層まで進んだことをゲンライさんとフウゲツさんに報告した。
あのルナティック·プラントとかいう魔物は、フウゲツさん達も知っているようなヤツだったらしく、迷宮にそんな魔物が現れたことに驚いていた。
それなりに有名な魔物だったのかな?
簡単に報告を済ませたオレ達は、そのまま解散の流れになった。
結構疲れた感じがするし、里の露天風呂に入りに行こうかな。
「アイラとレイ君が学園に作ったお風呂とはまた違うのよね〜? 私も入ってみたいわ〜」
「あたしも行きたいですー!」
里の露天風呂のことを話したら、二人がそう言った。自由に入っていいということだし、二人を案内することにした。
露天風呂の建物まで行くとエイミとミール、シノブにスミレ、ユーリの姿があった。
ちょうど里の中を見て回って、最後に入りに来たらしい。
ちなみにユヅキもさっきまでは一緒にいたらしいが、案内を終えて帰ったとのこと。
「レイさん達も迷宮調査は終わったのですか?」
「ああ、少し疲れたから汗を流そうと思ってきたんだけど」
ミールの言葉に簡単に答えた。
「アイラ姉とグレンダさんは?」
二人の姿が見えない。
まだ里を回っているのだろうか。
「兄さんとアイラさんなら、クラントールという町の様子を見るといって出て行きましたよ」
ユーリがそう答えた。
どうやらグレンダさんは幻獣人族の里だけでなく、近くの町の様子も気になったようだ。
それにアイラ姉が付き合ったってことか。
クラントールも幻獣人の里同様に魔物に襲われていたが、人的被害はなく、ディリーとアトリ達に復興を手伝わせているので、特に問題はないはずだ。
けど転移魔法で移動しているからあまり実感がないが、ここはグレンダさん達が住む王都とは別の国なんだよな。
別の国の情勢とかが気になっても仕方無いか。
まあ、それよりも今は汗を流そう。
ミウ達の案内はミール達に任せて、オレはユーリと二人で男湯に向かった。