242 階層ショートカット再び
オレとミウとキリシェさんの三人で、神樹の迷宮の攻略を始めた。
まずは転移魔法で40階層までやってきた。
ちなみに、このフロアにはレベル120のでかい蟷螂の魔物がいたが、特に大した敵ではなかった。
41階層から現れる魔物も、蟲系のヤツらばかりだった。レベルは40〜60くらいで、そこまで脅威ではないが、ミウがそいつらを見て悲鳴をあげていた。
まあ、人間サイズの虫はオレでも気持ち悪いと思うし、当然の反応かな。
よほど怖かったようで、思わずオレに抱きついてきたくらいだ。
思わぬ役得だった。
キリシェさんは、いつも通りの表情で全然動じていなかったが。
まあ、慌てふためくキリシェさんを想像出来ないが······。
それにしても、学園地下迷宮なら40階層辺りはレベル100超えの魔物ばかりだったが、神樹の迷宮はそれほどでもないな。
まあ、強いのがウヨウヨ出て来ても困るからいいんだけど。
そうして何事もなく、45階層まで進んできた。
「うー、ゾンビも気味悪かったんですけど、蟲系も同じくらい気持ち悪いですー」
ミウがそんなことをボヤいていた。
虫ばかりの迷宮は、女の子には精神的にキツそうだし、一度引き返した方がいいかな?
「いえいえ、大丈夫ですよー。そろそろ慣れてきましたからー! 足を引っ張るようなことはしませんよー」
そう思ったのだが、ミウは首を横に振った。
無理してないかな?
「キリシェさんは大丈夫なの?」
「ふふ、私は虫には慣れてるから大丈夫よ〜」
キリシェさんは虫などは平気らしい。
キリシェさんって苦手なものはあるのだろうか?
まあ、二人とも大丈夫と言っているし先に進むとしよう。
学園地下迷宮に比べればフロアはそこまで広くないので、あまり時間をかけずに先に進める。
ただ、目ぼしい宝とかはあまりないな。
一応、いくつか宝箱を見つけたが、大した物は入ってなかった。
貴重なものは、隠し部屋とかにあるかな?
そう思っていたところで、隠し通路っぽいのを見つけた。
MAPを確認すると、この先に大部屋があるのだが、木の枝が複雑に絡まり合い、道を閉ざしていた。
パッと見では気付けないようになっている。
「この先に隠し部屋があるみたいだけど、どうしようか?」
二人に隠し通路のことを話して、どうするべきか聞いてみた。隠し部屋となると、何があるかわからない。
MAPと探知魔法では、部屋の詳しい様子はわからないんだよな。
「行ってみましょう、レイさんー! 隠し部屋なら、きっと何かありますよー」
「うふふ、私も賛成よ〜」
ミウもキリシェさんも行ってみたいようだ。
二人ともレベル400を超えているし、よほどのことがない限りは大丈夫だと思うが。
まあ、危険なようだったら転移魔法で脱出すればいいか。
というわけで、進んでみることにした。
道を閉ざしている枝は、聖剣エルセヴィオを使って斬り裂いた。
オレが先頭になって隠し通路を慎重に進んでいく。魔物の気配はないな。
何事もなく、大部屋までたどり着いた。
ボスが出て来そうな大部屋だが、ここにも魔物の気配はない。部屋の中央に大きな岩があるだけだ。
岩には何か文字が刻まれている。
石碑というやつかな?
《汝の力を示せ。力ある者ならば道が拓かれるだろう》
こんな文字が刻まれていた。
力を示せって、どうすればいいんだ?
「魔力を流せばいいみたいですねー。魔道具に似たような作りの物がありますよー」
ミウが言う。
力を示せって、つまり魔力を注いで、この石碑を満たせってことか?
「じゃあ、さっそくやってみましょう〜」
「待ってキリシェさん、オレがやってみるよ」
石碑に手を当てようとしたキリシェさんを止める。何が起きるかわからないから、ここは慎重に行こう。
罠の可能性だってあるからな。
二人を少し下がらせて、オレは石碑に魔力を流した。前に神樹に魔力を送ったみたいにやればいいかな?
ある程度魔力を流したら、石碑が光り出した。
どうやら満たせたらしい。
今のオレの魔力量なら、まったく問題なかった。
ミウやキリシェさんの魔力量でも余裕で満たせただろう。
石碑が光り出すと、床から木の芽が飛び出し、みるみる成長していった。
天井が木の成長を妨げないように開き、見上げてもてっぺんが見えないくらいになった。
木の幹には枝が螺旋状に出て、足場になっている。
もしかしてこれは、上に登って行ける······つまりは階層ショートカットか?
力ある者は道が拓かれるって、近道ができるってことかよ。
「これを登って行けばいいんですねー。ひょっとして、迷宮の最奥まで続いてるんですかー?」
「いや、MAPを見る限りだと100階層までみたいだよ」
それでも充分なショートカットだけど。
しかし45階層から一気に100階層か······。
このまま進んで大丈夫かな?
「せっかくだから行ってみましょう〜。今の私達なら、きっと大丈夫よ〜」
キリシェさんが言う。
ちょっと楽観的すぎる気がするが······。
まあ、最終的にはこの迷宮を完全攻略することになるだろうし、様子を見るくらいならいいかな。
ミウも先に進みたがっているし、登ってみることにした。
足場になっている枝はかなり頑丈で、乗ってもビクともしない。
オレ達は上を目指して進んでいった。