勇者(候補)ユウの冒険章⑤ 23 最後の激突
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神将ナークヴァイティニアの圧倒的強さの前に、ユウ達は全員、地に伏していた。
神将が勝利の高笑いをあげている。
テリア、ミリィ、マティアはまだ息はあるが傷が深く、とても動けそうにない。
エレナは一番傷が浅いが、それでも動くには厳しそうである。
「くっ······」
重傷を負いながらも、ユウが立ち上がる。
肋骨が何本か折れているようで、苦しげに胸を抑えながら、それでも身体を動かす。
「ジャネン、ごめん······こっちの剣も、少し借りるよ」
ユウが神剣と呼ばれていた武器を手に取った。
魔剣ナイトメアは神将に砕かれてしまっていたからだ。
「······よせ、それは使い手の魂を消耗して力を引き出す······。触るだけで、魂そのものが消滅しかねんぞ」
ジャネンが苦しげに声を出す。
ジャネンも神将の攻撃によって、かなりの重傷を負っている。
「······魂の消滅は想像を絶する苦痛を伴う。通常の死よりも、苦しむことになる······」
「構わないよ······このまま神将に殺されるよりはマシさ」
「そもそも······神剣は、並の精神力では扱えな······」
ユウは気にすることなく、剣を構えた。
神剣がユウの腕を通じて、全身から力を吸い取っていく。ユウは倒れそうになるのを懸命に堪える。
「驚いたな······魔剣ナイトメアといい、勇者だとしても、お前の精神力は異常だ。今のお前には、気が狂いそうな程の激痛が全身を流れているはずだが······」
「痛みを感じないわけじゃないけど、ぼくのそういうマイナスの感情は壊れちゃってるからね。あの魔人には、むしろ感謝した方がいいかもしれないね」
「······なんの話だ?」
あの魔人というのは、以前にユウの精神を乗っ取り、操っていたバリュトアークという魔人のことだ。軽口を言うことで、ユウは苦痛を誤魔化している。
しかし、なんとか立っているが動くことも厳しそうだ。
「ユウよ······妾の背に乗るが良い。その身体では、ろくに動けないであろう? ······妾が、お主の足となろう」
シャルルアが(竜化)スキルを使い、竜の姿に変わった。全身が光り輝く、白銀の竜の姿だ。
「······ルルは大丈夫なの? ルルだって酷い怪我をしているでしょ?」
「まともに戦うのは厳しいが······お主を乗せて動くくらいなら大丈夫じゃ······! 竜形態の機動性を甘くみるでないわ」
半分くらいは強がりかもしれないが、シャルルアが力強く言った。
問答している場合ではないので、ユウもそれ以上は何も言わずに、竜形態のシャルルアの背に乗った。
シャルルアは翼を広げて飛び上がる。
「ほう、まだ動けたのか。だが今更(竜化)したところで、どうするつもりだ? 龍神の神子よ」
高笑いを止め、神将が振り向く。
(竜化)したシャルルアの背に、ユウが乗っているのに気付き、怪訝な表情をする。
「小僧······まだ生きていたのか。それに手にしているのは神剣か······。それは覚醒もしていない、中途半端な勇者が扱える代物ではないぞ」
「使えるかどうかは、お前の身体で確かめさせてもらうよ······!」
ユウの合図でシャルルアが神将に向けて急降下する。ユウはシャルルアの背の上で神剣を構えた。
――――――――――!!!!!
一閃、ユウが神剣を振り、神将の腕の一本を斬り飛ばした。
「なん······だと!?」
自身の腕の一本を斬り飛ばされ、驚きの声をあげる。シャルルアが旋回して、再び神将に迫る。
「調子に乗るな、小僧······!」
神将は魔法を放ち迎撃しようとしたが、ユウが神剣で魔法を弾き、さらに神将に斬りつけた。
神将の身体から、少なくない量の血が噴き出す。
「バカな······たとえ勇者であっても、神剣をここまで扱えるはずが······」
「はああっ!!!」
追い打ちをかけ、ユウが神将のすべての腕を斬り落とした。
これには、さすがの神将も動揺している。
「はあ······はあ······っ」
「ユウよ······大丈夫なのか!?」
「心配、ないよ······ルル」
ユウの方も神剣を制御するのに苦戦していた。
心配ないと言っているが、どう見ても顔色が悪い。
「おのれっ······消えるがいい!!!」
神将が口から超高熱のブレスを放った。
先程のように、手加減したものではない。
レーザー光線のように鋭いブレスが、ユウ達に向かっていく。
――――――――――!!!
「ぐは······っ······!!」
「ジャネン······!?」
ジャネンがユウ達を庇い、神将のブレスを受けた。
胸を貫かれ、ジャネンが大量の血を吐き出す。
「あたしに······そ、某に構っている場合か······! それよりも戦いに集中しろ······、神剣に、すべての生命力を持っていかれるぞ······!」
一瞬、ジャネンの一人称が変わった気がしたが、そんなことを気にしている場合ではない。
ジャネンのことも心配だが、ユウは戦いに集中する。
神将は斬り落とされた四本の腕を、すでに再生していた。
「神剣をそこまで使いこなすとは······だが、その様子では長く持ちそうにはないな。早く手放さなければ死ぬことになるのではないか?」
「お前に殺されるよりはマシだよ。最悪でも、お前を道連れにしてやるよ······!」
ユウの持つ神剣に凄まじい力が集まる。
ユウは神将を絶対に倒すという執念で、自身を支えていた。今のユウからは、神将といえど無視できないほどの力が発せられている。
「······よかろう」
神将の目付きが変わる。
再生した四本の腕を、上へ掲げた。
周囲の4つの柱に集まっていた、すべての力を自身の腕へ集中させている。
4つの柱は光の粒子となり、神将の手元に集まっていく。
そして光は別の形に変化していき、巨大な槍へと変わった。
「神槍イシュヴァランス······我が誇る、最強の武器で迎え撃ってやろう······!」
神将がユウと同じように、自身の槍に力を集中させる。ユウの神剣、神将の神槍にそれぞれ凄まじい力が集まっている。
「ユウよ······あの槍は、おそらく神将の切り札じゃ。その神剣と同等の存在かもしれぬ」
「みたいだね······それでも、ぼくは引く気はないよ」
シャルルアの背に乗りながら、ユウが構える。
ユウに今更退く意志はない。
「ルルは離れていた方がいいよ······。心配しなくても、あと一撃くらいなら自力で動けるから」
「何を言うておる、ユウよ······。そもそも今回の戦いに、お主達を巻き込んだのは妾の方じゃ。お主が命を賭けておるのに妾が賭けんでどうする······!」
シャルルアも、もはや引く気はない。
ユウと共に命を賭けるつもりだ。
「それに······妾の神子としての力も加われば、勝率がわずかにでも上がるであろう?」
「そうだね······なら、最後まで付き合ってもらうよ、ルル!」
「うむ、お主と共になら、死ぬのも怖くない······!」
「悪いけど、ぼくは死ぬつもりはないよ。もちろん、ルルを死なせるつもりもない!」
二人が覚悟を決めて、神将に目を向ける。
神将の持つ神槍には、とてつもない力が集まっていた。
「小僧······肉体も魂も、貴様が存在した痕跡そのものを、すべて消し去ってくれる······!! 光栄に思え、だが後悔しろ! 我が最強の一撃を受けることをな······!!!」
ユウとナークヴァイティニア。
次のお互いの一撃で、戦いの決着が着こうとしていた。




