30 冒険者ギルドマスターとの対面
結局、報酬の話は後日となりその日は解散となった。
リヴィア教会の上の人達にオレ達の素性のことなどはうまく誤魔化してくれるとのこと。
その辺はセーラとリンを信用しておこう。
これで平穏な日々が来ると安心していたのだが、数日後、今度は別のお客さんがやってきた。
「アイラさん、レイさん、シノブさんにギルドマスターから直々に話があるのですぐに来てほしいとのことです」
訪ねて来たのは冒険者ギルドの受付嬢のミャオさんだった。
受付嬢は複数人いるのだが、何故かミャオさんはオレ達専門になっているらしい。
しかしギルドマスターか。
商業ギルドのマスターには会ったことがあるけど、冒険者ギルドのマスターにはまだ会ったことはなかったな。
まあギルドマスターはギルドの最高責任者だから普通、新人と顔を合わせるなんてことはないんだが。
そのギルドマスターが直々に話があると。
嫌な予感しかしないんだが。
「話とは?」
アイラ姉が問う。
すでにいつものアイラ姉に戻っている。
あれから反省を兼ねた地獄の特訓をやらされてたからな············。
ハードな日々だった。
「すみません、私も詳しい話は聞いていないのでなんとも······」
「フム······」
アイラ姉が少し考える。
オレと同じく嫌な予感がしているのかもしれない。しかし呼び出された以上会わないわけにもいかないだろう。
「少しお待ちを、すぐに仕度をする。レイ、シノブもいいな?」
「うん、わかったよアイラ姉」
「承知したでござる」
というわけでオレ達はミャオさんの案内で冒険者ギルドのマスターの部屋まで行くことになった。
ギルドに入ると中にいる冒険者達がみんなオレ達に注目した。
そういえばギルドに来るのも久しぶりな気がする。
オレ達はまだランクEの一般冒険者だぞ?
そんなに注目することもないだろうに。
「マスター、アイラさん、レイさん、シノブさんをお連れしました」
「おう、入ってくれ」
許可を貰いギルドマスターの部屋に入る。
少し広めの仕事部屋って感じだな。
「一応初めてだったな。俺がギルドマスターのアブザークだ」
冒険者ギルドのマスターはガタイのいい50代くらいのおっさんだった。
レベルは79とかなり高い。
さすがは荒くれ者の多い冒険者を仕切るマスターといったところか。
「初めまして。私の名はアイラという」
「レイです」
「シノブでござる」
とりあえず自己紹介の挨拶をする。
「お前達の話は色々と聞いてたぜ。とんでもない新人が入ったものだぜ」
ギルドマスターが豪快に笑いながら言う。
オレ達ってそんなに目立ってるのか?
「自覚ねえって顔だな。初日からサイクロプスを持ってきただろ? あれだけでも相当だってのにその上ザッパーとジードを叩きのめして改心させちまったんだからな。あいつら腕はいいが素行が悪いのが問題だったんだがあれ以来まともになったぜ」
ザッパーとジードって誰だっけ?
ああ、そういえば初日に絡んできた冒険者がそんな名前だった気がする。
「しかし俺の目でも鑑定できねえか。お前らレベルはいくつなんだ?」
「それよりも話があるということだったはずですが?」
アイラ姉が話を進める。
悪い人ではないと思うけど初対面で簡単に情報は渡せない。
今のところ、オレ達のレベルを知っているのはセーラとリンだけだ。
「おっとそうだったな。実はお前らに指名依頼が入ってな」
指名依頼。
確か依頼者が冒険者を指名してくるやつだったかな。絶対に成功させたい依頼や信用できる冒険者に直接交渉したい場合のものだったはず。
だが余程高ランクじゃないと指名依頼なんて来ないはずだが。
「指名依頼か、依頼主は?」
「セルグリット=フェルクライト侯爵。······この町の領主だ」
まさかの大物だった。
この町の領主かよ。侯爵ってのは確か貴族の位だったかな?
伯爵だとか男爵とか色々あったけど侯爵ってどれくらい偉いんだっけ?
まあ町の領主だしな。
おそらく貴族の中でも上の方なんだろう。
その領主がオレ達にどんな依頼があるって言うんだ?
「指名依頼って言ってもな。ぶっちゃければお前達と顔を合わせたいだけらしい。アルネージュの町の英雄と呼ばれるお前達に領主自ら報酬を支払うそうだ」
英雄ってどういうことだ?
オレ達そこまで言われることしたっけ?
「······初耳なんだけど、アルネージュの町の英雄ってどういう意味?」
さすがにスルー出来ないので聞いてみた。
「おいおい、本当に自覚ねえのか? 町の食糧難を解決したり、商人達を襲う盗賊団を捕まえたりとかしたろ?」
確かにどっちも心当たりがある。
食糧難はオレ達の食事事情を改善してたら、いつの間にかそうなっていただけなんだがな。
盗賊団の方は依頼のついでや、孤児院の子供達のレベル上げなんかで捕まえてたっけ。
「さらに聖女セーラ様と共にオークキングすらも討ち倒した。お前らもうこの町じゃ有名だぜ」
マジかよ············。
目立たないようにしてたつもりなのにそんなことになってたのか。
「あのオーク達との戦いで用意された守りの石だってお前らが用意したものなんだろ?」
何故知っている?
あれはセーラが用意したことにしたはずなのに話が違うぞ。
「一般の騎士や冒険者は聖女様が用意したものだと思ってるが俺や領主は聖女様から本当の話を聞いてるぜ。お前らに口止めされたとはいえ、何もかもウソをつくのはマズイからってことだ」
確かにそうかもしれないが。
セーラも上の人間には本当のことを話していたのか。
「とまあそういうわけでお前らが規格外だというのはよくわかっている。となると領主も一度直接お前らと会いたいと思ったってわけだ」
······まあ大体の事情はわかってきたが。
なんかあまり会いたくないな。
「そもそも領主とはどういう人物なのだ? 規格外だという私達を利用しようと考えているなら会うのは遠慮したいが」
オレもアイラ姉と同意見だな。
「悪い奴じゃないぜ。そこは保証できる。純粋にお前らに礼を言いたいだけだろうぜ」
ギルドマスターが言う。
まあその言葉を信じるかはともかく、ここで会わないといえばそれはそれで面倒なことになる可能性もあるか。
やはり会うしかないかな。
「わかった。それならば会いに行くとしよう。いつ頃領主のもとに向かえばいい?」
アイラ姉も会うことにしたようだ。
まあ直接会った方がどういう人物かわかるだろう。
「もうギルドの裏に領主が馬車を回してくれている。急で悪いが今すぐに向かってほしい。一応俺も付いていく」
手回しがいいな。
オレ達が行くこと前提じゃないか。
まあ領主の指名を断る奴なんて普通はいないのかな?
というわけでオレ達は領主邸に向かうことになった。