勇者(候補)ユウの冒険章⑤ 17 シャルルア視点の戦い
(シャルルアside)
魔人族からの都の奪還、および龍王様の救出の最終段階に入っていた。
部隊を複数に分けて、八方からの強襲をかけた。
ここは妾達の住む都じゃ。
地の利はこちらにあり、魔人族共をうまく蹴散らせておる。
妾は総隊長リュガント率いる部隊と共に、龍王様の城を巣食う魔人族の排除に出た。
ユウ達やジャネンの協力もあり、戦況はこちらに有利に動いておる。
妾達は魔人族共を蹴散らしながら、龍王様の囚われている玉座の間まで急いだ。
玉座の間では多数の魔人族の術師によって、龍王様が動きを封じられていた。
そして中央には、以前はなかったはずの禍々しい柱がある。
あれがジャネンの言っておった神柱の杭とやらか······。
この神聖な場で魔神降臨など、絶対にさせぬぞ!
リュガントが先行し、魔人族の排除に出る。
リュガントは龍人族の最強の戦士じゃ。
魔人族の雑兵など、物の数ではない。
他の戦士達も、リュガントに続いて動く。
妾は後方より、神子のスキルで戦士全員の力を上げ、魔法での援護に徹した。
「おお、ユウよ。無事にエレナを助け出せたのじゃな!」
しばらくすると、ユウ達が玉座の間にやってきた。
無事にエレナを救出できたようじゃ。
ユウには神将の動きを封じるとっておきがあると言っておったが、成功したようじゃな。
ユウ達の援護も加わり、戦況は完全にこちらに傾いた。龍王様を封じていた魔人族共を無力化し、忌々しき呪具もすべて破壊した。
龍王様の消耗は激しく、封印が解けても、しばらくは動けそうにないご様子じゃ。
だが、これで都の奪還は成功した。
そう思った直後に············。
――――――!!!!!
「図に乗るのもそこまでだ。小僧······そして龍人族共······!」
怒りに満ちた形相の神将ナークヴァイティニアが姿を現しおった。
ユウが何をしたのかは知らぬが、よほど逆鱗に触れたようじゃ。
「もう食獣植物を倒して来たの!? いくらなんでも早すぎるわよ!」
テリアが驚いた様子を見せるも、すぐに弓矢を構えて放った。
だが、神将は容易く矢を弾いて、こちらに迫って来た。
「やらせはせぬぞっ、神将!」
リュガントが妾達の前に立ち、神将を食い止めた。
他の戦士達も一斉に神将を討つために動く。
「龍人族の総隊長か······まさか、まだ生きていたとはな」
「このリュガント、あの程度でくたばりはせぬ!」
「ならば、今度こそ引導を渡してくれる!」
神将が四本の剣を出現させ、それぞれの手に構えた。対するリュガントも剛槍を構えて、神将を迎え撃つ。
妾とエレナの力により、リュガントの力は大幅に上がっているはず。
それでも神将の力は、遥か上のようじゃ······。
リュガントが押されている。
他の戦士達も次々と神将に挑むも、軽くあしらわれていた。
「雑兵ごときで、我の相手が務まると思うな!」
何人もの戦士達が斬り伏せられてしまった。
幸い死者は出ておらぬが、戦闘続行が厳しい様子じゃ。リュガントも攻めきれずに苦戦しておる。
「ホーリーブレード!!!」
後方よりユウが巨大な剣を出現させ、神将に向けて放った。
しかし、神将は四本の剣でユウの放った巨大な剣を斬り裂き、消滅させた。
相対していたリュガントを弾き飛ばし、神将はユウに目を向ける。
「ずいぶん舐めた真似をしてくれたものだな、小僧······。楽に死ねると思うなよ」
「あはははっ! 下等生物相手にムキになりすぎじゃないの?」
圧倒的強さを見せつけられた神将相手に、ユウは挑発するように言った。
まるで神将を恐れている様子はない。
「今の内に精々笑っているがいい。その忌々しき顔、恐怖と絶望で歪ませてくれる······」
「無理じゃないかな? そんな感情、とっくの昔に壊れちゃってるからね」
壊れている? どういうことじゃ?
いや、今はそれを気にしている場合ではない。
話しながらユウが動いた。
神将もユウに向けて、剣を振り下ろした。
ユウは素早く攻撃を避けるが、神将は間髪入れずに追い打ちをかけてくる。
リュガントですら神将の剣を受けるのは困難じゃった。いくらユウが勇者でも、神将の剣を受ければ真っ二つになる。
――――――!! !! !!
神将の足下で次々と爆発が起きる。
ユウが攻撃を避けながら(爆裂符)などの魔道具をバラ撒いているようじゃ。
「小賢しい、そんな小細工が我に通用すると思ったか!」
「あはははっ、思ってないよ? それよりも頭に血が上って、ぼくだけに気を取られすぎじゃない?」
爆発を物ともせずに、ユウへの攻撃を繰り返す。
その後方より、テリアとミリィが構えていた。
「しっかり合わせなさいよ、ミリィ」
「しくじらないで下さいよぉ? テリっちぃ」
「「グングニール·ブレイク!!!」」
二人が力を合わせて魔力を込め、強力な弓矢を作り出し、放った。
放たれた矢は凄まじいスピードで、神将の身体に突き刺さる。
「目障りな下等生物がっ! 貴様らごときが我を傷つけられると思ったか!?」
突き刺さったかに見えたが、二人の放った矢の方が折れてしまっていた。
今のはとてつもない威力があったと思ったのじゃが······。
反撃に神将は二人に向けて魔法を放つ。
「させぬ!」
フードを深く被り、顔を隠しているジャネンが前に出て、二人に向かっていた魔法を相殺した。
ジャネンはそのまま魔剣ナイトメアと呼んでいた武器を持ち、神将に斬りかかる。
「黒夢争強剣!!」
ジャネンの魔剣から凄まじい魔力が放たれる。
しかし、その剣技すらも神将の四本の剣で受け止められてしまう。
「冥界の者が何故、龍人族や人族の勇者の味方をする? 冥界の神は何を企んでいる?」
「············」
「まあいい······。我の邪魔をするのならば、誰であろうと殺すまでだ!」
どうやらジャネンの素性は、神将にバレているようじゃな。
ジャネンは崇める神は違えど、妾と同じ神子という立場じゃ。
しかも神子としての神よりの祝福は、妾よりも深く受けているようじゃ。
戦闘技術もリュガントに匹敵······いや、上回るかもしれぬ。
しかし、それでも神将には及ばぬか······。
「ジャネン、離れて!」
ユウがそう叫び、ジャネンが神将から距離を取る。
いつの間にか神将の周囲を囲むように、針のような物がいくつか床に刺さっていた。
あれは確か避雷針とかいう魔道具じゃったか?
「放出系の魔法は得意じゃないんだけどね。くらえっ、テラ·スパークヴァース!!!」
ユウが魔法を放ち、神将に向けて雷が落ちた。
これは勇者専用魔法、「雷」の最上級魔法か······?
「ぐおおっ······!!」
雷は神将に直撃した。
ヤツの全身に雷が駆け巡っているのがわかる。
ただでさえ強力な勇者専用魔法。
その上、避雷針によって、その効果が何倍にも高められている。
これならば、いかに神将といえど······。
「我を······侮るでないわぁーーっ!!!」
神将が体内の「雷」ごと、魔力を体外に放出した。
ユウ達は雷を帯びた魔力を浴びて、ダメージを受けていた。
「くう······強すぎでしょ、コイツ······」
テリアがすぐに立ち上がる。
ユウ達も直ぐ様、態勢を立て直していた。
「無駄な抵抗は終わりか? 貴様らごときが、どんな小細工をしようと、我は倒せぬ!」
今の攻撃でも神将にダメージを受けている様子はない。やはり神将は圧倒的じゃ······。
コヤツ一人のために形勢が逆転してしまった。
このままではマズイ······何か良い手はないか?
「シャルルア様······このリュガントめに力をお貸し下さい。刺し違えてでも、神将の野望を阻止して見せます!」
リュガントが槍を支えに立ち上がる。
戦えない程ではないにしろ、かなりのダメージを受けている様子じゃ。
妾の神子の力を最大限与えれば、一時的に大幅なパワーアップは可能じゃが······。
その分反動も大きい······下手をすれば、命を失いかねん。
「私の心配は無用です。命を賭さねば神将を討てませぬ! シャルルア様、ご決断を!」
リュガントが覚悟を決めた目で、妾を見る。
確かに、このままでは全滅もありうる······。
妾も覚悟を決めねばならぬか······!