勇者(候補)ユウの冒険章⑤ 16 龍王の城での攻防
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エレナ救出に成功したユウ達は、龍王が拘束されているという玉座の間に向かっていた。
「うまく仲間の娘を救出できたようだな。しかし、あんな隠し玉を持っていたとは驚いたぞ」
合流したジャネンが言う。
(千里眼)でユウ達を見ていたようだ。
ユウ達がエレナを救出している間、ジャネンは城を占拠していた魔人族の足止めをしていた。
玉座の間に続く通路には、魔人族の石像があちこちに並んでいた。
「ユウ、誰この人?」
「エレナは初めてだったね。このコはジャネン。エレナ救出に協力してくれたんだよ」
「······このコ?」
今のジャネンはフードを深く被り顔を隠している。
ジャネンはフードを外して素顔を見せた。
髪の毛が無数の蛇の形をしているメデューサ族の姿を見て、エレナが驚いていた。
ユウはジャネンが冥界の神子だと詳しく紹介し、そしてジャネンにも、エレナのことを紹介した。
「め、冥界の神子······?」
「······某は別に神子という立場では······」
エレナとジャネン、お互いに言いたいことがありそうだったが、今はゆっくり話をしている場合ではない。
そうこうしている内に、玉座の間までたどり着いた。玉座の間は大広間と呼べるくらい、広大なフロアだった。
玉座の間ではシャルルアとリュガント率いる龍人族と、魔人族が激しく戦っていた。
奥の方には龍王と思われる巨大な竜が、魔人族の術師達に動きを封じられている。
「おお、ユウよ。無事にエレナを助け出せたのじゃな!」
シャルルアがユウ達に気付き、言う。
シャルルアは後方より龍人族達を指揮、高揚させていたようだ。
神子という立場で専用のスキルを持っているため、シャルルアはこの場にいるだけで、龍人族の力が高まるのだ。
「おのれっ······龍人の神子め!」
「おっと、させないよ!」
魔人族がシャルルアに迫って来たが、ユウが剣を出し、弾き飛ばした。
「すまぬ、ユウよ」
「話は後だね。ぼく達も手伝うよ、ルル!」
ユウ達も戦いに参加する。
肉弾戦の得意な龍人族に接近戦は任せ、ユウ達は魔法を中心に、後方より援護する形を取った。
テリアは弓矢を作り出し、魔人族に向けて放つ。
ミリィは様々な属性魔法で攻撃している。
ジャネンは状態異常を与える(魔眼)と(邪眼)を駆使して援護していた。
エレナはシャルルアと共に聖女のスキルで、龍人族全体のステータスをアップさせている。
聖女と神子の力により、龍人族達のステータスは大幅に上がっていた。
「······アタシは、あれをこわす」
マティアは魔法の威力が高く、味方の龍人族まで巻き込みかねないので、迂闊に攻撃させられない。
マティアの目線の先には、玉座の間の中心にある巨大な禍々しい柱があった。
魔神降臨のための神具、神柱の杭である。
マティアは魔力を両手に集中させた。
膨大な魔力が一瞬で集まった。
「デスプロージョン」
マティアは手加減無しで魔法を放った。
一応周囲に被害が及ばないように、威力を一点集中させているようだ。
――――――――!!!!!
マティアの魔法は神柱の杭に直撃したが、傷一つつかずに屹立していた。
「神具とか言ってたっけ? マティアの魔法でも傷付かないなんて、ずいぶん頑丈だね」
「············もっと、まりょくをこめる」
表情は変わっていないが、少し悔しそうな口調で、マティアが再び魔力を集中する。
今度はユウも協力して、魔法を放った。
「ファイナルソード!!!」
ユウが神柱の杭に匹敵する巨大な剣を作り出し、放った。
しかし、その攻撃でも傷付けることは出来なかった。
「神具を通常の攻撃で破壊するのは、まず不可能だ。同等の神具クラスの武器か、最低でも聖剣でなければ話にならんぞ」
ジャネンが言う。
確かに今のはユウも手加減無しで放ったが、傷一つつかなかった。
通常攻撃では破壊できそうにない。
「ジャネンはそういう武器を持ってない?」
「······あるにはあるが」
ユウの問いに、ジャネンは気乗りしない様子を見せる。
「あの魔剣ナイトメアとか呼んでた剣のことかな? 結構、カッコイイ剣だったよね」
「あれは確かに強力だが、聖剣程の力はない。あまり使いたくはないが、我が神より預かった神剣が―――――」
そうこうしている内に戦局が動いた。
聖女のエレナが加わったことで、龍人族が一気に勢いづき、龍王を封じていた魔人族達を蹴散らした。
「魔人族共よ! 貴様らの暴挙もこれまでだ!」
総隊長リュガントが武器を構えて言う。
ちなみにリュガントの武器は、かなり重量のありそうな槍だ。
「くっ、この死に損ないが······!」
「ナークヴァイティニア様に、手も足も出ずに敗れた分際で······」
劣勢の魔人族達が、そう悪態をついた。
だが、戦況はすでに龍人族側に傾いていた。
龍王を拘束していた術師は全員捕縛され、呪具もすべて破壊されている。
肝心の龍王は消耗が大きいらしく、まだ自力で動くのは難しそうだが、回復は時間の問題だろう。
―――――――!!!!!
そんな時、玉座の間の入口が凄まじい音を立てて吹き飛んだ。
「図に乗るのもそこまでだ。小僧······そして龍人族共······!」
怒りの形相の神将ナークヴァイティニアが姿を現した。