勇者(候補)ユウの冒険章⑤ 15 エレナ救出
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魔人族から龍人の都奪還のため、龍人族の戦士達が一斉に強襲に出た。
個々の戦闘能力は龍人族の方が上のようで、魔人族相手に優勢に戦えていた。
魔人族達は徐々に追い込まれ、後退を余儀なくされていた。
ユウ達も龍人族に味方して、この戦いに参加している。そして、ジャネンの(千里眼)でエレナの居場所を突き止め、ユウはその場所に降り立った。
「エレナ、助けに来たよ。そしてナークヴァイティニア。お前には礼をしに来たよ」
捕らえられたエレナのいる部屋に侵入したのは、ユウ一人だ。
部屋には神将ナークヴァイティニアの他にも、複数の魔人族がいる。
「小僧······貴様がこの場に来たということは、ガーヴァとネルギラはやられたのか。情けない奴らめ······」
ナークヴァイティニアがユウに目を向ける。
周囲の魔人族達は、ユウを取り囲むように動いた。
「しかし、あれだけ力の差を見せつけてやったというのに、再び我の前に姿を現すとはな。よほど、学習能力が無いと見えるな」
「そうだね、ぼくはそんなに賢い方じゃないからね。お前がどんなに強くても、やられっぱなしは我慢ならないんだよ」
一度は圧倒的強さを見せつけられた神将を前にしても、ユウに恐れている様子はまるでない。
「ふん、だからと言って何が出来る? 外の龍人族共は貴様が引き連れて来たのか? その程度のことで優位に立ったと思っているのなら滑稽だな」
現在、魔人族が劣勢に見えるがナークヴァイティニアはあまり気にしている様子はない。
戦況など、いつでも覆せるといった態度だ。
対するユウも余裕の笑みをうかべている。
「言ったでしょ? 礼をしに来たって。
お前にはとっておきのプレゼントを持って来たよ」
「なに······?」
ユウの余裕の態度に眉をひそめる神将。
ユウは懐から何かを取り出し、ナークヴァイティニアの方へ向けて、高く放り投げた。
「なんだ? 豆······? いや、何かの種か?」
ユウが放り投げたのは小さな種のような物だった。
意味がわからず、ナークヴァイティニアはさらに眉をひそめた。
「――――――発芽せよ!」
ユウがそう叫ぶと種は一気に膨張し、発芽した。
―――――――!!!!!
「ガアアアッ!!!」
「ぐああーっ!?」
「な、なんだこれは······!?」
発芽した根が床を突き破り、一気に成長し、大樹となった。
大樹の枝や根が、周囲の魔人族を絡み取っていく。
「な、なんだと!? まさかこれは············食獣植物!!?」
これには、さすがの神将も驚きの声をあげた。
発芽したルナティック·プラントは神将に向けて、枝や根を伸ばした。
無数の枝や根が、四方八方からナークヴァイティニアに絡みつく。
「バカな!!? 何故、古の魔物の種を、貴様のような小僧が持っている! いや、それ以前に何故、月の光も無しに発芽した!?」
「あはははっ! コイツはどうも勇者の魔力が大好物みたいでね。毎日ぼくの魔力をたっぷり与えてたから、しばらくは月の光が無くても活動できると思うよ」
「ゆ、勇者だと······!? 小僧、まさか貴様は······」
「気付いてなかったんだ? 思ったよりも鈍いんだね」
問答している内も、どんどん根や枝を伸ばしていく。ナークヴァイティニアは力任せに引き千切るが、次々と身体に絡んでいく。
周囲の魔人達もルナティック·プラントの枝や根の前に為す術もない。
「貴様! 仲間の聖女まで巻き込むつもりか!?」
「そんなことするわけないだろ? もうとっくに救出済みだよ」
ユウが笑いながら言う。
いつの間にかエレナは拘束を解かれて、姿を消していた。
「大丈夫だったですかぁ? エレエレ〜」
「あ、ありがとう、ミリィ············」
翼を広げてエレナを抱えたミリィが、ユウの隣に降り立った。
ナークヴァイティニアの隙を突いて、救出したようだ。
「エレナ、遅くなってごめんね。怖くなかった?」
「ううん、ユウが来てくれるって信じてたから。やっぱり、ユウは勇者だわ」
ユウの問いにエレナも笑顔で応えた。
「小僧······貴様ぁあーーっ!!」
ナークヴァイティニアが魔力を解放して、枝や根を吹き飛ばした。
そのままユウ達に向かおうとしたが、足下が突如として爆発したり、凍りついたりしていた。
「······いわれたとおり、しかけた」
「ありがとう、マティア。いい感じに引っ掛かってくれたみたいだよ」
無数のコウモリが一か所に集まり、少女マティアの姿に変わった。
コウモリに姿を変えていたマティアが、部屋の至るところに罠を仕掛けたようだ。
(発火符)や(爆裂符)など魔道具専門店トゥラヴィスで手に入れた物だ。
中にはリーナ特製の物も混じっている。
「それにしても、ユウ。アンタ、いつから食獣植物に魔力を与えてたのよ?」
テリアも姿を見せた。
魔人族を襲うルナティック·プラントを見て、呆れた様子だ。
「手に入れてからずっとだよ? 何かに使えないかなって、色々試していたんだ」
「············いつの間に。間違って町の中で発芽してたら、どうするつもりだったのよ······」
知らない所でユウがあんまりな行動を取っていたことに、テリアはさらに呆れた様子を見せた。
「ガアアアッ!!!」
「植物如きが······勇者なんぞに飼い慣らされおってぇーーっ!!!」
マティアの仕掛けた罠に足を取られて、ナークヴァイティニアはルナティック·プラントの排除に手間取っている。
「さ、今の内にここを離れようか。食獣植物は
敵味方の区別なんて出来ないだろうから、ここにいたら、ぼく達も危ないよ」
ユウの言葉に全員が頷き、部屋から離脱しようと動く。
「シャルルアとリュガントさん達は玉座の間に向かったわ」
「早くシャルルン達を手伝いに行きましょうよぉ」
シャルルア達は龍王救出に向かったらしい。
ユウ達も急いでそちらに向かうことにした。
「じゃあね、ナークヴァイティニア。龍王を助けて、後は神柱の杭とかいうのをなんとかすれば、お前の計画は台無しだね。あはははっ!!」
挑発する捨て台詞を残して、ユウ達は部屋を後にした。後ろの方からナークヴァイティニアの怒りの叫びが聞こえたが、無視した。
――――――――!!!!!
ナークヴァイティニアは魔力を一気に解放して、部屋ごとルナティック·プラントを吹き飛ばした。
配下の魔人族もろとも············。
「小僧······もはや絶対に生かして帰さんぞ。我自らの手で、その身体、バラバラに引き裂いてくれる······!!」