勇者(候補)ユウの冒険章⑤ 13 龍人族の反撃
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「龍王はまだ無事のようだ。都にある居城の玉座の間で、魔人族の術師達に動きを封じられている」
ジャネンの言葉に龍人族達がざわめく。
「何故わかるのじゃ、ジャネンよ?」
「(千里眼)のスキルの力だ」
シャルルアの問いに簡単に答えた。
ジャネンの持つスキルの能力らしい。
(千里眼)
遠隔地の状況を見ることが出来る。
「それと、連れて行かれた、お前達の仲間の娘の姿も見えたぞ」
「エレナのことだね!? エレナは無事なの?」
「拘束されてはいるが、特に何かされている様子はないな」
エレナの無事を聞き、ユウ達はホッと息をつく。
シャルルアはさらに詳しく状況を聞こうとしたが、ジャネンは片目を抑え、首を横に振った。
「······駄目だ、妨害魔法を使っているようだ。これ以上の情報収集は無理だ」
「そうか······いや、それだけわかれば充分じゃ!」
シャルルアが他の龍人族達に目を向ける。
龍人族の戦士達はすでに出陣の準備は整い、総隊長リュガントを先頭に整列していた。
「皆の者聞け! 龍王様は無事じゃ! 憎き魔人共に捕らわれておるが、存命しておる! 魔人共も龍王様の命は奪えず、拘束するだけで精一杯のようじゃ! ならば、妾達の手で龍王様を奴らから解放するだけじゃ!」
「「「おおおーーっ!!!」」」
シャルルアが右腕を掲げ、龍人族の戦士達を鼓舞する。士気だけでなく、シャルルアの龍神の神子としての力で龍人族全体のステータスが上がっているようだ。
「こうして見るとシャルルアって、かなり偉い立場なのね」
「まあ龍人族の神子ですからねぇ。人族で言う聖女と同じですよぉ」
後ろから、その様子を見ているテリアとミリィがつぶやき合う。
ユウとマティアも同じく、その様子を見ていた。
「ジャネン、エレナは龍王と同じ場所に拘束されてるの?」
「いや、龍王は玉座の間だが、その娘は別の部屋に連れて行かれたのが見えた。玉座の間には神柱の杭を確認した。おそらく龍王も娘も、魔神降臨の生け贄にするつもりだろう」
「まるすぴらー?」
「この世界に神を降臨させる、特殊な神具だ」
ジャネンが(千里眼)で確認できた情報によると、龍王の城の玉座の間には魔人族によって神柱の杭という特殊な物が設置されているらしい。
「じゃあ神将の目的は魔神ディヴェードって奴をこの世界に喚ぶこと?」
「おそらくな」
「なんで自分達の崇める神を喚ぶのを、わざわざ龍人族の地でするのよ? 自分達の国でやればいいじゃない」
ユウとジャネンの会話にテリアも加わった。
「神を降臨させるには色々と犠牲が必要だ。特に魔神ディヴェードは魔人以外の他種族の血を大量に必要とするはずだ」
「······何よそれ? 迷惑な神ね」
「某に言われても困る。ディヴェードに直接言うんだな」
神をこの世界に降臨させるには、色々と面倒な段階を踏まなければならないらしい。
「魔神降臨には他種族の血、特に龍王や神に近しい神子などはうってつけだろう。ディヴェードがこの世界に降臨すれば、魔人共は活気づき、世界の支配は時間の問題になるだろうな」
「聖女のエレナをそのために利用するわけだね······魔人族がルルを狙ってたのも、そのためだったんだね。絶対に止めないと」
ジャネンの言葉にユウがそう意気込む。
「聞き捨てならぬ話じゃな。そうそう魔人共の思い通りにはさせぬぞ」
シャルルアが言う。
龍人族の戦士達はリュガントが鼓舞して、いつでも出陣できる状況となっている。
ここ以外の場所に避難している龍人族にも連絡が取れるらしく、都奪還に向けて一斉に打って出るようだ。
「もちろん、ぼくも行くよ。エレナを必ず助けるし、神将にもたっぷりお礼をしてあげないとね」
当然、ユウも別動隊として参加するつもりだ。
「何か策があるのか?」
「丁度、良い物を持っていたからね。コレなら神将も驚いてくれると思うよ」
ジャネンの問いに不敵に笑うユウ。
何かとっておきがあるらしい。
「もちろん、わたしも行くわよ、ユウ」
「ミリィだって行きますよぉ、エレエレは必ず助けますからぁ!」
「······アタシも、やられたかりはかえす」
テリア達も今更引く気はないようだ。
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「クククッ······覚醒前とはいえ、人族の聖女を生け捕りに出来るとは運が良い。後はガーヴァ共が龍神の神子を連れて来れば、ディヴェード様降臨は早まる。3日も必要なさそうだな」
四本腕の魔人、ナークヴァイティニアが捕らえたエレナを眺めながら言う。
エレナは拘束され、十字架のような物に張り付けにされていた。
周囲には見張りの魔人族が何人もいる。
「ん······ここは······?」
「ふん、目覚めたようだな。人族の忌々しき聖女よ」
「······!? あ、貴方は······!?」
気を失っていたエレナが目を覚ます。
すぐにナークヴァイティニアの姿に気付き、驚きの声をあげた。
「ユウ······テリア!? み、みんなはどこ!?」
「ふはははっ、残念だったな聖女よ。奴らはお前を見捨てて逃亡したぞ。もっとも、今頃追手に始末されているだろうがな」
「う······ウソよ、ユウ達がそんなことするわけないわ!」
自分を見捨てて逃げたという言葉を信じず、声をあげるエレナ。
「まあ、そんなことはどうでもいい。それよりも自分の身を心配するのだな。いや、魔神ディヴェード様の生け贄になれることを光栄に思うべきか」
「ま、魔神ディヴェード······女神リヴィア様と同格の神······」
「女神ごときと、ディヴェード様を同列に語るな。我が神、ディヴェード様こそ、この世を統べるに相応しい御方だ。この世界に他の神など必要ない」
ナークヴァイティニアは、完全に魔神に心酔しているようだ。
エレナは怯えながらも声をあげた。
「そんな勝手なこと、きっと女神様が黙ってないわ! 龍神だって、このまま何もしないでいるわけないわよ」
「ふん、震えている割にはよく回る舌だな。その威勢がいつまで――――――――」
ナークヴァイティニアの言葉の途中で、周囲が騒がしくなった。
伝令役の魔人が慌ただしく入ってきた。
「ナ、ナークヴァイティニア様! 龍人族の強襲です! 都外の八方から龍人族が攻めてきました!」
「ふっ、最後の特攻のつもりか。ディヴェード様降臨の舞台に相応しいな。龍人族共の血でこの地を染めてやろう」
ナークヴァイティニアは慌てた様子もなく、むしろ望むところだと、笑みをうかべた。