勇者(候補)ユウの冒険章⑤ 7 魔人族の首領ナークヴァイティニア
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「ここは?」
「どこかの山奥みたいね」
竜の翼の効果で別大陸までたどり着いたようだ。
ユウとテリアが周囲を見回して言う。
「············あつい······」
マティアが無表情だがそんなことを口にした。
今までいた大陸よりもこの地は周囲の気温が高いようだ。
「大丈夫ですかぁ? エレエレ」
「な、なんでユウ達は平気なの? あんな凄いスピードで飛んで来たのに······」
エレナは両膝をつき、うまく立ち上がれない様子だ。ミリィが声をかけるが膝がガクガクいっていた。
ユウが優しく支えることで調子を取り戻したようだ。
「ここはトライヒートマウンテンという山の中じゃ。龍人の都はこの山を下ってすぐの場所にある」
シャルルアが現在地について説明した。
この山は標高20,000メートルを越す大陸最大の山らしい。
そして現在ユウ達がいるのは3000メートル付近の比較的下の方のようだ。
「へえ~、確かにすごくいい景色だね」
ユウが目の前の景色を見て言う。
今ユウ達のいる場所からは広大な景色を一望できる。こんな時でなければ観光するのもいいかもしれない。
「とりあえず山を下りましょう。龍人族の都がどんな様子なのかも確かめたいしね」
テリアが言い、ユウ達は山を下っていく。
ここからは徒歩で進むことになるようだ。
道なりはあまり険しくないため楽に進めている。
道中何度か魔物に襲われたがユウ達は問題なく撃破していった。
「それにしても暑いですねぇ。また海で泳ぎたくなりますよぉ」
「この大陸は基本的に熱帯地じゃからのう。妾達龍人族はあまり気にならぬが他種族には厳しいかもしれぬ」
ミリィは結構な汗をかいているがシャルルアは涼しげな様子だ。
龍人族は暑さに強い種族らしい。
「············また?」
海で遊んでいたことを知らないエレナが首を傾げた。
それから標高1000メートル付近まで下りた所でユウ達は休憩を取ることにした。
「なんでよりによってこんな山奥に下りたのよ? 山を下るだけでも結構大変じゃない」
テリアがボヤくように言う。
テリアはまだまだ疲労は感じてなさそうだがエレナは少し疲れた様子だ。
「都の近くじゃと魔人族達に気付かれるかもしれぬからのう。妾がここにいると知れたらまた兵を差し向けられるじゃろう」
万が一見つかっても山の中ならば追手を振り切り逃げられる可能性も上がるためだそうだ。
「魔人族の目的も気になるね。何が狙いで龍人族の都を攻めて来たんだろ? 目的がわかれば魔人族の裏をかくことが出来るかもしれないんだけど」
「確かにそうよね。無意味に攻めて来たわけじゃないでしょうし」
ユウとテリアが色々と今後の方針を話し合う。
相手が魔王以上の存在なら正面から戦いを挑むのは無謀だろう。
そうして休憩を取っていた所、周囲が異様な雰囲気に包まれた。
「············かこまれてる」
マティアが言うようにユウ達の周囲を複数の気配が囲んでいた。
「······多分魔人族ね。先日の奴らと似たような気配だわ」
「どうやらぼく達がここに来たことがバレてたみたいだね」
テリアとユウがいつでも動けるように構える。
ミリィやエレナ、シャルルアも同じように構えた。
「まさか自分からノコノコ戻って来るとは捜す手間が省けたぞ。龍神の神子よ」
複数の魔人が姿を現した。
ざっと見て20人近くいるようだ。
そしてその中でも大柄の四本腕の魔人が前に出てきた。
「ナ、ナークヴァイティニア!? バカな······神将自ら出向いて来たというのか!?」
シャルルアが驚きの声をあげる。
どうやらこの四本腕の魔人が首領ナークヴァイティニアのようだ。
「そいつらが報告にあった人族のガキ共か。ふっ············ふははははっ!! そんな奴らに頼るしかないとは龍神の神子が情けないことだな」
ユウ達を見て大笑いをするナークヴァイティニア。
完全にユウ達をただの子供としか見ていない。
「な、舐めるでないわっ! ユウ達はお主の思っているほど弱い存在ではないぞ!」
シャルルアが言い返すがナークヴァイティニアはどこ吹く風だ。
だが馬鹿にされた態度にユウ達も黙ってはいなかった。
「アンタが魔人達のボスなんでしょ? だったらアンタを倒せばそれで解決なのよね。好都合じゃない」
「そーですよぉ。ミリィ達は結構強いんですからぁ」
テリアとミリィが言う。
「エレナは下がってて。コイツはぼく達が倒すから」
「何言ってるのよ、ユウ! 私だって戦えるんだからね」
ユウはエレナを下がらせようとするが、エレナはそれを拒否した。
その様子を見ていたナークヴァイティニアはさらに大笑いする。
「くくくっ······ふははははっ!! 身の程知らずも甚だしいとはこのことだな。我を前にしてそんな口が聞けるとは無知は罪だとよく言ったものだ」
ナークヴァイティニアは周りの魔人達を下がらせた。
魔人達は周囲を取り囲み、ユウ達を逃さないようにしている。
「いいだろう。下等生物に身の程をわきまえさせることも上に立つ者の務め······」
ナークヴァイティニアが構えた。
周囲の魔人達には手を出させずに一人でユウ達を相手にするつもりのようだ。
「光栄に思え、だが後悔しろ! 魔神ディヴェード様の忠実なる下僕······神将が一角、
《知の将》ナークヴァイティニア。特別に相手をしてやろう」