勇者(候補)ユウの冒険章⑤ 6 新たな大陸へ旅立ち
(シャルルアside)
妾の名はシャルルア。龍人族の神子じゃ。
神子とは龍神フェイドリュート様の声を聞け、力を授けられる神に仕える存在じゃ。
とは言っても、妾はまだ未熟者故に、龍神様の声を数えるくらいしか受け取っておらぬのだが。
厳しくも充実した日々を過ごしていたのだが、ある日突然、魔人族の軍勢が龍人の都に攻めてきた。
しかも信じられないことに、魔王よりも魔人族の神ディヴェードに近いと言われている〝神将〟自ら軍を率いて。
突然の事態に、すべてが後手に回ってしまった妾達龍人族は、あっという間に劣勢に追い込まれてしまった。
妾は追手から逃れるため(竜化)して都を後にし、海を渡って大陸を離れた。
魔人族共の目的はわからぬが捕まるわけにはいかぬ。
たとえ神将といえど、龍王様を相手にしては、そう簡単に都は落とせまい。
妾にできることは追手から逃れ、龍王様の足を引っ張らぬことくらいじゃ。
そうして逃れてきた別大陸で、人族の勇者と出会い、助けられ、聖女とも会合した。
さらに女神リヴィアの神託を受けて、妾達の手助けをしてくれると約束してくれた。
偶然逃れてきた大陸で勇者と聖女、そして女神リヴィアの助けを得られるとは······。
これは本当に偶然であろうか?
それとも龍神様のお導きじゃろうか?
どちらにせよ、心強い味方ができたのは事実。
龍人族の都を救うことができるかもしれぬ。
――――――――(side off)―――――――――
女神の神託が下りてから、ユウ達はシャルルアの手助けのため色々と準備を進めた。
エレナはリヴィア教の本殿に神託の報告をしていた。
だがリヴィア教会は他の三人の聖女も含めて忙しそうにしていたため、すぐには動けそうにない。
リヴィア教だけではなく王城も似たような状態で、救援を期待できそうになかった。
都合の悪い時期が重なってしまっていたようだ。
準備を終えたユウ達は、シャルルアの故郷である龍人の都に向かうことにした。
「今更じゃが本当に良いのか? ナークヴァイティニアは強敵じゃ。安全は保証できぬが······」
「本当に今更だよ、ルル。ぼくはルルを助けると決めたからね。勇者とかは関係なくね」
シャルルアの問いにユウが答える。
テリア、ミリィ、マティア、そしてエレナも異論はないようだ。
ちなみに今、ユウ達は王都の外に出ている。
見送りのためにリーナとリーアの姿もあった。
「あたし達はお店があるから一緒に行けないけど、みんな気をつけてね······!」
「わたし達が行っても足手まといになるだけですわ。ですから、ここでみなさんの無事を祈っていますわ」
リーナとリーアが言う。
「それよりも、エレナは本当に黙って来てよかったの? やっぱり一言断ってからの方が······」
テリアがエレナに問う。
エレナはリヴィア教の本殿にも、両親にも黙ってここに来ていたようだ。
「心配いらないわよ、テリア。だって、言ったらパパ達までついて来かねないもの。書き置きも残して来たし、聖女の試練だってことにすれば2~3日くらい問題ないわよ」
エレナはそう言うが、問題だらけにしか見えない。
そもそも今回の問題を2~3日で解決できるかわからないのだから。
テリアは一応リーナ達に、もしもの時の言伝てを頼んだ。
「ところで、どうやって龍人族の都まで行くんですかぁ? 海を渡った別大陸にあるんですよねぇ? 船でも用意してるんですかぁ」
ミリィが言う。
シャルルアは(竜化)してこの大陸まで飛んできたため、船などあるはずもない。
「その心配は無用じゃ。この竜の翼を使えば、あっという間じゃ」
そう言ってシャルルアは魔道具を取り出した。
見たところ(竜化)していた時の、翼の一部のような物だ。
「これは龍人族のみ使える専用魔道具じゃ。魔力の痕跡を残した場所に一瞬で飛んでいける優れものじゃ。使い捨てじゃがの」
「へえ~、便利な物があるんだね。それにその翼、結構カッコいいかも」
どうやら某RPGのキ○ラの翼のような効果があるらしい。
ユウが興味津々に見ていた。
「つまり戻って来る時も一瞬なのね。少し安心したわ」
テリアの言う通り、シャルルアはこの場所に痕跡を残したので、再び戻って来ることも可能になったようだ。
使い捨てのため複数持っているらしく、万が一失くしても龍人の都で補給も可能らしい。
「では妾の近くに集まるのじゃ。離れていると効果が及ばぬかもしれぬのでな」
シャルルアが言い、ユウ達は一ヵ所に集まった。
「それじゃあ、お姉さん、リーア、行ってくるね!」
ユウが笑顔で二人に手を振る。
テリア達もそれぞれ旅立ちの挨拶をした。
「では竜の翼発動じゃ!」
シャルルアが竜の翼を空に向けて掲げた。
目には見えない空気、もしくは魔力の膜のようなものがユウ達を包み、全員が空へと舞い上がった。
ユウ達は、おそらく龍人の都があるであろう方向に、凄いスピードで飛んでいった。
この場に残ったのは見送りのリーナとリーアだけになった。
「行っちゃったね。ユウ君達、無事に帰ってくればいいけど······」
「ユウさん達はわたし達が心配するほど弱くありませんわよ、お姉様。みなさんがいつ帰ってきてもいいようにしておきましょう」
少し心配そうな様子のリーナにリーアはそう言った。そうして二人は、店の開店準備に戻ろうとしたところ······。
――――――――カツーン、カンッ、カンッ······
後ろの方で何かが落ちたような金属音が響き、リーナが振り返る。
「え、何の音?」
「······これは······鍵ですわね······」
リーアが落ちていた物を拾った。
それは竜の紋章が刻まれた鍵のような物だった。