勇者(候補)ユウの冒険章⑤ 5 神託
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「聖女? それに勇者と言うたか?」
ユウ達の会話を聞いていたシャルルアが首を傾げて言う。
「あ、ルルは初めてだったね。聖女候補のエレナだよ」
ユウがシャルルアにエレナを紹介した。
「······ユウ、また新しい女の人と知り合ったの?」
エレナがジト目でユウを見る。
よくわからない施設からマティアを連れて来たり、魔道具専門店の姉妹と知り合ったりでユウの周りには女性の影が多い。
「妾の名はシャルルア。龍人族の神子じゃ」
シャルルアが名乗った。
龍人族と聞きエレナが驚きの表情をうかべる。
「えっ······龍人族? それに神子って」
「うむ、お主も聖女と呼ばれていたのう? 聖女は神子同様に神に近しい存在じゃったはず。人族の神は確か女神リヴィアだったか」
どうやらユウ達が予想したように聖女と神子は同様の存在らしい。
ただ崇める神が違うだけのようだ。
「······ユウ、どういうこと? 一体何があったの?」
エレナに問われユウ達はシャルルアに出会った経緯を説明した。
エレナは驚いたような呆れたような表情になる。
「やっぱりユウは勇者なのね。色々な問題に巻き込まれる運命みたいね」
「ぼくはそういうのは遠慮したいんだけどね」
エレナの言葉にユウは笑いながら答えた。
「······やはり聞き間違いではないのか? ユウは勇者なのか?」
「勇者になる資格のスキルなら持ってるよ。ぼくは勇者なんてなるつもりはないんだけどね」
シャルルアの問いにユウが答えた。
シャルルアは驚いたが納得した表情だった。
「そうか······ただの冒険者にしてはあまりに強いと思ったが勇者とその従者じゃったのか。妾は女神リヴィアに助けられたというわけじゃな」
「従者······なのかしら?」
テリアもユウが勇者のスキルを持っていることは知っているが自分が勇者の従者だと思ったことはなかったようで首を傾げている。
「それにしても龍人族、それも神子様に会えるとは思わなかったわ。龍人族と人族はあまり交流がないから詳しくは知らないけど本で読んだことはあるわ」
エレナが言うには人族と龍人族はまったく交流がないわけではないがそこまで頻繁に行われてもいないらしい。
別大陸に住む種族で高い戦闘能力を持つがあまり好戦的でもないイメージだとか。
「妾も人族と、それも神子と同様の存在である聖女とこうして話すのは初めての経験じゃ」
「私はまだ聖女候補だけどね」
「なに、妾もまだ未熟な神子じゃから変わらぬわ」
シャルルアとエレナは神子と聖女ということで何やら通じるものを感じたようだ。
「「―――――!?」」
「―――――!?」
突然シャルルアとエレナ、そしてユウが同時に頭を押さえてうずくまった。
「ど、どうしたのよ一体!?」
「ユウ様ぁ!? エレエレ、シャルルン!? どうしたんですかぁ!?」
テリアとミリィが慌てて三人に駆け寄る。
後ろではリーナ達も何事かと慌てている。
しばらく頭を押さえていた三人だがすぐに異変は収まったようだ。
「エレナ、ルル······今のは」
「······神託が下ったわ」
「······妾にもじゃ」
ユウが二人に確認するように言う。
ユウ達は頭の中で何者かの声を聞いたらしい。
「神託? 神託って女神様の声を直接聞けるっていうあの······?」
テリアが言う。
普通神託というのはリヴィア教の教会や神殿の特別な部屋で聞くものらしいのだが。
「私も驚いたわ······本殿の瞑想室とかじゃなくて普通の場所で神託が下るなんて」
「内容はなんだったんですかぁ?」
ミリィが問う。
「ルルのことだったね。龍人族の国を助けてあげてほしいって聞こえたよ。そのための力も与えてくれた」
「私の聖女のスキルが試練を達成したわけでもないのにレベルが上がっているわ······」
ユウが代わりに答えた。
どうやら女神······からなのか正確にはわからないが龍人族を助けるための力を与えられたようだ。
ユウの勇者のスキルとエレナの聖女のスキルレベルが上がっていた。
「妾にも聞こえた······女神が力を貸してくれると。しかし何故女神が龍人族のためにわざわざ神託を······」
どうやらシャルルアにも聞こえたらしい。
「女神様が神託を下すなんてそれだけまずい事態だってことじゃない?」
「うん、テリアの言うとおりだと思う。女神様が神託を下したのは多分放っておいたら人族も大変なことになるからじゃないかな?」
ユウが言うように神託が下った以上もうシャルルア達龍人族だけの問題ではなくなっていた。
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「ナークヴァイティニア様! 龍人の都はすでにそのほとんどが我らの手に落ちました」
部下からの報告を満足気に受ける四本腕の魔人、ナークヴァイティニア。
「ふはははっ!! 計画も順調だな。一番厄介な龍王もすでに我が手に落ちた! 残りの龍人族共などどうにでもなる。唯一の懸念は別大陸に逃れた龍神の神子だが······今は捨て置くとしよう」
ナークヴァイティニアが勝ち誇ったように笑う。
ここは龍人の都の中心部にある龍王の城。
その玉座の間だ。
「······グ······ムッ······」
広大な玉座の間に巨大な影が呻いた。
一目では見渡せない程の巨大な龍だ。
その龍を取り囲み、数十人の魔人族の術師が結界を張り龍を抑えていた。
「ふははははっ! 龍王よ、無様なものだな。あと3日、あと3日で龍人族も終わりだ。そこでその様を見届けるのだな」
ナークヴァイティニアが巨大な杭を出現させ、玉座の間の中心に突き刺した。