勇者(候補)ユウの冒険章⑤ 2 魔人族の侵略
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龍人族の少女に続いてやってきたのは三体の魔人だった。
「あれは魔人族·····! ここまで追って来おったか!?」
龍人族の女性が言う。
三体の魔人もこちらに気付き、ユウ達のもとへ向かってきた。
「見つけたぞ、龍神の神子よ」
「手間をかけさせてくれる」
魔人達が地上に降り立ち言う。
三体の魔人達は背中に翼を生やしているのと全体的に皮膚が赤黒いのを除けば人間とそれほど変わらない容姿だ。
「くっ······こんなにも早く追ってくるとは」
女性はまだ傷が完全には癒えていないため、うまく動けないようだ。
「おとなしくした方が身のためだぞ。
ナークヴァイティニア様からは生かして連れて来いという命令だが五体満足で連れて来いとは言われていない」
魔人族の一人が魔獣の牙のような武器を突き付けて言う。
「ちょっと待ちなよ? 女の人を無理矢理連れていくのはよくないと思うけど」
ユウが女性と魔人の間に立ち言う。
事情はよくわからないが黙って見てるつもりはないようだ。
「なんだお前は?」
「人族の子供か。貴様らに用はない。死にたくなければ引っ込んでいろ」
殺気立った声で魔人達が言う。
「いきなり現れてその態度はないんじゃないの?」
「ユウ様に手を出したら許しませんよぉ!」
テリアとミリィも前に出てきた。
いつ襲いかかってきても対処できるように構えている。
「ちっ、面倒だ。殺っちまうか」
「そうだな。こんな奴らに時間をかけてられないぜ」
三体の魔人がそれぞれ武器を構えた。
話し合う気はないようだ。
「ま、待て!? この者達は関係無いっ! お前達の目的は妾じゃろう!?」
龍人族の女性はユウ達を庇うように言うが、すでに魔人達は聞く耳持っていないようだ。
「死ねぇっ!!」
魔人の一人がユウに襲いかかった。
ユウは(物質具現化)スキルで剣を作り出し応戦した。
「このっ、くらいなさい!」
テリアもスキルで弓矢を作り出し魔人に攻撃した。
しかし魔人族の硬い皮膚に弾かれてしまう。
「アクアブラストぉ!!」
ミリィが「水」属性の魔法で攻撃する。
さらにユウは剣技を放ち追い打ちをかけた。
これはさすがに効いたようだ。
「ぐっ······」
「このガキ共っ!」
魔人達が怒りにふるえている。
「こいつら結構強いわ」
「そうだね、でも倒せないほどじゃないよ」
テリアとユウは魔人と戦うのは初めてじゃない。
三体の魔人は以前戦ったバリュトアークという魔人に比べたらそれほどでもないようだ。
油断さえしなければ問題ない。
「······ユウたちはさがってて。アタシひとりでじゅうぶん······」
マティアが前に出て両手を構えた。
「なめんなっ!」
「ガキ共がっ!」
「死ねっ!」
三体の魔人が一斉に襲いかかってきた。
「デスプロージョン」
―――――――ドオォーーーーン!!!
マティアが魔法を放ち大爆発を起こした。
目の前に大きなクレーターができた。
「な、なななっ······」
直撃こそしなかったが魔人達はあまりの威力に動揺していた。
「つぎははずさない」
今のは威力を抑え、わざと直撃させなかったらしい。マティアが再び両手を構えたのを見て魔人達が怖じ気づく。
「こ、この者達······強い······」
龍人族の女性はユウ達の強さに驚いている。
「まだやるつもりかな?」
ユウが魔人達に剣を向ける。
魔人達も敵わないと悟ったようだ。
「くっ······引くぞ!」
「ガキ共······このままで済むと思うな!」
魔人達は翼を広げて飛び上がり、海の彼方に去っていった。
「すまなかった。関係無いお主達を巻き込んでしもうて······」
魔人達がいなくなり、とりあえずの危機は去って女性がユウ達に謝罪した。
「いいよ、そんなことは。それよりもまずは自己紹介からしようか? ぼくはユウって言うんだよ」
「わたしはテリアよ」
「ミリィで~す」
「······アタシはマティア」
ユウ達がそれぞれ名乗る。
「妾の名はシャルルア。龍人族の神、
龍神フェイドリュート様を崇める神子じゃ」
女性、シャルルアが改めて自己紹介をした。
「へぇ~、シャルルアか。良い名前だね。それにしても龍神フェイドリュート? なんかそっちも凄そうな名前だね」
ユウが暢気にそんな感想を漏らした。
「確か五大神とかいうやつですかねぇ?
龍神フェイドリュートはその内の一人のはずですよぉ」
ミリィが言うにはこの世界には五柱の神が存在するらしい。
〈龍人族の神〉龍神フェイドリュート。
〈魔人族の神〉魔神ディヴェード。
〈冥界の神〉 死神ファンティラドゥス。
〈獣人族の神〉獣神メライリニアフス。
そして人間界の神、女神リヴィア。
「そうじゃ。そして妾はその龍神フェイドリュート様の神子ということじゃ」
ミリィの説明に付け足してシャルルアが言った。
「神子って何よ?」
「龍神様の加護を受けるもっとも近しい存在じゃ」
テリアの問いにシャルルアが答える。
「よくわからないけどリヴィア教の聖女みたいな感じかな?」
ユウが言う。
おそらくだがあながち間違ってもいないだろう。
「で、その龍神を崇める神子が何で魔人に追われてたのよ?」
「それは······」
テリアがさらに問う。
シャルルアは答えづらそうに言う。
「······妾の故郷、龍人の都が魔人族の軍勢に攻め込まれたのじゃ。突然の強襲に妾達は防戦一方に追い込まれてしまい、妾は大陸を越えて奴等から逃れてきたのじゃ」
「魔人族が龍人族を強襲したんですかぁ?」
シャルルアの言葉にミリィが驚きの声をあげた。
「魔人族が龍人を襲うってそんなに驚くことなの、ミリィ?」
「そーですよぉ、ユウ様ぁ。龍人ってすっごく強いんですから魔人族だって簡単には手出し出来ないはずですよぉ。龍人族のトップには魔王にも匹敵する龍王がいるはずですしぃ」
ミリィは龍人についてある程度詳しいようだ。
「ということはもしかして魔王が直接攻めてきたの?」
龍王がどれほどの力を持っているかはわからないが魔王が直接攻めてきたのなら遅れを取るかもしれない。
しかしシャルルアは首を横に振った。
「魔王ではない······それよりも厄介な存在じゃ。
〝神将〟と呼ばれる魔神ディヴェード直属の手先じゃ」
「神将? 魔王よりも強いの?」
「魔王よりも魔人族の神に近い存在じゃ。力も魔王を上回るがの······」
ユウ達の想像よりもさらに厄介な存在が攻めてきたらしい。
「神将の一人、ナークヴァイティニアという者が大軍を率いて我が都を襲った。戦力を分散され、隙を突かれた形となった妾達は一方的に追い込まれ、都は魔人族の手に落ちてしまった。······為す術もなく妾はこの地に逃れてきたというわけじゃ」
シャルルアは悔しさを噛み殺すような表情で言った。
「りゅうおうは······しんだの?」
「それはわからぬが······あの方がそう簡単に死ぬはずはない!」
シャルルアがユウ達にではなく自分に言い聞かせるように言う。
「じゃあそのナークヴァイティニアという奴を倒して龍王を助ければまだ逆転出来るんだよね?」
ユウが簡単そうに言う。
「それが出来れば苦労はない············妾に神将であるナークヴァイティニアを倒す力はない」
「ぼく達が手伝おうか? そんな話を聞いたら放っておけないよ。テリアもミリィもマティアも結構強いよ」
「············」
ユウの言葉にシャルルアは考え込む。
しかしすぐに口を開いた。
「無理じゃ。お主達の力でもナークヴァイティニアは倒せぬ。先ほどの雑兵とは遥かにレベルが違うんじゃ······それに関係の無いお主達をこれ以上巻き込めぬ······」
「じゃあ、あなたこの後どうするつもりなのよ?」
「············それは······」
テリアの問いにシャルルアは口を紡ぐ。
他にアテなど無いのだろう。
「まあ今後のことは王都に戻ってからにしようよ。ルルだって怪我がまだ痛むでしょ? まずはゆっくり休まないとね」
「ル、ルル······!?」
「シャルルア、だからルルって呼んだんだけど嫌だったかな?」
「い、いや······驚いただけじゃ······妾は立場上そんな呼ばれ方をされたのは初めてじゃからのう」
「じゃあいいよね?」
「う、うむ······、悪くない······」
馴れ馴れしいユウにシャルルアは気恥ずかしそうに答えた。
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「つまり······人族の子供にいいようにやられ龍神の神子を連れて来られぬまま無様にも逃げ帰って来た······ということか?」
漆黒の鎧に漆黒の兜。全身を暗黒装備で統一している四本腕の魔人が怒りの口調で言う。
「ひっ······」
「ナ、ナークヴァイティニア様っ、お許しを······」
ユウ達にやられて逃げ帰った三体の魔人が怯えた声を出す。
「我らが神、ディヴェード様を前に恥を晒しおってっ!!! この愚か者共がっ!!!」
漆黒の魔人は目の前の空間から武器を取り出し、四本の腕それぞれに持ち構えた。
どれも相当な重量の大振りの剣だ。
「お、お許しくださ············」
――――――――!!!!!
漆黒の魔人が四本の腕を一振りしただけで、三体の魔人達はバラバラに斬り裂かれた。
「人族のガキ共が······どういうつもりかは知らぬが我を敵に回したこと心の底から後悔させてやるぞ」