勇者(候補)ユウの冒険章⑤ 1 龍人族の少女
申し訳ありませんが執筆が間に合わないためしばらく本編はお休みします。
その間は番外編をお楽しみ下さい。
――――――――(side off)―――――――――
「探せっ! この辺りに逃げたはずだ!」
「必ず見つけ出せっ! 逃したらナークヴァイティニア様の怒りを買うぞ!」
「おい、あそこだ!」
「しまった!? 別大陸に逃げるつもりだ!」
「すぐに追え! このまま逃してはならん!」
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「へ~、これが海かあ、ぼく達の町にあった湖よりもずっと大きいね。向こう岸が見えないよ」
広大な海を見てユウが言った。
「わたしも話には聞いていたけど実際に見るのは初めてだわ」
その横で幼なじみのテリアが言う。
「ミリィも初めて見ましたよぉ。本当青くてキレイですねぇ」
ミリィが普段は仕舞っている翼を広げて気持ち良さそうに言う。
「············これが、うみ······」
マティアは無表情なのでよくわからないが感動しているようにも見えた。
ユウ達は冒険者ギルドの依頼を受けて王都から離れて少し遠出をしていた。
すでに依頼は終えていて、その帰りだった。
「気持ち良さそうですねぇ、少し泳ぎたいですよぉ」
「水に濡れてもいい服がないわよ。わたしも泳ぎたい気はするけど」
ミリィとテリアが言う。
「服ならスキルで作ればいいんじゃないかな?」
「あ、そっか」
ユウの言葉にテリアが言う。
(物質具現化)スキルで作った物は魔力を込めた媒体がないと消滅してしまうが、少しの時間なら媒体無しでも問題ない。
「アタシもふくはじゆうにかえられる······」
マティアも自らの能力で服装を自由に変えられる。
そんなわけでユウ達はそれぞれ水着に着替えて海水浴を楽しむことにした。
「あははっ、いくよ!」
(物質具現化)スキルでボールを作り出して色々な遊びに興じた。
そんなこんなで四人は思い切り楽しんでいた。
「は~、たっぷり遊びましたねぇ。さすがに疲れちゃいましたよぉ」
ミリィが満足そうに言う。
「そうね、わたしも疲れたわ。······王都までの帰りが面倒ね」
テリアも口ではそう言っているが楽しんでいたようだ。
「あははっ、本当に楽しかったね。今度はエレナも連れて来たいね。マティアも楽しかったかな?」
「············」
ユウの言葉にマティアは答えず、真っ直ぐと海の向こうを見つめている。
「どーしたですかぁ、マーティ?」
ミリィがマティアに問う。
「············あれ」
表情を変えずにマティアが海の向こうを指差す。
はるか海の向こうから微妙に黒い点が見えて、だんだん近付いて来ているように見える。
「何かしら······まさか魔物?」
テリアが警戒する。
黒い点はどんどん近付いてきて大きな影となっていた。
「もしかして竜じゃないかな、アレ」
肉眼ではっきり姿が見えるくらいまで来ていた。
ユウの言うとおり竜だ。
ドラゴンと呼ばれる魔物の中でも上位のものだ。
竜は真っ直ぐにユウ達の方へ向かってきた。
「来るわっ!!」
テリアが臨戦態勢に入った。
竜が舞い降り、海辺の砂が舞い上がる。
「クルルル······」
ユウ達のすぐ近くに竜が降り立つ。
全身が輝く白銀の竜だ。
しかし大きさはそれほどではなくユウ達よりも少し大きいくらいだった。
「思ったより小さい竜ですねぇ。まだ子供みたいですよぉ」
ミリィの言う通り幼さを感じる竜だ。
――――――ピチャッ、ピチャッ
竜の身体から何かの液体が垂れ落ちている。
「気を付けて、あの竜様子がおかしいわ!」
テリアが(物質具現化)で弓矢を作り出して構えた。
「待ってテリア、あの竜ひょっとしたら······」
ユウが何かに気付きテリアを止めた。
「きずだらけ······あのりゅう······よわってる」
マティアが言う。
その言葉通り竜はよく見ると全身傷だらけだった。
垂れていた液体は竜の血だった。
「クアアア······」
弱々しい声をあげて竜は砂浜に倒れ込んだ。
すると竜の身体が光り出した。
「今度は何!?」
再びテリアが警戒する。
竜の身体からまばゆい光が放たれ直視出来なくなる。しかし次の瞬間、光は消えて竜は人間の女性の姿に変わっていた。
「女の子?」
その姿を見てユウが言う。
竜から姿を変えた女性は衣服を身につけておらず、全身傷だらけで気を失っていた。
「このコ、もしかして龍人族じゃないですかぁ?」
「ユ、ユウは見ちゃ駄目よ!」
ミリィがそうつぶやき、テリアは慌ててユウの両目を塞いだ。
砂浜に簡易テントとベッドを作り、ユウ達は女性の手当てをした。
女性の傷はあまり深くなく、下級ポーションでも充分回復できるくらいだった。
「結局何者かしら、このコ?」
傷の手当てをしたが女性はまだ目を覚まさない。
「ミリィ、さっきこの子を見て龍人族とか言ってたよね? どんな種族なの?」
「はいユウ様ぁ、このコは人と竜の二つの姿を持つ龍人族だと思いますよぉ。高い戦闘能力を持つ種族として有名ですねぇ」
ユウの質問にミリィが答えた。
龍人族は獣人族の(獣化)スキルと同じような(竜化)スキルを持っていて人から竜の姿に変わることができるらしい。
「······てきじゃないの?」
「そこまではわかりませんけどぉ」
マティアの問いにはミリィも答えられない。
「悪い子には見えないよ」
「見た目だけじゃわからないでしょ、ユウ」
ユウとテリアが言う。
人の姿になった女性は顔立ちの整ったユウ達と同じくらいの見た目の可愛らしい容姿だ。
髪は眩しいくらいの長い銀髪。
両耳の上には垂れるような形のツノが生えていた。
「う············くっ······」
女性が小さく呻き、ゆっくり目を開けた。
「あ、目が覚めたみたいだね」
ユウが言う。
テリアとミリィがその横で女性がいきなり襲ってきても対処できるように警戒している。
「······!? な、何者じゃ、お主らはっ! うぐっ······」
ユウ達に気付いて女性は飛び起き、立ち上がった。
しかし傷がまだ痛むようで呻き声をあげた。
「急に動かない方がいいよ? 酷い傷だったんだから」
「大体、何者はこっちのセリフよ」
ユウが女性にやさしく言い、テリアが呆れたようにつぶやいた。
「······魔人族ではない? 人族か······そ、そうじゃった、妾は大陸を越えて······」
「魔人族? 一体何の話よ?」
女性の言葉にテリアが首を傾げる。
「あ~、その前にさ、とりあえず何か着た方がいいと思うよ?」
「え······?」
ユウの言葉を聞いて女性が自分の身体を確かめた。
女性は立ち上がった時に被せてあったシーツが取れてしまったため何も身につけていない、全裸だった。
「ひ······ひゃあああっ!!? は、ハレンチじゃっ············っ! 妾はまだ乙女じゃと言うのにっ······!」
自分の姿に気付いて女性が叫び声をあげた。
「ふくをきないとなにかもんだいがあるの······?」
女性が何故叫んだのか理解できていないマティアが首を傾げていた。
「そ、そうじゃった·······竜形態に変化した時に破れてしもうたのじゃった······。妾はもう汚れてしまったのか······?」
涙目になりながら女性が項垂れた。
「しょうがないわね······わたしの服を貸してあげるわよ」
女性が可哀想になりテリアがそう言った。
「ええいっ、気遣いは無用じゃ! 着物くらいちゃんと持っておるわ!」
女性が目の前の空間から服を取り出して素早く身につけた。
どうやら収納魔法で服を取り出したようだ。
「へ~、収納魔法を使えるんだ」
それを見てユウが言う。
「これで問題なかろう!」
女性がビシッと言う。
露出が少なめの着物を身につけていた。
派手さはないが見惚れるような銀髪をなびかせ高貴な雰囲気を出している。
「それで、結局アンタは何者なのよ?」
改めてテリアが問う。
「うむ、妾の名はシャルルア。龍人族の神、
龍神フェイド······」
「待ってくださいっ、また何か来ますよぉ!?」
女性が気を取り直して自己紹介をしようとしたが海の向こうから何かが近付いて来てるのにミリィが気付き声をあげた。
今度は竜ではなく、翼を生やした三体の人型の魔人だった。