230 迷宮調査中のハプニング
神樹の迷宮の調査を開始した。
入り口付近に出てくる魔物はレベル10~20くらいの蟲系ばかりだ。
人間サイズの虫は気持ち悪いがたいした強さではない。
1層1層がそれほど広くはないためあまり時間をかけずに5階層まで上がった。
魔物も強くてもレベル30くらいだったし今の所問題はないな。
転移魔法も使えるみたいだし、いつでも脱出は可能だ。
まあまだ最初の方だし魔物もそれほど強くなくて当然だろう。
けど学園地下迷宮みたいに場違いな強敵が出てくる可能性もある。
油断せずに気を引き締めていこう。
「レイ、ユヅキ。新たな魔物のようだぞ」
アイラ姉が立ち止まり言う。
オレ達の前に大型の木のような魔物が現れた。
[エルダートレント]
木の姿に擬態した魔物の上位種のようだ。
レベルは55。それなりに強い魔物だな。
しかし大樹の中に木の魔物って逆に違和感がある気がするのはオレだけだろうか?
どうでもいいことだが。
おそらく「炎」属性に弱いだろうけど迷宮とはいえ神樹の中で炎系の魔法はさすがにヤバいかな?
まあこの程度の魔物なら弱点を突くまでもないか。
ユヅキが素早く動き、小太刀で魔物をバラバラに斬り裂いた。
「こんな程度なら遅れは取らないぜ」
ユヅキが得意気に言った。
だが休む間もなくエルダートレントが次々と床から這い出るように現れた。
オレとアイラ姉も加勢して魔物を切り刻む。
すべて倒したら新たに現れる気配はなくなった。
魔物を全滅させたオレ達は先に進んでいく。
特に今までの迷宮と大きな違いはないようだな。
その後も問題なく進み、10階層まで着いた。
かなり大きなフロアが一つあるだけの階層だ。
今までのパターンだと中ボスが出てきそうだな。
――――――――!!!!!
フロアの中央に所々に穴がある大きな岩の塊のようなものがあり、その穴から無数の蜂の魔物が出てきた。
どうやらこの塊は蜂の巣みたいだな。
レベルは20〜30くらいか。
異世界に来たばかりの頃に蜂の巣退治をしたことがあるが、この蜂はその時のヤツよりも上位種みたいだ。
「げっ、ブラストキラービーの群れかよ。こいつら強力な酸を撒き散らすから注意した方がいいぜ」
ユヅキがそう警告してくれた。
確かにコイツらのスキルに(強酸)がある。
(猛毒)や(麻痺)に(腐蝕)まで持ってるからかなり危険な奴らだな。
前に退治した時みたいに殺虫スプレーがあればよかったんだが残念ながら持ち合わせがない。
普通に戦うしかないか。
「真空斬っ!!」
アイラ姉が剣技を放った。
「風」属性を纏った斬撃が蜂達に向かって飛んでいく。
······「風」属性か。これなら周囲の被害もあまり出ないかな。
「アイラ姉、ユヅキ! 少し離れて!
高貴なる風の大精霊!!!」
オレは蜂の巣に向けて「風」の最上級魔法を放った。真空の刃と化した荒れ狂う風が大型の蜂の巣を切り刻む。
周囲にいた蜂も一緒に切り刻んでいったので、外に出ていた蜂は全滅した。
「ギシャアアアッ!!!」
蜂の巣の残骸から一際大きな蜂の魔物が出てきた。
[ブラストクイーンビー] レベル95
〈体力〉8250/9430
〈力〉1020〈敏捷〉2890〈魔力〉0
〈スキル〉
(激強酸)(猛毒)(腐蝕)(麻痺)
(女王の波動)
やはり女王蜂か。
他の蜂に比べてレベルもステータスも高くスキルも(強酸)ではなく(激強酸)になっている。
それと初めて見るスキルもあるな。
(女王の波動)
目に見える範囲にいる眷属1体につき5%全ステータスがアップする。
(王の波動)に似た名前だがこれは自身のみをパワーアップさせるスキルみたいだな。
眷属というと手下の蜂のことだろう。
あんな数の蜂1体につき5%アップはなかなかに脅威だ。
だがすでにコイツ以外の蜂は全滅しているためスキルの力を発揮できないようだ。
素のステータスもそこそこ高いがオレ達の敵じゃないな。
「ギシャアアアッ!!!」
女王蜂が飛び上がり口を大きく開けて(激強酸)を撒き散らした。
雨のように(激強酸)が降りそそぐ。
「ユヅキ! オレの後ろに!」
「お、おいっ······レイ!?」
オレとアイラ姉は耐性があるから浴びても平気だがユヅキは危険だろう。
オレはユヅキの前に立ち防御魔法で酸の雨を防いだ。
―――――――!!!
まだ数匹蜂が生き残っていたらしく巣の残骸からブラストキラービーが飛び出してきた。
ブラストキラービー達が猛毒の針や強酸を飛ばしてきた。
「エアスラスト!」
オレは「風」魔法で蜂を切り刻んだ。
探知魔法でも、もう反応はない。
これで雑魚は今度こそ全滅したようだ。
「これで終わりだ!」
女王蜂もアイラ姉が倒し、これでこのフロアから完全に魔物の気配はなくなった。
「怪我はないか? ユヅ······」
そう言って振り返ると思わず言葉が詰まってしまった。先ほどの蜂の強酸を少し浴びたようでユヅキの服が所々溶けていた。
ユヅキは男なんだが見た目は女の子にしか見えないだけに今の姿は色々とアレな状態だ。
ユヅキ自身に怪我はないようだが。
ちなみにオレにも少しかかっていたが以前の教訓から服は酸にも強い素材にしているため問題はない。
「な、なんだよレイ!? あんまりジロジロ見るなよ」
両手で恥じらいながら露出した部分を隠す仕草も女の子みたいだ。
ジロジロ見てた覚えはないが目のやり場に困るのでユヅキにオレの上着を被せた。
「とりあえず今日の調査はこれくらいにして一度戻るとするか」
アイラ姉の言葉にオレ達は頷いた。
区切りもいいし、最初の調査はこれくらいでいいだろう。
オレ達は転移魔法で迷宮から脱出した。
オレはこの時、迷宮から出たらさらに大きなハプニングが待ち受けていることを知らなかった。