226 神樹の異変?
「くかかっ、さすがはマスター達じゃな。先代勇者も倒せなかった魔獣を倒してしまうとは」
封印されていた魔獣リュベネイタルを倒したことをエンジェが祝福(?)してくれた。
オレ達の勝利を疑っていなかったという感じだな。
「さすが師匠にアイラ殿でござる! 拙者まだまだ修行不足だと痛感したでござるよ」
倒し方さえわかっていればシノブも充分倒せたと思うぞ。
シノブのレベルは今ので800を超えたな。
重傷を負っていた人達もシノブのポーションですっかり回復していた。
「ありがとう、おかげで里は救われたわ。それにしてもあなた達がここまで強かったとは正直思わなかったわよ」
フウゲツさんもそう声をかけてきた。
ゲンライさんとフウゲツさんは疲労が残っていそうだが特に問題はなさそうだな。
「··················うぐっ······」
リュベネイタルが消滅した場所から呻き声のようなものが聞こえてきたので振り返った。
そこには全身が黒く染まった男が倒れていた。
人間に見えなくもないが雰囲気が少し人とは違う気がする。
コイツが里に攻めてきた魔人なのかな?
「あら、生きていたのね······」
フウゲツさんが警戒して構えた。
オレやアイラ姉、他のみんなも何が起きてもいいように身構える。
まあ鑑定で見るまでもなく瀕死状態のようだが。
[ガスト] レベル105
〈体力〉67/12600
〈力〉780〈敏捷〉820〈魔力〉950
〈スキル〉
――――――――――――――――
そこそこ高いレベルだが里を襲っていた魔物とたいして変わらないな。
ステータスもレベルの割には低い方な気がする。
スキル欄はまるで消失したかのように塗り潰されていた。
倒れていた男が目を覚まし、頭を抑えながら周囲を見回した。
「············何が起きた? 何故······俺は生きている······」
どうやら状況を把握できていないようだ。
「お目覚めかしら? 生きていたのなら都合がいいわね。貴方には色々と尋問したいと思っていたのよ」
フウゲツさんが前に出て男に言う。
なんだかフウゲツさんの雰囲気が少し怖い······。
「······まさか古の魔獣を再封印したのか? 勇者も聖女の助けもなくそんなことが······」
「違うわ、倒したのよ。もうあの魔物は完全に消滅したわ」
「バカな······そんなことできるわけ······」
「貴方が生きているのが何よりの証じゃなくて?」
フウゲツさんの言葉に男が押し黙る。
しばらく何か考えを頭の中で巡らせていたようだがやがて諦めたように薄く笑みをうかべた。
「ふっ······ならば殺せ。古の魔獣を失った今俺に為す術はない。尋問した所で俺はおそらく貴様らの欲しがる情報は持っていない。俺は今の魔王軍とは無関係だからな」
「あら、じゃあ貴方は当時の生き残りなわけね」
今の魔王軍?
会話の内容から察するにこの魔人は先代勇者が倒したという当時の魔王の部下ということかな?
今の魔王と当時の魔王は別物なのか?
魔王は複数いるっぽいことを前に聞いたし別に不思議ではないか。
色々と聞いてみたいが素直に話すとは思えないし、それに強がっているがコイツは瀕死でとても尋問できる状態じゃない。
回復したゲンライさんの護衛の人達が魔人を拘束して里まで連れて行った。
尋問するのは時間を置いてからの方がいいだろう。
「改めてお礼を言わせてもらうわね。レイ君、
アイラさん。そしてエンシェントジェリー様」
フウゲツさんが改まってオレ達に頭を下げた。
それにしてもエンシェントジェリー様か。
過去にフウゲツさん達と何があったのかな?
ゲンライさんがエンジェを恐れているような雰囲気が気になるんだが。
「今のワシはエンジェという名を与えられたマスターの従僕じゃ。ワシを呼ぶ時はエンジェと呼ぶが良い」
「マスター······レイ君がエンシェントジェ······
エンジェ様の?」
フウゲツさんが疑問に思っていたのでオレはエンジェにマスターと呼ばれるようになった経緯を説明した。
「勇者の試練に打ち勝って······やっぱりレイ君は勇者なんじゃないの?」
「いや、オレは勇者のスキルを持ってないから違うと思うよ」
自分で言うのもなんだが勇者のスキルを持ってないだけでやってることは勇者と変わらない気がしてきた。
「積もる話もあるじゃろうがそれよりも神樹をどうにかした方が良いと思うぞ? 古の魔獣の封印を無理に解いたことでかなり消耗しておるようじゃ」
エンジェがそう言ったので改めて神樹を見上げてみた。近くで見るとてっぺんが見えないくらい巨大な樹だ。
葉も生い茂り一見生命力に満ち溢れているようだが、エンジェの言う通りよく見ると所々枯れかけていた。
どうにかすると言ってもどうしたらいいんだ?
水や肥料でも与えればいいのか?
「魔力を与えてやれば良い。並の魔導師なら何百人分もの魔力が必要じゃが我がマスターならば一人で充分じゃろ」
「······エンジェ様、いくらなんでもたった一人で神樹を潤わせる程の魔力を注ぐのは無茶ですよ」
エンジェの言葉にフウゲツさんは難色を示した。
オレの魔力は確かに有り余っているがこんな何百メートル級の大樹を潤わせることができるかと言われると即答できない。
「レイさんなら大丈夫だと思いますよ」
「わ、わたしもレイ君ならできると思う」
「······ん、ご主人様に不可能はない」
ミール、エイミ、スミレがそれぞれ言った。
信頼されているのは嬉しいがオレは何でもできるわけじゃないぞ。
まあ試してみるが。
魔力を注ぐってどうすればいいんだ?
回復魔法を使う感じで魔力を集中すればいいのかな? オレは神樹に手を当てて魔力を集中してみた。
――――――――!!!
うおっ!? なんか一気に力を吸われたような感覚に襲われた。
神樹がオレの魔力を吸収しているようだ。
オレは魔力の自然回復速度が早く、吸われると同時に回復もしている。
それでも吸われるスピードの方が僅かに早いが。
「信じられない······神樹が······」
フウゲツさんが驚きの声をあげる。
神樹の枯れかけていた部分は生命力を取り戻し、みるみる力に溢れていっていた。
枝の至るところに大きな実が成っていた。
あれが神樹の実ってやつかな?
もう魔力を送るのをやめてもいいだろう。
さすがに少し疲れた感覚だ。
「くかかっ、さすがは我がマスターじゃ」
今日二度目のエンジェの称賛をもらった。
「フム、あれが神樹の実か」
「大きな実でござるな」
アイラ姉とシノブが言う。
神樹の実は一つ一つがバスケットボールくらいの大きさがあった。
赤や緑や黄色やそれぞれカラフルな色をしている。
―――――――!!!!!
成っている実に目を向けていたら突然神樹が大きく振動し出した。
振動が収まると神樹の幹の一部分に穴が開いていた。何か失敗したかオレ?
「······これは迷宮の入り口じゃな。どうやら神樹が迷宮化したようじゃ」
一難去ってまた一難······か?
どうやら新たな問題の発生のようだ。