224 無敵の魔獣の攻略法
「となると魔人族の目的は神樹に封印された
古の魔獣の復活かもしれぬな。先代勇者も手を焼いた最悪な魔物じゃ」
「一体どんな魔物なんだ? エンジェ」
冥王以上とは思えないがエンジェの口調から相当に厄介そうな感じだ。
「トロールやサイクロプス以上の巨体を持ち、力も魔力も並外れた魔物じゃ。じゃがもっとも恐ろしいのはこちらの攻撃が一切通用しないことじゃな」
「一切通用しない?」
「勇者の聖剣も聖女や仲間の魔導師の魔法も何もかも通用しないヤツじゃったな」
なんだよそれ?
つまり物理系も魔法系の攻撃も無効化するような魔物なのか?
それが本当なら確かに厄介だな。
よくそんなヤツを封印できたものだ。
こちらの攻撃をすべて無効化する魔物。
ゲームとかならたまに見るタイプだが。
そういう魔物は一見無敵だが必ず攻略法は存在する。
たとえば攻撃が通用しないなら自滅を誘って倒すとか、もしくは何もかも通用しないように見えて特定の属性攻撃のみ通用するとか。
まあ見てみないことにはわからないが。
もしそんな魔物が現れていたらシノブ達でもヤバいかもしれな············。
―――――レイさん、今大丈夫ですか?
そう思っていた所にミールの念話が入った。
今まさに話していた古の魔獣が復活し、ゲンライさんやフウゲツさん達と力を合わせて交戦中らしい。
―――――シノブさんが(スキルスティール)で巨大獣のスキルを奪うつもりです。ワタシ達はその援護をします。
なるほど、スキルを奪ってしまえば攻撃が通用するようになるかもな。
かなり苦戦しているらしくミールは戦いに集中するために念話を切った。
「今のは念話とやらか? 何と言っていたのだ?」
「ああ、どうやら今エンジェが言っていた魔物が復活したみたいだよ」
アイラ姉に問われオレはミールから聞いた報告を話した。
いくら攻撃が通用しないとはいえミール達でも苦戦するということは古の魔獣とやらはかなりの高レベルらしいな。
「ならば悠長にしていられないな。私達も神樹の元に向かうぞ」
「くかかっ、ならワシもついていかせてもらおうかの」
アイラ姉とエンジェが言う。
もうクラントールは心配いらないだろう。
後始末はディリーやアトリ達に任せよう。
オレ達は転移魔法で、幻獣人族の里へ戻った。
幻獣人族の里の長の屋敷の前まで転移した。
里は建物や畑などは酷い有り様だったが魔物は倒し終えていたようで住人は後始末をしていた。
見たところ里の中の騒動は収まっているようだな。
「あれが神樹とやらか? 前はここからでは見えなかったはずだが」
アイラ姉の視線の先に巨大な大樹が見えた。
何百メートルあるかわからない巨大な樹だ。
結界で存在を隠しているはずだが認識できるということはそれだけ異常事態なのかも。
あれだけ巨大な樹なら気付かなかったけどクラントールからでも見えてたかもしれないな。
「急ぐぞ! レイ、エンジェ!」
「ああ、わかってるアイラ姉!」
「やれやれ、ここに来るのは久しぶりじゃと言うのに感傷に浸る暇もないのう」
アイラ姉を先頭に神樹の元に向かう。
······ん? エンジェは今ここに来るのは久しぶりと言ったか?
確か幻獣人族の里には入ったことないんじゃなかったか?
まあそんなことはいいか。
MAPで見るまでもなく神樹は肉眼で確認できるので最短距離で急いだ。
神樹の元に近付くにつれて激しい戦闘音が聞こえてきた。遠目から戦闘の様子が見えた。
「―――――――ッッッ!!!!!」
巨大な魔物がとんでもない魔力を集めていた。
あれが封印されていた魔獣とやらか。
魔物の前には(幻獣化)したフウゲツさんと······あの黒い体毛の獅子の獣人はひょっとしてゲンライさんかな?
その後ろにスミレ、エイミ、ミール、シノブの姿もある。
ユヅキやゲンライさんの護衛達は離れた場所で倒れている。
死んではいないようだが危険な感じだ。
――――――――――!!!!!
魔物が集めた魔力を解き放ったのでオレ達は咄嗟に前に出て相殺した。
「ふう、なんとか間に合ったな」
「フム、あれが例の封印されていた魔獣か」
「やはり封印が解かれていたようじゃな」
結構ギリギリだったな。まあ間に合ってよかった。
今のはかなりの威力だったし、よく見たらフウゲツさんもゲンライさんも満身創痍だ。
それにしてもコイツが例の魔獣か。
リュベネイタル······スキルに(物理無効)と
(魔法無効)、それに(状態異常耐性〈極〉)がある。あらゆる攻撃が通用しないのも納得だな。
それに(魔神の加護〈小〉)とかいう鑑定できないものまで持っていた。
ステータスも弱体化していた冥王と同等だ。
冥王と戦う前に出会っていたらヤバかったかもしれないな。
今のオレやアイラ姉ならステータスならば上回っている。
なら奴のスキルをどうやって突破するか考えるだけだな。
「レイ君、アイラさん······あなた達も来てくれたのね。······それにそちらの方は」
フウゲツさんの(幻獣化)が解けて人の姿に戻っていた。
どうやら力を酷使し過ぎたようだ。
かなり疲労している様子だ。
いや、それよりも大型の九尾の狐の姿から元に戻ったせいでフウゲツさんの服が直視できない状態になっている。
オレはアイテムボックスから大きめの上着を取り出してフウゲツさんに渡した。
「エ、エ······エンシェントジェリー······!!?」
ゲンライさんがエンジェを見て怯えを含んだような声を出した。
エンジェのことを知っていたのか?
「くかかっ、お主はあの時の無礼な青年か? ずいぶん老け込んだのう。ということはそっちは獣神に仕える神子か」
よくわからないが過去にエンジェとフウゲツさん達の間で何かあったのかな?
気になるが今はそのことを聞いている場合じゃない。
「――――――ッ!!!」
巨大な魔物、リュベネイタルが耳がキーンとなるような声をあげた。
ゆっくり話をするのはコイツを倒してからだな。
「くかかっ、ここはワシとマスター達に任せて下がるがよい。見た所もう戦うこともままならぬほど消耗しているじゃろう?」
エンジェの言う通りフウゲツさん達の体力はもう尽きかけている。
「エンシェントジェリー様······わかりました。レイ君、アイラさん、申し訳ないのだけどあなた達に任せるわ。私達の里を守ってちょうだい」
「ウム、任されたぞフウゲツ殿。シノブ、ユヅキ達重傷者を回復させ安全な場所に運べ!」
「了解したでござるアイラ殿!」
フウゲツさんの言葉にアイラ姉が応じた。
オレも異論はない。
言われなくてもそのつもりだ。
「スミレ、エイミ、ミール! シノブと一緒にユヅキやフウゲツさん達を安全な場所に!」
「······ん、わかった」
「き、気をつけてね、レイ君!」
「皆さんのことは任せてください」
みんなの安全はミール達に任せて大丈夫だろう。
これでオレ達はあの魔物に集中できる。
オレは魔剣ヴィオランテではなく聖剣エルセヴィオを取り出し構えた。
手加減は無用だ。
自重無しで一気に倒してしまおう。
誤字報告ありがとうございます。
指摘を受けた箇所は修正させていただきました。