220 神樹に封印された魔獣
(ユヅキside)
シノブにエイミ、ミールの手助けもあり里を襲った魔物はほぼ殲滅できた。
「助かったぜ、お嬢さん達」
「結界の外の種族はこんなにも強いんだな」
最初に里の外から客人を招くと言った時はみんな戸惑いの方が強かった様子だったけど今じゃ歓迎ムードだな。
けど外の種族が強いんじゃなくてシノブ達が異常なんだと思うぜ?
「これで魔物は殲滅できたでござるな」
シノブが言う。
里の仲間が魔物との戦いで何人か負傷していたがシノブの渡してくれた薬で回復した。
おかげで人的被害はまったくない。
建物や畑なんかはかなり荒らされてるけどな。
これくらいならたいした問題じゃない。
「レイ君とアイラさんの方は大丈夫かな?」
「レイさん達なら心配いらないでしょう。クラントールにはエンジェさん達もいましたし住人の避難もうまくやってるんじゃないでしょうか」
エイミとミールが言う。
ま、ミールが言うようにレイ達なら心配いらないだろうな。
「······お爺ちゃん達とお婆ちゃ······フウゲツお姉ちゃんはまだ戦ってるみたい」
スミレの言うようにまだ神樹のある方角からは戦闘音が聞こえてくる。
長やフウゲツ姐さんなら心配いらないと思うんだが。
―――――――――!!!
かなり派手な音が響いてきた。
まさか長達が苦戦してるのか?
「巨大な木······あれが神樹でござるか?」
天まで届きそうな巨大な大樹。
ここからでも神樹の姿が見えるようになっていた。
神樹は里を覆う結界よりもさらに強力なもので隠されているはずなんだが······神樹の力が弱まっているのか?
「······嫌な予感がする」
「あっ······スミレ!? 待てよ、おい」
おれが止めるのも聞かずにスミレが神樹の元に走っていった。
けどスミレがつぶやいたようにおれも嫌な予感がしていた。
「スミレ殿! ······どうするでござるかユヅキ殿?」
シノブが追っていいのかおれに問いかけてきた。
神樹には里でも限られた者しか近付けない掟だが······。
スミレがそんなこと気にするはずないし緊急事態だ。
おれ達もスミレを追いかけて神樹の元に向かった。
(フウゲツside)
「ク······クハハハッ······予定とは違ったがこれで目的を果たせる······」
ゲンライに追い詰められ満身創痍の魔人が神樹に手をかける。
何をするつもり?
何を企んでいるかは知らないけど黙って見てるつもりはないわよ。
「エアスラッシュ!」
私は「風」魔法で魔人を切り刻んだ。
あまり強力な魔法だと神樹を傷付けるかもしれないから初級魔法を使った。
初級魔法といってもたっぷり魔力を込めているからそれなりに威力はあるわよ。
魔人は避けることも出来ずに全身を切り裂かれていた。いえ、避けることが出来なかったんじゃなくて避けなかったように見えたわ。
魔人の身体から大量の血が流れる。
「クハハハッ······聞こえるぞ。神樹に封印された魔獣の鼓動が······」
封印された魔獣······かつての勇者が封印したあの魔物のこと?
もしかしてコイツの目的は魔物の封印を解くことなの?
魔人から流れた血が地面に溶け込み神樹の根を蝕んでいく。
これは······まずい雰囲気ね。
「そうはさせぬぞっ、魔人族!」
ゲンライも異様な雰囲気を感じ、魔人を止めるべく動いた。
「バカ······め、もう遅いわっ!」
神樹の根が魔人を守るように突き出しゲンライの攻撃を防いだ。
巨大な神樹の一部が剥がれるように切り離される。
「さあ古の魔獣よ! 俺の肉体と魔力を糧に再びこの地に舞い戻れ!」
切り離された神樹の一部が魔人を包むように取り込んでいく。
このままじゃ本当にまずいわね。
「ノーブル·シルフィスフィア!!」
私は手加減無しで「風」の最上級魔法を放った。
周囲の被害がどうとか言っていられないわ。
あの魔物が復活したら大変なことになる。
「「「全員フウゲツ様に続け!」」」
ゲンライの護衛達も私に合わせて魔法を放った。
これだけの魔法、直撃すればたとえ魔王であっても無事には済まないはずよ。
―――――――!!!
私達の魔法が直撃と同時に消滅した。
魔人を取り込んだ神樹の一部は無傷だった。
「もう遅い······と言ったはずだ。さあ······目覚めろ。魔獣リュベネイタル······」
神樹の一部は魔人を完全に取り込んだ。
コイツ······初めから自分自身を生け贄にするつもりだったの?
いえ、そんなことはどうでもいいわ。
多くの上位の魔物を吸収した魔人。
そしてその魔人をさらに取り込んだ神樹の一部。
とてつもない力が集まり封印を解き放ってしまった。
―――――――ズズズッ······
魔人を取り込んだ神樹の一部が形を変えて巨大化していく。
大型の魔物よりもさらに一回り巨大な姿となった。
「―――――――ッッッ!!!」
神樹の一部は魔物となり凄まじい咆哮をあげた。
当時の魔王の置き土産。
かつての勇者でも倒せなかった魔物が復活してしまった。