216 正義の行い(※)
※(注)変態男が登場します。
(マレットside)
わたくしは誇り高きライランクス家の長女です。だというのにわたくしは先日、恥知らずなことをしてしまいました。
いくら相手の無礼な態度によって頭に血が上っていたとはいえ粗暴な男達を差し向けての実力行使なんて誇り高き者のすることではありませんわ。
冷静になったら如何に愚かな行為だったか······恥ずかしいですわ。
無様にも返り討ちに合ってしまいましたが結果的にはよかったのかもしれませんわね。
あのままではライランクス家の名を地に落としていたかもしれませんわ。
しかし······あの魅力的で素晴らしい果実を作った家の主人、レイさんと言いましたわね。
あの方を思い出すと胸が熱くなるように感じますわ。男前な方でしたけど男性を見てこんな気持ちになるのは初めてですわ。
何故でしょうか?
夢の中で出てきたあの男と彼が重なってしまうのは······いえ、あれは夢なのですから思い出してはいけませんわ。
夢の中とはいえ男性経験のないわたくしがあのような目に合うなんて······わたくし、欲求不満なのかしら?
ともかく、迷惑をかけてしまったのですから今日は謝罪に赴くことにしましょう。
そう思い彼らの住む地区に向かおうとしたら何やら周りが騒がしいですわね。
一体何が············?
「「「グオオアアッ!!!」」」
恐ろしい叫び声が聞こえてきました。
あれは魔物!?
大型の魔物が何体も見えましたわ!
町が魔物に襲われていますの!?
「な、なんだ!?」「何が起きてる!?」
「に······逃げろぉーーっ!?」
周囲は阿鼻叫喚の地獄絵図ですわ······。
建物は破壊され、人々が逃げ惑っていますわ。
衛兵達は何をしていますの!?
よく見ると魔物と戦うでもなく市民に混じって逃げ惑う姿がみえましたわ。
「何をしていますの!? わたくし達を守るべき貴方達が逃げてどうするんですの!?」
わたくしは周囲の衛兵達を叱責しましたが、彼らは怯えた顔をするだけでした。
「も、もうこの町はおしまいだ······!」
「俺は逃げるぞっ!? こんな所で死にたくない!」
そう言って彼らはわたくしを突き飛ばしていきましたわ。
「お、お待ちなさい!? わたくしを見捨てる気ですの!?」
わたくしの声も届かず彼らはそのまま走り去ってしまいました。
痛っ······今ので足をひねってしまいうまく立ち上がれな······。
「グオオアアッ!!」
「ひぃっ!? いやあああっ!!」
魔物がわたくしの目の前まで迫っていました。
逃げられない!?
わたくしは恐怖のあまり目を閉じましたわ。
「ゲギャアアッ!!?」
魔物の叫び声が聞こえたと思いましたらすごい地響きが起きました。
何が起きましたの······?
わたくしはおそるおそる目を開けました。
「大丈夫ですか? お嬢さん」
············!!!!?
目の前にほとんど裸の格好をした黒い仮面の男性がいました。
わたくしに襲いかかってきた魔物は向こうに倒れています。
どうやらこの方が助けてくれたみたいですわ······
というかこの男性、先日わたくしの夢に出てきた······いえ、まさか夢ではなかったのですか?
つまりアレも夢ではなく······。
「どうしましたか······おや、足を怪我をされていたのですか」
「い、いえっ!? これくらいたいしたことありませんわ!」
先ほど足をひねってしまいうまく動かせないことに気付かれたみたいです。
「これで怪我を癒されると良いでしょう」
仮面の男性はそう言ってポーションを差し出してきました。
考える間もなく受け取ってしまいましたが······今、下着の中から出されたような······。
「「ゴオオアアッ!!!」」
周囲の魔物が集まってきました。
わたくしと仮面の男性は取り囲まれてしまいます。
「ここは危険ですね。安全な所までお連れしましょう。ちょっとばかし失礼を」
「えっ············きゃっ!?」
そう言うと仮面の男性はわたくしを優しく持ち上げ抱きかかえました。
ち、近いっ、近いですわ!?
男性に触れる経験もろくにないわたくしには刺激が強すぎますわよ!?
「さあ、しっかり私に捕まっていてください」
「え、ええっ!? ちょっと待っ······」
「「ゴオオアアッ!!!」」
混乱するわたくしでしたが魔物は待ってくれるはずもなく襲いかかってきました。
仮面の男性はわたくしを抱えて魔物の攻撃を回避しましたわ。
「さあ、行きますよ!」
「は、はいっ······!!」
わたくしは全力で仮面の男性にしがみつきました。仮面の男性は下着一枚で服は着ていません······。
なのでわたくしは男性の身体、肉体に直接触れています。
これが男性の······なんてたくましく心強いのでしょうか。
魔物達の攻撃を回避しながらわたくしを安全な場所まで連れて行ってくれました。
多くの人達が避難している広場まで着きました。
この辺りはまだ魔物は攻めてきていないみたいです。周りの人達はわたくしと仮面の男性の登場に驚いていますわ。
「な、なんだあの男は!?」
「いや、それよりも······」
「マレット!? 無事だったか······!」
避難している人達の中にお父様の姿がありました。
わたくしを見て駆け寄ってきます。
「ここなら安全でしょう。さあ降ろしますよ」
そう言って仮面の男性は優しくわたくしを降ろしてくれました。
ああ······あのたくましい男性の身体。
もっと触れていたかったですわ······。
「あ、ありがとうございます······ですが、貴方は一体何者なのですか?」
「私の名は正義の仮面。正義の行いをする者です。では私は残りの魔物を倒してきますので失礼します」
仮面の男性はそう言ってこの場を去っていきました。
正義の仮面······。
なんて男らしい素敵な方なのでしょうか。
わたくしの胸は熱く高鳴っていました。