215 クラントール貴族地区にて
一般地区はエンジェ達と冒険者達に任せてオレとアイラ姉は貴族の住む地区に向かった。
一般地区に比べて貴族地区は立派な建物が立ち並んでいたが魔物によってほとんど破壊されてしまっていた。
探知魔法で見る限りまだ犠牲者は出ていないようだが、このままだと時間の問題だろう。
「レイ、私はあちらに向かう。そっち方面の魔物は任せたぞ」
「ああ、わかった。アイラ姉」
貴族地区はそれなりに広いので二手に別れて魔物を倒すことにした。
「ガアアアッ!!」
「きゃあああっ!?」
大型の魔物に襲われている貴族っぽい人が目に入ったので、オレは剣で斬り伏せて魔物を倒した。
ちなみにオレが今使っている剣は聖剣エルセヴィオではなく、つい先日ドルフさんに作ってもらった魔剣ヴィオランテだ。
聖剣なんて使ったら目立つからな。
この程度の魔物なら聖剣は必要ないだろう。
「さあ、早く安全な所まで逃げて!」
オレがそう言うと貴族の人はお礼の言葉を言って離れていった。
ちゃんとお礼を言ってたから傲慢な貴族だけじゃないみたいだな。
「ひぃぃっっ!?」
「た、助けてくれぇっ!!」
怯えた声を出して魔物から逃げ惑っているのは町の衛兵達だった。
魔物とのレベル差があるから仕方無いとはいえ冒険者達と違って情けない姿だ。
ま、見捨てるのもアレだし助けるか。
「鈴牙聖来剣!!」
オレは(聖剣術)を使い魔物を倒した。
せっかく冥王との戦いで覚えたスキルだ。
積極的に使って慣れておこう。
「い、一撃······!?」
「何者だ······あの男は」
魔物に襲われていた衛兵達が呆然とした表情で言う。助けはしたけど関わりたくないので放っておこう。
オレは目に映った魔物を倒しながら貴族地区を駆け回った。
「も、もうこの町はおしまいだ······!」
「俺は逃げるぞっ! こんな所で死にたくない!」
貴族を守っていた衛兵達だが、それを放棄して逃げようとしている姿が見えた。
「お、お待ちなさい! わたくしを見捨てる気ですの!?」
貴族の令嬢がそう叫ぶが衛兵達は彼女を置いて逃げてしまった。
もともとやる気のなさそうな奴らだったからな。
命を賭けてまで職務を全うする気はないのだろう。
ん? あの令嬢······よく見たら先日ウチに来た金髪令嬢じゃないか。
確かマレットという名前だったかな?
マレットは腰が抜けたのか立ち上がれないでいた。
そんな彼女に魔物が迫る。
「グオオアアッ!!」
「ひぃっ!? いやあああっ!!」
当然見捨てるつもりはない。
オレはすぐに助けるために動いた。
ただその時、無意識に例のマスクを手にしていたのに気付かなかった。
(アイラside)
レイと別れて私は貴族地区を襲っている魔物を倒して回っていた。
魔物はトロール系やサイクロプスといった里を襲っていたものと同じ奴らだ。
レベルは90前後、中には100を超えるものも何体かいる。
レイならよほど油断しない限りは問題ないだろう。
私も油断しないように気を引き締めよう。
幸いなことにまだ犠牲者は出ていないようだ。
私はドルフ殿から受け取った魔剣を構えた。
レイのと違い、私のは剣ではなく刀なのだがな。
「はああっ!!」
私は魔物を片っ端から倒して回った。
騎士達の姿があったが魔物から逃げ惑っているだけで人々を助けるのに役立っていない。
一般市民と変わらないな。
「ゴオアアアッ!!!」
ムッ、あそこはマズイな······。
貴族と思われる者達と騎士達が魔物に取り囲まれて逃げられずにいる。
死んではいないようだが何人か魔物の攻撃を受けて倒れていた。
「ガアアアッ!!」
「ぐはっ······!?」
トロールの巨大な棍棒を受けて貴族の青年が倒れた。周りの貴族や騎士達は完全に怯えてしまっている。
今の攻撃を受けた青年は血を吐いて立ち上がれずにいる。
おそらく骨が砕けて内臓をやられている。
「百花繚乱······桜花無双撃!!!」
私は奥義で魔物を蹴散らした。
私が突然乱入したことで周囲の人々が驚いている。
「······あ、なたは······確かアイラと······ゲホッ!!」
青年が私の名を呼ぼうとしたが血を吐き言葉が止まる。この青年······確か次期領主を名乗ったノーマスという人物だったか。
あまり良い印象を感じる人物ではなかったがだからと言って死なれるのは目覚めが悪い。
現領主はこの場にいるのだろうか?
それとも別の場所にすでに避難しているのか?
まあそんなことはたいした問題ではないか。
それよりもノーマスを含め重傷者が何人かいる。
シノブが作ったポーションがあるが一人一人配っていては命の危険がある者もいる。
ここは手っ取り早く魔法を使うか。
「エリアヒール」
私は「聖」属性の魔法を使い怪我人を癒した。
この魔法は私を中心に広範囲に癒しの効果がある。
軽い怪我の者も重傷者も全員が全快した。
「き、傷が······」「温かい光だ······」
これで命の危険は回避できただろう。
「ま、まさか聖女様······だったのか······?」
ノーマスのつぶやきに他の者も同調している。
私は聖女ではないのだが······。
すでに私を聖女様だと拝んでいる者もいて、誤解だと言える様子ではない。
居心地が悪くなってきたので、私は残りの魔物を倒すべくこの場を去った。
後ろの聖女様コールは聞こえないふりをした。