214 クラントールの危機
幻獣人族の里に魔王の手先が魔物を引き連れて侵入してきたらしい。
オレ達は里を襲っている魔物を倒すために動く。
魔物はレベル90~100くらいのトロールやサイクロプスといった大型の魔物だ。
サイクロプスは異世界に来て初めて倒した魔物だ。
聖女セーラやリンと出会うきっかけになったんだったな。
なんだか懐かしい、なんて考えてる場合じゃないな。
里の住人達は数人がかりで魔物一体を取り囲み戦っていた。
戦闘能力に長けた種族だけあって個々の能力だけでなく集団戦闘も得意のようだ。
オレ達が手出ししなくても問題なさそうだな。
「クリムゾンフレイム!」
「ハイブリザード!」
エイミとミールがそれぞれ魔法を放ち、魔物を倒していた。
二人ともレベル400を超えているからな。
この程度の魔物なら心配いらないかな。
シノブとスミレ。
フウゲツさんとユヅキ。
そしてオレとアイラ姉の二人一組で別れ里を襲っている魔物を倒して回る。
オレ達のレベルなら問題ない魔物だが油断は禁物だな。普通に考えてレベル90を超える魔物は強力な部類に入る。
レベル1000を超える冥王と戦ったためかそういう感覚がおかしくなってるんだよな。
この魔物を引き連れてきた魔人とやらは里の中心から少し離れた場所に反応がある。
······この場所は確か神樹グランフォネストがあると説明された所だな。
魔人の目的は神樹なのか?
一体何のために?
まあ、そこにはゲンライさん達が向かっているし魔人が何を企んでいようと問題ないかな。
幻獣人族の里は心配なさそうだが、こんなに魔物が攻めてきて近くのクラントールの町は大丈夫かな?
そう思って探知魔法の範囲を拡げてみたらクラントールにもいくつかの魔物の反応があった。
こっちに比べれば魔物の数は少ないが向こうは冒険者や衛兵のレベルが精々20~30だった。
むしろこっちよりも事態は深刻なんじゃないか?
レベル90超えの魔物を複数は厳しいだろう。
クラントールにはエンジェやディリー、アトリ、それに何人かのメイドさんが留守番をしている。
エンジェ達なら心配いらないと思うが町の住人達はマズイんじゃないだろうか?
クラントールには来たばかりで特に親しい人はいないけど······見捨てるのは目覚めが悪すぎるな。
「アイラ姉」
「フム、クラントールにも魔物が向かっているのか」
オレがそう言ってアイラ姉も探知魔法で事態を把握したようだ。
ここはオレ達がいなくてもどうにでもなるだろう。
クラントールには転移魔法で一瞬で行ける。
アイラ姉もクラントールに向かうべきと判断した。
「シノブ! 私とレイはクラントールの魔物を倒しに向かう。何か不測の事態が起きたらすぐに報せろ」
「了解でござる!」
里の魔物はシノブ達に任せてオレとアイラ姉の二人でクラントールに向かうことにした。
オレもミールに念話で事情を説明した。
―――――というわけでオレ達はクラントールに行ってくる。何かあればすぐに連絡をして。
―――――わかりました。こちらはワタシ達に任せてください。
こういう時に念話は便利だ。
大丈夫だとは思うが何かあればミールから連絡が入る。
オレとアイラ姉はすぐに転移魔法でクラントールに向かった。
結界の中からでも転移は普通に発動するようだ。
クラントールの入り口に転移した。
町の入り口の門はすでに魔物に破壊されて粉々だった。見張りの門番の姿もないな。
まずはこの町にあるオレ達の家に向かう。
道中の魔物を倒しながらだ。
冒険者達が魔物を食い止め、一般人達を避難させているようだ。
冒険者に指示を出すギルドマスターのゴウエンさんの姿が見えた。
「ギルドマスター殿、無事か!」
「おおっ、お前達も来てくれたか! 助かるぜ」
アイラ姉が声をかけ、ゴウエンさんが応える。
ゴウエンさんのレベルは62。
町を襲う魔物の平均レベルは90だからかなりキツイ戦いだったはずだ。
「くかかっ、ここは心配いらぬぞ。我がマスターよ」
エンジェが魔物を倒し、こちらにやってきた。
ディリーとアトリ、メイドさん達の姿もある。
どうやら冒険者達に協力して魔物と戦っていたようだ。
「彼女達が協力してくれたおかげでどうにか戦えてたんだ。お前さんらの仲間なんだろ? まったくすげえ嬢さん達だぜ」
ゴウエンさんが言う。
正確には嬢さん達ではないんだけど。
なるほど、エンジェ達が冒険者達を助けていたからたいした怪我人もなかったのか。
冒険者達もギルドで絡んできた時はあまり良い印象はなかったけど格上の魔物相手に逃げずに戦い一般人を守っていた。
ちょっと見直した。
「······それにしても一体何が起きてるんだ? こんな強力な魔物が群れで現れるなんてよ。お前さんらは何か知らないか?」
「いや、私達も詳しいことはわからない。こういう事態は初めてなのか?」
「当たり前だろ。レベル90超えの魔物が群れで現れるなんて異常すぎるぜ」
ゴウエンさんの問いにアイラ姉が答える。
オレ達も詳しいことは何も知らないので嘘をついてはいない。
それにしても確かにサイクロプス一体でも小さな町なら壊滅の危機になる魔物だったな。
「町を守るはずの騎士は何をしているのだ?」
アイラ姉が言う。
魔物と戦っているのは冒険者だけで町の衛兵の姿はない。
「一般地区は無視して貴族様を守ってるようだぜ? もっとも腰抜け騎士共がこんな魔物相手にまともに戦えてるとは思えねえがな」
ゴウエンさんが吐き捨てるように言った。
衛兵は貴族の住む地区を守っているのか。
あのやる気のなかったり傲慢だったりの衛兵がまともに戦えてるとはオレも思えないな。
アイラ姉もそう思ったようだ。
「レイ、貴族の住む地区とやらに向かうぞ」
アイラ姉の言葉に頷く。
次期領主とかあまり良い印象はない奴らだけど見捨てるのはさすがにないな。
「エンジェ、ディリー、アトリ。一般地区は任せたぞ。誰も犠牲者を出さないようにしてくれ」
「うむ、任せよ我がマスターよ」
「はいですです! ディリーにお任せあれ」
「了解しました。マスター様」
ここはエンジェ達に任せてオレとアイラ姉は貴族の住む地区に向かうことにした。