25 セーラとリンの訪問
オークキングの脅威が去ったことでアルネージュの町全体が喜びに湧いていた。
危険度Aという事態をほとんど被害を出すこともなく乗り切れたのだ。
犠牲者が出なくて本当によかった。
それから数日は平穏に過ごした。
今日はアイラ姉はシノブを連れて子供達を鍛えている。グレートオークくらいは簡単に倒せるようにするつもりらしい。
だから今日はシノブも連れて行った。
アイラ姉とシノブのスキルを合わせて獲得経験値20×10=200倍だ。
シノブがいる分いつもの10倍効率良くレベル上げが出来るだろう。
オレは一人で留守番だ。
なんか色々ありすぎて元の世界に帰る方法を全然探せていない気がする。
もうこの世界に来て1ヶ月以上だ。
さすがに向こうでは夏休みは終わってるな。
そんなふうに色々考えながら適当に過ごしていると、入り口の方から人の気配がした。
どうやら来客のようだ。
玄関がノックされる。誰だろうか?
そう思って出てみると来客はセーラとリンだった。
今日は二人だけで他に護衛の騎士とかはいない。
「こんにちはレイさん、今日は先日のお礼に参りました」
セーラがお辞儀して言う。
そういえば護衛の報酬をまだもらってなかったっけ。玄関で立ち話もなんだし中へ入ってもらう。
とりあえずはオレ達も三人が共同で使っている休憩室に招いた。
それなりに広く、テーブルやイスもあり、色々な本を置いているのでよく暇つぶしに利用している部屋だ。
「今日は護衛の騎士はいないの?」
「セーラ様は彼らに黙って抜け出してきたのです。神殿の瞑想室に入っていることになっていますから気付いてはいないでしょう」
オレの問いにリンが答えた。
おいおい、いいのかそれ?
聖女がいないことに気付いたら大騒ぎになるんじゃないか?
「ふふっ、失礼ですけど彼らがいると自由に動けませんから」
セーラがいたずらっぽく笑う。
なかなか行動力のある聖女様だな。
「アイラ姉とシノブは今出かけたばかりだからしばらく帰らないと思うけど」
「······レイさんしかいないんですか」
オレの言葉を聞いてリンがボソッとつぶやく。
男のオレしかいないのは嫌だったかな。
「とりあえず飲み物でも持ってくるから適当に寛いでて」
「そんなに気を使わなくてもいいのですが······」
「いいからいいから、大した手間じゃないし」
遠慮するセーラにちょっと強引に言う。
キッチンに行って適当に探す。
そういやお茶とか作ってなかったな。
ならこの前作ってたフルーツジュースでいいか。
後はオヤツ用に作ってたポテトチップスにデザート用のプリンでも持っていくかな。
色々選んでいる内に少し時間がかかったかな。
戻ってみるとセーラとリンは部屋に置いていた本を夢中で読んでいた。
あれはオレが(素材召喚)スキルで出した漫画だ。
何故かスキルで向こうの世界の本を召喚できたのだ。
漫画だけでなくオレが見たことのある本ならなんでも召喚できるようだった。
ちょっとチラッと見ただけの物でも召喚できるので重宝している。
欠点は見たことのない新作などは召喚できないことだが、もっとレベルが上がれば召喚できるようになるかな?
というか本って素材だっけ?
素材とは違う気はするんだがまあ召喚できたんだからいいか。
今までは出せなかったんだが、レベルが300を超えたら召喚できるようになったのだ。
スキルの力はレベルが関係あるのかな?
まあそんなことは今はいいか。
セーラとリンが読んでいるのは女性向けのいわゆる少女漫画だ。
············二人とも夢中になってる。
あれはアイラ姉とシノブ用に召喚したものだ。
オレはチラッと見たことあるだけでそこまで興味はないんだよな。
やっぱり冒険ものとかバトルものの方が好みだしね。